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第21話


第21話

"真実の追求"


その後、一同が乗ったバスは、離れた場所にある別の町、白波町に到着した。


順にバスから降りていく一同の中、彩以外にも、降りようとしない人物が1人。


「…梨紗ちゃん?降りないの?」


その人物は、梨紗だった。


彩が気付いて呼び掛けるが、彼女は俯いたまま何も言わない。


しばらくすると、彼女はゆっくりと顔を上げて、彩にこう言った。


「…雪平さん。私、知りたいんです」


「…何を?」


「私を殺そうとしているのは誰なのか、そして、何故殺そうとしているのかを…。…知りたいんです」


それを聞き、眉を顰める彩。


「どうして知りたいの?」


「…信じられなくて」


「…?」


「私は…なるべく人に迷惑を掛けないように、今まで生きてきたつもりです。当然、殺されるような恨みを買った事なんて、心当たりがありません」


「断言できるの?」


「できます」


梨紗は即答した。


「だから、私を殺そうとしている人物に会って、理由を訊きたいんです。…そして、謝りたい」


「謝りたい?」


「だって、私を殺したいと思うって事は、私に恨みを持っているって事じゃないですか。…心当たりは無いけど、それが何なのかを聞いて、私はその人に謝りたい」


「…そう」


彩はしばらくの間、梨紗の目を見つめる。


梨紗は一瞬たりとも、彩の視線から目を逸らさずに、見つめ返し続けた。


しばらくして、彩は梨紗から目を逸らし、大きな溜め息を吐く。


そして、諦観したように、こう言った。


「…わかったわ。乗って行きなさい」


「…ありがとうございます」


深く、頭を下げる梨紗。


すると、そのやり取りを見ていた真希が、慌てた様子でバスの中に戻ってきた。


「正気か?お前、またあの町に戻るっていう事がどういう事なのか…」


「わかってます。…それでも知りたいんです。ご忠告、ありがとうございます」


梨紗はもはや、聞く耳を持っていない。


そんな彼女の強い意志に気付いた真希は、彩と同じように、彼女を止める事を止めた。


「…どうやら何言っても無駄みてぇだな。よし、行ってこい」


「はい…!」


梨紗に微笑みかけて、バスから降りる真希。


すると、今度は恵美がやってきた。


「梨紗…本気なのか…?」


「えぇ。ここで降りたら、私はきっと後悔する。…そんな気がするの」


「…そうか。まぁ、ボクに止める気は無い。気をつけてね」


「ありがとう、恵美」


「…1つだけ、良いかな?」


バスから降り掛けて、足を止める恵美。


「何?」


「美由ちゃんには…何て説明するんだ?」


「…呼んできて」


「…わかった」


恵美はバスを降りて、美由の元へと向かった。


「美由ちゃん、どう思うのかしらね」


ハンドルにもたれかかるように寝そべって前を見たまま、彩が呟くようにそう訊く。


「美由は…強い子です。きっと、わかってくれます」


「…うふふ。だと良いわね」


彩がそう言ったのと同時に、美由が現れた。


「梨紗お姉ちゃん…」


「美由…。少しの間、お姉ちゃんとお別れよ」


「………」


泣きそうな表情になる美由。


「…そんな顔しないで。絶対に、生きて帰ってくるから。…ね?」


「…絶対に、絶対にだよ?」


「勿論よ。あなたを置いて死んだりなんかするもんですか」


「…本当に?」


「えぇ。約束するわ」


梨紗はそう言って、美由の前に小指を差し出す。


美由は目元を服の袖で拭い、笑顔を浮かべて梨紗の小指に自分の小指を絡ませた。


「約束だよ!」


「…うん」



「…さてと、それじゃあ真希。生存者達の事は任せたわよ」


「おう。とりあえず、この町に居る友人の所に邪魔してみるよ。…こっちの事は心配すんな」


「…ありがとう。じゃあね」


「あぁ、またな」


軽く拳をぶつけ合う彩と真希。


「それじゃあ、行ってくるね」


「あぁ。絶対、生きて帰ってこいよ」


