第27話
第27話
"罠"
20体は居る患者の中の1体に、ゆっくりと歩み寄っていく葵。
患者は当然、葵に掴み掛かろうとしたが、素早く腕を取られ、見事な一本背負いを決められた。
その際に巻き込んで転倒させた患者には、右手に拳を作り、顔面に強烈な一撃をお見舞いする。
その患者が動かなくなった事を確認すると、葵は不気味な笑みを浮かべて両手の指を鳴らしながら、患者の集団の中に自ら歩いていった。
必然的に、囲まれる葵。
葵は自分を取り囲んでいる患者を見回した後、突然、正面に居る患者の首を鷲掴みにして、こう呟いた。
「…さっさと掛かってきなさい。纏めて面倒見てあげるわ」
掴んでいる患者の顔面を勢い良く地面に叩きつけたのと同時に、辺りの患者は一斉に葵に襲い掛かる。
葵は襲い掛かってきた大量の患者の内の1体に手を掛け、その患者を飛び越えて、患者の集団の一斉攻撃を回避した。
突然敵の姿を見失って背中を向けている患者に、後ろ回し蹴りを入れる葵。
その攻撃に大半の患者が巻き込まれ、転倒した。
葵は転倒した患者には手を付けず、巻き込まれなかった患者の1体に近付いていき、頭を掴んで別の1体の頭に勢い良くぶつける。
頭に強大な衝撃を受けた2体の患者は、その場に崩れ落ちてそのまま動かなくなった。
葵は立て続けに別の患者に低姿勢で急接近して、その患者の顎にアッパーを入れる。
その攻撃をまともに喰らった患者は派手に吹っ飛び、近くに居た患者を巻き込んで転倒する。
巻き込まれた患者が立ち上がろうとしたが、その前に、葵が跳躍して顔面に拳を打ちつけた。
立て膝をついている体勢の葵は、立ち上がらずにそのまま左手側に居る患者を右足による水面蹴りで転ばせる。
それだけでも、後頭部の強打が致命傷となったが、葵は完全にトドメを刺す為、顔面を踏みつけた。
靴の裏についたべとつく血を地面で拭い、辺りを見回して次の獲物を探す。
葵が目を付けたのは、最初に転倒させた、立ち上がっている最中の患者であった。
葵は患者が立ち上がる前に駆けつけて、片っ端から頭部を蹴りつけていく。
首が折れた者、首がもげた者と死因は様々であったが、蹴られた患者は全員が動かなくなった。
「さて…。もうひと頑張りね…」
首を回してほぐしながら、残りの患者に近付いていく葵。
残っている患者は、どことなく怯えているようにも見えた。
そんな様子にもお構いなしに、葵は1体目の患者の顎と頭の先に手を添えて、一気に折り曲げる。
そのまま、近くに居たもう1体の患者も同じように首を有り得ない方向に向けて絶命させる。
すると、残りの患者の内の2体が、葵の背後から彼女に襲い掛かった。
葵は振り向き様に、1体の患者の顎を掌底で押し出すように殴りつけ、もう1体の患者は足を引っ掛けて転倒させ、後頭部を踏みつける。
掌底を喰らった患者は倒れた時の衝撃と頸椎が折れた事により絶命し、踏みつけられた患者は頭の中の内容物を地面に撒き散らして、そのまま動かなくなった。
そして、葵は最後の1体に歩み寄っていく。
患者は彼女に襲い掛かったが、彼女に手が触れる寸前に、目にも留まらぬ速さで葵に胸部を殴りつけられた。
患者の肋骨が折れた感触が、葵の手に伝わってくる。
「うふふ…。全滅ね」
葵の元に集まった患者は全員、武器を持っていない彼女1人に仕留められた。
「流石ですね…」
葵の戦闘を目の当たりにし、改めて感嘆した晴香が風香と共にやってくる。
「まだまだ、武の頂点には程遠いわ」
「一体何を目指しているんですか…?」
その時、近くの路地から、ぞろぞろと別の患者の集団が現れた。
「あら、良い所に来たわね」
「良い所って…どういう意味なんですか…?」
「今の数じゃあ、ちょっと足りてなかったのよ」
「えぇ…」
困惑する晴香を傍らに、自ら患者の集団に突っ込んでいく葵と風香。
晴香はそんな2人について行けず、呆れたように溜め息を吐いて、戦闘には参加せずに辺りを見回し始めた。
「(ここは…美術館通りって場所なのね。和宮町には美術館無かったから、ちょっと羨ましいかも。…と言っても、こんな状況じゃ関係無いか)」
美術館がどこにあるのかを、探し始める晴香。
美術館は、彼女達が居る場所から、そう遠くない場所にあった。
「(結構おっきいんだ。あまり詳しくはないけど、ちょっと気になるかも…)」
その時、晴香が見ていた美術館の2階にある部屋の窓ガラスが突然割れる。
そしてそこに、茜と思われる人物が見えた。
「茜さん…!?」
思わず、彼女の名前を口に出す晴香。
葵と風香はその名前が聞こえたらしく、晴香の元に戻ってきた。
「今、生意気で貧乳で可愛げの無い女の名前を言わなかった?」
「違うよ。生意気で貧乳で変態でレズで気持ち悪い女の名前だよ」
「あら、そうだったわね。間違えちゃったわ」
「ダメだよ間違えちゃ」
「………」
「それで、茜がどうしたの?」
