第24話
第24話
"一難去って"
その頃…
榊原高校の校庭に居た捕食者の集団から、商店街へと逃げ込んだ大神姉妹と明美と紗也香。
しかし、商店街には更に多くの敵が待ち受けていた。
「…ここも、安全とは言い難いですね」
一同が避難した安全だと思われた本屋の中でも、2体の患者が死体に群がっている。
もはやこの商店街に、安全な場所は存在していなかった。
「…藤堂さん?どうしたんですか?」
こちらにはまだ気付いていない2体の患者を監視している紗也香の元に、玲奈がやってくる。
「玲奈さん。ここにも敵が居ます」
「…みたいですね。ここは任せてください。銃声はまずいですので」
「お願いします」
銃を下ろして後ろに下がる紗也香。
玲奈はナイフを2本取り出し、患者の元へ歩いていった。
歩み寄ってきた玲奈に気付いた患者は、顔を上げて立ち上がろうとする。
しかし、患者が立ち上がる前に、玲奈が2本のナイフをハサミのように交差させ、首を切断した。
もう1体の患者は玲奈に気付く事も無く、蹴り倒されて頭を踏み潰される。
「ふぅ…」
玲奈はナイフをしまって、辺りを見渡した。
「敵はもう居なさそうですかね」
「確認できたのは今の2体だけです。…それにしても、流石ですね。大神姉妹は」
「………」
褒められて恥ずかしくなった玲奈は、そっぽを向いて結衣達が居る方へ戻っていく。
その時、店内のどこかから、ガラスの割れる音が鳴り響いた。
「今のは…?」
「こちらから聞こえました。行ってみましょう」
「はい」
紗也香を先頭に、音が聞こえた方へ向かう2人。
そんな一方、入口付近で敵が侵入してこないかを見張っている結衣と明美の方でも、問題が発生していた。
「まずいわね…。扉を破ろうとしてるわ…」
扉の向こうで患者が扉を叩いている音を聞き、舌打ちをする明美。
「どうしましょう…。結衣、何か良い考えはない?」
「………」
「…結衣?」
明美が結衣の方を見てみると、彼女は近くの本棚にあった本を手に取って、それを黙読している所だった。
明美は無表情のまま、近くにあった空き瓶を彼女の足元に投げつけて割る。
「うおぉッ!?びっくりしたーまじでー…」
「こんな時に一体何を読んでいるのかしら…?」
「羅生門」
「…あんた意外と渋いわね」
「そう?とりあえずこれ読み終わるまで話し掛けないでね」
「…次は頭に投げてあげるわ。行くわよー」
「わあああッ!?待った待った!わかったわかったわかったよもう!」
その時、患者の腕が扉を突き破り、バリケードとして置いてある本棚の間に飛び出てくる。
2人は同時に銃を構えて、警戒した。
「限界みたいね…」
「どうすんのさ?玲奈達呼んでくる?」
「そうして貰えるかしら」
「了解」
店の奥に入っていく結衣。
明美は今にも壊れそうな扉に銃を向けながら、こう思っていた。
「(さぁ…あと何秒持つかしら…?)」
「玲奈ー。紗也香ちゃーん」
「…結衣姉?どうしたの?」
立ち止まって、現れた結衣に顔を向ける玲奈と紗也香。
「緊急事態発生ってね。とりあえず、戻ってきてくれると嬉しいな」
「良いけど…。今、こっちの方からガラスの割れる音が…」
玲奈が言葉を言い切る前に、正面の倉庫と思われる部屋から、1体の捕食者が現れた。
「なるほど、裏に回ったワケか…」
「感心してないで、どうするの?」
「恐らく、回り込んできたのは1体だけじゃないハズ。急いで明美の所に戻ろう」
引き返す3人。
同時に、明美が居る方から、銃声が聞こえてきた。
「ちぇ…。思ったよりも早かったな…。急ぐよ!」
3人は、狭い通路を走って戻っていった。
「戻ってきたわね。早速で悪いのだけれど、加勢しなさい」
「む、迎え撃つ気ですか…?」
「その時が来るまで…ね」
「はぁ…」
明美の意図が全くわからない紗也香。
大神姉妹の2人は、明美に言われる前から既に交戦を始めていた。
「意外と少ないね。盲目の野郎のお陰かな?」
「その盲目の野郎がこっちに気付いたら、もっと面倒臭い事になるけどね」
「…確かに」
次々となだれ込むように侵入してくる患者と捕食者。
状況はしばらく一進一退を繰り返していたが、結衣が銃の再装填を行った時、不運な事態に見舞われた。
「ちっ…」
「弾が…」
明美と紗也香の銃も、丁度弾切れとなってしまった。
「…嘘でしょ?」