「気をつけてね…」


「…ありがとう」


梨紗も恵美と美由との挨拶を済ませた所で、バスは発車した。


その場に残った一同は、バスが走り去った後も、しばらくそちらを見続ける。


「姉貴」


「何だ」


「…無事に帰ってきてくれたら良いな」


「帰って来るさ。あいつらなら、きっと…な」


一同は真希を先頭に、夜闇に包まれた静かな町の中を歩き始めた。




その頃…


「どこに居るのよー…」


楓や大神姉妹に綾崎梨紗の殺害を依頼した人物を、探し回っている茜達4人。


探し始めて1時間が経過したが、手かがりは一切見つからなかった。


「もうこの町には居ないんじゃないの?だから帰ろうよ」


そう言った風香を、茜が説得しようとする。


「いえ、でもどこかに居るハズよ」


「帰ろうよ」


「それに、晴香ちゃんの行方の手がかりにもなるかもしれないわ」


「帰ろうよ」


「絶対に見つけるまで帰らないわよ…」


「帰ろうよ」


「どんだけ帰りたいのよ!」


その時、風香の携帯が鳴り出し、全員の視線が彼女に集まった。


「………」


何も言わずに、携帯を開く風香。


画面に、晴香の名前が表示されていた。


「お姉ちゃん…!」


予想だにしていなかった人物からの着信に、風香は思わず大きな声が出る。


応答ボタンを押して携帯を耳に当ててみると、すぐに晴香の声が聞こえてきた。


『えーと…。まず、色々と心配掛けちゃってごめんね…』


「………」


『…怒ってる?』


「怒ってる」


『あ、あはは…。まぁその…こっちにも事情があってね…』


「事情って?」


『それは、会って話した方が良いかな。今、榊原町に居るんでしょ?』


「居るよ」


『それじゃあ、町の西側にある、ショッピングモールに来て貰っても良い?私達は今、そこに居るから』


「…私"達"?」


『あ、私今、1人じゃないの。…そこに茜さん居る?居たら代わって貰っても良いかな』


「ちょっと待ってて」


風香は晴香にそう言って、携帯を茜に渡す。


「お姉ちゃんが代わってほしいだって」


「あら、私に?」


茜は携帯を受け取って、耳に当てる。


すると、聞こえてきたのは晴香の声ではなく、別の人物の声だった。


『元気かしら?茜』


「聞くだけで虫酸が走るこの声は…姉さんね?」


『………』


「あら、人違いだったかしら」


『…後で腕一本折ってあげるわ』


「あら、やっぱり姉さんじゃない」


『…とにかく今は、私達の所に来なさい。風香ちゃんに場所を教えてあるから。そこで色々と説明するわ』


「仕方ないわね。向かってあげましょう」


『実の姉に向かって随分と上から目線ね…』


「姉さんよりも私の方が優秀だからよ」


『言ってなさい…。じゃあね』


「えぇ」


茜は電話を切って風香に返し、楓と凛を見た。


「展開が一歩進みそうよ。ついてくる?」


「当たり前やろ。どこなんや?」


「西側にあるショッピングモールだって。そこにお姉ちゃんと葵さんが居る」


風香の言葉を聞き、凛が驚いた様子を見せる。


「葵さんも…?」


「えぇ。忌々しいでしょ?」


「いやそういう事じゃなくて…。武器、持ってるんですかね?刀は茜さんが持ってるし…」


「素手で戦ってるんだと思うわ」


「あぁ、素手ですか。…え?素手?」


思わず、茜を二度見する凛。


「大方、刀は極めたから、次は素手を極めるって所でしょう。何となく察しが付くわ」


「素手って…。相手、人間じゃないんですよ…?」


「関係ないわよ。姉さん自体、人間離れしてるからね」


「…確かに」


茜の言葉に納得できてしまう程の葵の実力を、凛は改めて凄まじいと思った。


「そしたら、ショッピングモールに向かおうやないか。2人が待っとるんやろ?」


楓がそう言って、進行方向に顔を向ける。


「あら、"西側"と言っただけなのにわかるだなんて、方向感覚良いのね」


「町に入る前、大体の地形は頭に叩き込んどいたわ。…なんや、これぐらい普通やろ?」


「普通は人によるものよ。…ねぇ?風香ちゃん」