葵の切り替えの早さに少々驚きながら、晴香はさっき見た事を話し始める。
「えーと…。今、そこにある美術館の2階に、茜さんが見えたような気がしまして…」
「美術館に?あいつ、そんな趣味あったかしら…?」
「違うんです。…その時ガラスが割れたんで、恐らく、何かと交戦してるんだと思います」
それを聞き、葵と風香は真剣な表情になって美術館の方を見た。
「何かと交戦…あいつが?」
「恐らく…。でも、茜さんは、楓さんと凛さんと一緒に居るハズです。1人という事は無いと思いますけど…」
「なるほどね…」
背後から近付いてきた患者を裏拳で殴り倒し、葵はその場から歩き出す。
「全く、世話のかかる妹ね…。行きましょう」
風香も去り際に患者を1体撃ち殺し、葵についていく。
晴香は、どことなく嬉しそうな様子で、葵を追いかけた。
「(やっぱり葵さん。本当は心配してるんだ…)」
その頃…
「お、早かったね」
「近かったの。ここから電話した時に居た場所がね」
町の中心部にある市役所にて合流した、大神姉妹、歩美、紗也香の4人と、梨紗、彩、亜莉紗の3人。
合流する場所を市役所に指定したのは偶然であったが、市役所には、彼女達の興味を引く物があった。
「さて…。どうするよ?」
市役所の前に転がっている、大量の患者の死体を見て一同にそう訊く結衣。
「誰かが居たという証拠ね。全員、頭を撃ち抜かれてるわ」
死体の傷口を見て、歩美がそう言った。
「行ってみる?…と言っても、"行かない"という選択肢は無いように見えるけど」
「わかってるねぇ、そこの姉さん」
結衣と彩が先陣を切って、市役所の中に入っていく。
「好奇心で動くのは止めてもらえませんかね…。雪平さん…」
「激しく同意しますよ…。姉に対してですけど…」
続けて、梨紗と玲奈も市役所の中へ。
「全く…。バカな奴ばかりね」
「と言いつつも、心配している明美さんでした」
「…死にたい?」
「すみませんでした」
「(弱っ…)」
「(弱っ…)」
残った歩美、亜莉紗、紗也香、恭香の4人も、市役所の中に足を踏み入れた。
そんな一同の様子を、隣の建物の屋上からずっと見ていた人物が1人。
「うふふ…。あなた達は、生き残る事ができますかね…?」
その人物とは、茜達にD-03の相手をさせ、美術館から出てこちらの様子を見にきた明美だった。
彼女は不気味な笑みを浮かべながら、何かを取り出す。
それは、市役所の中に設置してある、プラスチック爆弾の起爆スイッチだった。
「さぁ、スタートですよ。皆さん」
一同全員が市役所の中に入った所で、明美が起爆したプラスチック爆弾が爆発する。
爆発は一同が居る場所で起きたものでは無かったが、爆発の影響で建物の防犯装置が作動し、入口が防犯シャッターで塞がれ、一同は市役所の中に閉じ込められてしまった。
「…罠だったようね」
手持ちの武器では到底破る事などできそうにもない防犯シャッターを触りながら、苦笑を浮かべる彩。
「…来るわよ」
歩美のその言葉で、一同は全員が正面に体を向けた。
一同が来るのを待っていたかのように現れたのは、見覚えがある個体から、初めて目にする個体などを含めた大量の兵器達。
兵器達は皆、今にも彼女達に襲い掛かろうとしていた。
「なるほど。穏便に済ます事は無理みたいね」
先頭に歩み出て、気だるそうに首を回す彩。
「当たり前でしょう。できたら苦労しないわ」
手に持っているデザートイーグルの弾倉を抜き取って残弾数を確認しながら、彩の隣に歩いていく歩美。
「…あんた、こんな状況でも素手で戦うつもり?」
いつの間にか愛嬌のようなものが生まれた自分の銃、M14EBRをしっかりと両手に持ちながら、隣に居る恭香にそう訊く梨紗。
「いえいえ。流石に今回は、銃を使わせて頂きますよ?」
いつの間にか、梨紗が持っていたハズのハンドガンを手にしている恭香。
「まるでボスラッシュだね…。面白くなってきたじゃないの!」
心底楽しそうな様子で、2丁拳銃を器用に回しながら取り出す結衣。
「…どさくさに紛れて、どっかに隠れてようかな」
姉とは違って乗り気では無いが、2本のナイフを握り締め、既に臨戦態勢の玲奈。
「…え?みんな、マジでやるの?」
一同の一番後ろで、目の前の光景に圧倒されている亜莉紗。
「信じ難い事ではありますが、やるしかないみたいですよ。…とは言え、私も退く気は微塵もありませんがね」
亜莉紗の隣で、アサルトライフルの予備弾倉を取り出しやすいポケットに移している紗也香。
一同に、殲滅以外の選択肢は無かった。
「一応言っておくけど、作戦なんて無いわ。各自、気の向くままに、自由にやりなさい」
歩美の言葉を聞き、一同は各々、適当な兵器に目を付ける。
そして、兵器側の先頭に立っている個体が雄叫びを上げながら走ってきた事が開戦の合図となり、一同と兵器の総力戦が始まった。
第27話 終




