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第22話


第22話

"3日間の収穫"


「さて…何から聞きたい?」


「せやな…」


他の一同とは少し離れた場所で、ベンチに並んで座っている葵と楓の2人。


「捕食者作ったんは誰なんや」


「あら、いきなり大きい質問ね…」


「答えんかい」


「うふふ…そう焦らないの。…とは言え、私も詳しい事まではわからないけどね」


「はぁ?そら一体どういう事や」


「名前は知ってるけどね」


「名前だけ知っても何の意味もあらへんわ。…そしたら、別の事を話してもらうで」


「うふふ…名前を聞いたらきっと驚くと思うけど?…まぁいいわ。それじゃあ、綾崎梨紗の殺害の依頼について…なんてどう?」


楓は訝しげに、横目で葵を見た。


「…葵さんも受けたんか?」


「いいえ、私は受けてないわ」


「…何で知っとるんや」


「うふふ…。3日間、私が遊び回っていたとでも思ってるの?」


「3日間?葵さん、ずっと赤城の奴と一緒に居たんか?」


「えぇ。その点についても、話しておこうかしら」


「聞かせてくれや。茜さんと赤城の妹は、それが理由でこの町に来たらしいさかい。説明せなあかんで」


「そうね…。3日前の夕方…6時頃だったかしら…」



一方、晴香達の方もふざける事を止めて、話を始めていた。


「バイトが終わって帰ろうとしたら、葵さんが店の外に居て、私を待っていたんです」


「ストーカーか何か?」


「違います…」


茜の冗談に、晴香は呆れたように返答を返す。


「待っていたって、どういう事?」


風香に質問された晴香は、一呼吸置いてから話を始めた。


「それは…」



3日前…


『手伝ってほしい事…ですか?』


『えぇ。榊原町って、知ってる?』


『名前だけは聞いた事ありますけど…。その町がどうかしたんですか?』


『その町で、和宮町の時のような惨劇が起きるかもしれないのよ』


『え…!?』


『確証は無いけど、恐らく、そうなると思うわ』


『恐らくって…。すみません、何がなにやら…』


『…今その町に、明美が居るの』


『!』


『わかるでしょう?奴が居る場所は、いつもいつもロクな事にならないわ』


『…確かに』


『危険な目に遭う事は明白だと思う。…それでも、あなたに手伝ってほしいの』


『待ってください。どうして私なんですか?』


『それはね。…たまたまなの』


『…はい?』


『大神姉妹や楓ちゃん、凛ちゃん達は行方がわからないし、茜や風香ちゃんにこの話をしたら、当然他の人にも話が伝わっちゃうでしょ?』


『伝わっちゃマズいんですか?』


『今回はなるべく隠密に動きたいのよ。ほら、何か良からぬ事を企んでいる人間が居たとしたら、気付かれちゃダメでしょ?』


『…なるほど』


『有紀奈や優子も同じ理由で対象外…残ったのは…』


『バイトで部隊の本部から出入りしている私…ってワケですか?』


『そういう事。あなたなら、誰にも知られずに連れ出せるからね。音信不通を不審に思って探しにくるとは思うけど、それまでに事を済ませちゃえば良いだけの話よ。どう?』


『…わかりました。私で良ければ、力になります』


『うふふ…。ありがとうね』



「…といったワケです」


「晴香ちゃん大丈夫なの?変な事されてない?」


「茜さん…何か大きな誤解をしてます…」


そこで、葵と楓の2人が戻ってきた。


「話は晴香ちゃんから聞いたわね?そういう事よ」


「なんてことを…」


「…?」


茜の謎の憤慨に首を傾げる葵に、苦笑する晴香。


「あはは…気にしないでください…」


「そ、そう…?…まぁいいわ。全員集まった所で、本題に入りましょう」


「本題やと?」


楓が言葉を繰り返して訊く。


「えぇ。私達が3日間を通して手に入れた情報の中で、最も衝撃的だった情報よ」


「衝撃的って…一体何なんですか?」


「オモロない話やったら、承知せんで」


そう言った凛と楓の顔を見て、葵は小さく笑った。


「今回あなた達が受けた依頼の依頼主であり、捕食者の制作者である人物の名前…。その名前が、結構衝撃的だったの」


「もったいぶってないで、早く教えてよ」


「そうよ。相変わらず性格悪いわね」


せっかちな風香と茜。


「その人物の名前は…」


次に葵が言った名前を聞き、一同の中で驚かなかった人物は、既に知っている晴香を除いて1人も居なかった。


「沢村明美よ」




一方…


「中々減らないねぇ…。どうなってんだい、こりゃ…」


榊原高校の校庭にて、大量の捕食者と交戦中の、大神姉妹の2人と明美と紗也香。


30分経った現在でも、状況は均衡していた。


「体育館の方から沸いているみたいです。…どうしますか?」


紗也香が、背中合わせになっている明美に訊く。


「そもそも、まともに相手をする必要なんて無いわ。ここは逃げるのが得策よ」


「でしたら…」


そこに、捕食者に跳び蹴りをかましながら、結衣がやってきた。


「そいつは賛同しかねるね。大神姉妹に撤退の2文字は無い!」


「逃亡は?」


「それも無い!」


戦意に溢れている結衣であったが、一緒に戦っている玲奈は乗り気ではないらしく、辺りの捕食者を蹴散らした後、明美と紗也香の元へ行く。


「私は沢村さんに賛同します。この戦い、確かに意味など無いので」


「おい貴様!姉を裏切る気か!」


「うん。頑張ってね」


「そんなにさっぱりと肯定すんなよ!」


すると、明美が正面に居た捕食者を回し蹴りで蹴り倒し、銃をしまって校門の方へと歩き出した。