「いきなり手繋がないでよ!気持ち悪い!」


「うふふ…。照れちゃって…」


「(あなたは普通じゃないですよ…)」


凛は茜を見て苦笑を浮かべながら、心の中でそう呟いた。



一同が今から向かう西側のショッピングモールは、榊原町の中で最も大きな店舗である。


楓の方向感覚で場所はわかったものの、その大きな建物は少し進んだ所ですぐに一同の視界に映り込んだ。


「あら、案外簡単に見つかったわね」


「結構おっきいね…」


前列を歩く茜と風香。


「こんな田舎町にあないなデカい建物建てて、儲かるもんなんか?」


「むしろ、他に利用する建物が無いから、みんなあそこに行くんじゃないですか?」


「なるほどな」


後列を歩く楓と凛。


4人はショッピングモールの駐車場の中を歩いていき、晴香と葵が待つ建物の中へと入っていった。


ショッピングモールの中は当然人など居らず、代わりに、患者の死体が所々に転がっている。


死体は弾痕があるものや、首がありえない方向を向いている物など様々だった。


「患者の首を折るだなんて、姉さんくらいね」


「だとすると、こっちはお姉ちゃんか」


死体を調べ、誰がやったのかを推測する茜と風香。


「人、居らへんな」


「そりゃあそうですよ…。みんなとっくに脱出したか、殺されたか…」


「映画やと、こういう所に立てこもるんが定番やないか」


「映画でしたらね…」


楓と凛は、死体には目もくれずに辺りを見回していた。


「さて、このショッピングモールのどこに居るのかしらね?」


「ちょっと訊いてみる」


風香は携帯を取り出して、晴香に電話を掛ける。


晴香はすぐに出た。


『どうしたの?』


「着いたよ」


『早かったわね…。今どの辺に居るの?』


「入口」


『えーと…。…あ、居た居た』


「え?」


『上を見て』


「………」


指示された通り、上を見上げる風香。


この建物は吹き抜け式になっており、最上階である3階に携帯を耳に当てながらこちらに手を振っている晴香の姿が見えた。


「…エレベーターは?」


『止まってる。鍵があれば動くと思うけど…』


「…階段で行けって事?」


『エスカレーターから登ってくれば早いと思うよ。…止まってるけど』


「………」


風香は大きな溜め息を吐き、"今から行く"と告げて、電話を切った。


「結構…疲れる事になりそうね…」


「まぁきっと大丈夫だよ。そこのエスカレーターから登っていけばすぐに…」


近くのエスカレーターを見て、言葉を切る風香。


そのエスカレーターは、山のように積み上がった患者の死体により、通る事はできそうになかった。


「………」


「仕方ないわね…。反対側のエスカレーターに行きましょう」


気だるそうに、入口とは真反対に位置する場所にあるエスカレーターへと向かう茜と風香。


「宮城、ウチをおぶってけ」


「嫌ですよ」


楓と凛も同じく気だるそうに、2人についていった。



「…全員息切れしてるじゃない」


3階に到着すると、すぐに葵が一同の前に現れる。


「姉さん…どうしてこんな七面倒臭い場所に呼んだのかしら…?」


「降りて別の場所に行くのが面倒だからよ」


「…殺されたいの?」


「あら、やってみる?」


神崎姉妹が早くも一触即発の状況になったその時、その様子に気付いた晴香が慌てて戻ってきた。


「待ってくださいよ!何で早々に喧嘩するんですか!」


「晴香ちゃーん!会いたかったわー!」


「ひゃあッ!?」


その様子を見て、溜め息を吐く葵。


「はぁ…もう疲れてきたわ…」


そんな彼女の元に、楓がやってきた。


「葵さん。色々と話してもらうで。こっちは進展無しでうんざりしとるんや」


「そうね…。私が知ってる範囲の事で良かったら、話してあげる」


「頼むで」


葵と楓は騒いでいる一同を無視して、少し離れた場所にあるベンチに腰を下ろした。


第21話 終




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