突然、射撃要員が1人も居なくなってしまった事に苦笑する玲奈。
当然、歯止めが無くなった事により、敵は一斉になだれ込んできた。
「………」
危機的な状況である事は明白だというのに、余裕そうに小さく笑いながら、目の前の敵を見回す明美。
そして彼女は、銃をしまった。
「キング…?何を…」
紗也香が訊く前に、明美は敵の集団に向かって走り出す。
「お、楽しそうな事が始まる予感!」
それを見て、結衣も銃をしまい、彼女に倣って走り出した。
「ちょ…!結衣さん…!?」
「大丈夫です。いつもの事です」
困惑している紗也香に、玲奈がそう教える。
「いつもの事…ですか?」
「はい。まぁ見ててください。休みながら」
「はぁ…」
玲奈にそう言われたものの、紗也香は念の為銃構えたまま、2人の行動を観察した。
2人の内、最初に患者に技をかけたのは、一番先に走り出した明美。
彼女は、一同の誰かが撃った銃弾が足に当たって立て膝をついている患者の膝に走り様に飛び乗り、そのままの勢いで患者の顔面を膝で蹴りつけた。
着地した際に、背後から患者が迫ってきたが、その患者の顔面を左足で突くように蹴りつける。
そして右手側に居る患者には、右足を左手側に大きく振り上げて、患者の首にハイキックをお見舞いした。
「久しぶりに動くと…体が痛むわね…」
首や肩をだるそうに回す明美の元に、患者を殴り飛ばしながら結衣がやってくる。
「無理するなよ。もう若くないっしょ?」
「失礼ね…。これでもまだ…」
「何歳?」
「に、二十代よ…」
「へー」
気を抜いているように見える2人。
しかし、その時襲い掛かってきた患者には素早く反応し、2人で同時に挟み込むように首を蹴りつけて仕留めた。
「明美」
「何?」
「…何歳?」
「その話はもう終わったわ。さっさと戦いなさい」
「ちぇ…」
その時、先程逃げてきた狭い通路の方から複数の捕食者が現れ、同時に、店内の窓が割れ、そこからも捕食者や患者が侵入してきた。
「おっと…流石に相手にしきれないね、こりゃ」
苦笑を浮かべて、明美と共に玲奈と紗也香の元へ、後ずさるように戻っていく結衣。
「そうね。逃げるわよ」
「どこから?」
「窓からよ」
そう言って、明美は近くの窓を蹴って割り、そこから飛び出した。
「早くしなさい。喰われるわよ」
「破片…大丈夫?」
敵が迫ってきているというにも関わらず、鋭利なガラスの破片に躊躇する結衣。
「心配性ね。死にはしないわよ」
「痛いの嫌い」
「じゃあ喰われなさい」
「つめてーなー…全く…」
結衣は縁に触れないように、空中で大袈裟な回転をして店内から脱出した。
紗也香は手を触れないよう、足を上げて飛び越えるように窓から出る。
「…あ、そうだ」
残った玲奈は何かを思い付いて、近くにいた患者の胸倉を掴む。
そして、その患者の顔面を、窓の鋭利なガラスの破片に押し付けた。
玲奈は患者の頭に手を掛けて、窓を飛び越える。
「ご苦労さん」
そう言って、玲奈は頭を蹴りつけた。
「そこまでしなくても良いんじゃないか…?我が妹よ…」
無残な事になった患者の顔面を見て、思わず苦笑する結衣。
「慈悲なんて無駄なだけ」
「(玲奈ってこんなに冷酷だったかな…?まさか、こいつに影響されて…)」
「…どうして私を見てるのよ?」
「純粋無垢な私の妹を返せー!」
「は、はぁ…?」
明美は結衣の謎の急変に困惑した。
「ここには敵、居ませんね」
本屋から脱出した一同が現在居る裏路地には、患者及び捕食者の姿は見えない。
玲奈がそれを口に出したが、その直後、商店街へ続く道の先から、D-09現れた。
その姿を見て、警戒ではなく安堵する結衣。
「何だ、あいつか。静かにしてれば問題ないね」
「えぇ。こっちに進めば商店街から離れられるハズよ。行きましょう」
歩き出す明美。
玲奈、紗也香、結衣と続いたが、一番最後に歩き出した結衣が、転がっていた空き缶を踏みつけてしまった。
「あ、いけね」
その瞬間、背後からD-09が走ってくる音が一同の耳に入る。
「あーもう…!逃げるわよ!」
明美は忌々しそうに舌打ちをして走り出した。
「結衣姉ってさ」
「ん?」
「ホントにイラつくね」
「!?」
一同はD-09と、本屋から出てきた患者や捕食者から逃げるように、商店街を後にした。
第24話 終