「やっぱり妹の方が賢いのね。それじゃあ私達は行くから、後は1人で頑張りなさい」


「え、マジで行っちゃうんすか?」


「当然よ。私達は他にやる事があるの。じゃあね」


「明美!明美ーッ!」


結衣を無視して、その場を後にする3人。


「…私を置いてくなぁッ!」


結局、結衣も3人を追いかけて、校庭を出て行った。



「撤退の2文字は無いんじゃなかったの?」


「退却の2文字はあるってね」


「都合の良い辞書だこと…」


榊原高校を後にした一同が向かった場所は、数時間前に梨紗と恭香と彩が訪れた、大量の患者と捕食者が居る商店街だった。


「お、随分と賑やかな商店街だねぇ」


「大人しく買い物をしているようには見えないけどね…」


先程と大して変わらない状況に遭遇し、笑みを浮かべる結衣と、溜め息を吐く玲奈。


「キング、どうします?」


「当然、別の道を通るわ。一々相手になんかしてたら、弾がいくらあっても足りないもの」


「ですよね」


商店街から離れようとする明美と紗也香。


しかし、またしても結衣は、賛同しようとしなかった。


「なーに甘えた事言ってんだ、このとんちき野郎」


「ト、とんちき…?」


「沢村さん、今回ばかりは結衣姉が正しいみたいですよ。非常に遺憾ではありますが」


商店街の中に入る道とは別の道を指差しながら、玲奈がそう言う。


「…どういう事?」


「見ればわかります」


「…?」


玲奈が指差している道の方に顔を向ける明美。


その道からは、商店街の道の方に居る程の数ではないものの、決して少ないとは言えない数の患者が迫ってきていた。


「…引き返しますか?」


紗也香が苦笑を浮かべながら、明美に訊く。


「いえ…。引き返した所で、さっき高校に居た捕食者達と再会するだけよ」


「では、どのように?」


「そうね…」


明美はデザートイーグルを取り出しながら、こう言った。


「正面突破よ」


それを聞き、ニヤリと笑う結衣。


「その言葉、待ってましたよ~?」


「呑気なものね…。正面だけでも、かなりの数だと思うのだけれど?」


「ダメだった時にゃ、くたばれば良いだけさ」


「全く…どうしようも無いわね…」


「バカは死ななきゃ治らない…ってね!」


「はいはい…」


4人は大量の患者と捕食者の群れに、真正面から突撃していった。


先頭の玲奈が道を斬り開いていき、明美と結衣がそれを援護しながら左右の敵を仕留め、背後から迫ってくる敵を紗也香が対処する。


優勢というワケでは無いが、劣勢とも言えぬ状況であった。


「うわー…結構長いね、この商店街…」


まだ半分も到達していない時点で、結衣がそう嘆く。


「そんな事言ったって、もう引き返せないわよ?商店街を抜けるしかないわ」


「それはわかってるっつーの。…ただ、ちょっと予想してなかったトラブルが発生しそうでね」


「…何よ、トラブルって」


明美が顔を正面に向けたまま恐る恐るそう訊くと、結衣は言い辛そうに、普段よりも小声でこう答えた。


「…弾切れそう」


「…は?」


その時、後方を担当していた紗也香が、突然発砲を止める。


「…キング、D-09です」


「…何ですって?」


半信半疑で、振り向く明美。


紗也香の言葉に間違いは無かった。


「ちっ…。このタイミングで…」


舌打ちをして、辺りを見渡す明美。


幸いな事にD-09は盲目なので、発砲を止めた一同にはまだ気付いていなかった。


「一旦隠れるわよ。奴に気付かれたら面倒臭いわ」


「あんな奴、軽く捻っちまえば良いんじゃねぇの?」


余裕の笑みを浮かべながら、指を鳴らす結衣。


「倒す事は容易だわ。でも、利用したいのよ」


「利用?」


「えぇ。奴には例外を除いて、敵味方の区別が無いわ。上手くいけば、ここに居る患者と捕食者を一掃してくれるかも」


「…上手く行くんですか?それ」


玲奈の言葉に、明美は一切迷わずにこう訊き返した。


「D-09を含めた大群を相手にするよりは、可能性に賭けた方が良いと思うのだけれど?」


「…わかりました。ここは従います」


「賢い選択よ」


「明美。隠れるっつっても…どこに隠れるつもり?」


結衣が寄ってきた患者を、音を立てないように首を折って仕留めながら訊く。


「そこの店に隠れましょう。敵影がないわ」


明美が指差した本屋と思われる店の中には、確かに彼女の言葉通り、患者や捕食者の姿は見当たらなかった。


「決まりだね。行こうか」


「…あなたが私の指示に素直に従うなんて、ちょっと驚いたわ」


「お前の指示じゃない。私も同じ事を考えてただけなの」


「さっきは戦う気満々だったのに?」


「う、うるせぇなお前!いいから行くぞこの野郎!」


「(わかりやすい奴ね…)」


明美は他の3人にバレないように小さく笑った後、先行した3人を追って店の中へと入っていった。



「敵影無しです」


「こちらも同じく」


先に店の中に入った紗也香と玲奈が、敵影が無いかを改めて確認する。


遅れて入ってきた結衣と明美は、敵が入ってこないように素早く入口の扉を本棚で封鎖した。


「これでしばらくは持つかね?」


「持って5分よ。…まぁ、敵が少なければ、もう少し持つとは思うけど」


「大丈夫。私、運は良い方だから」


「大した自信ね…」


ひとまず安全な場所に逃げ込めた一同は、それぞれ一息つく。


しかし、それも束の間の事であった。


第22話 終




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