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第19話


第19話

"証拠"


「…けっ。アホらしい。止めや止め」


そう言って、楓は茜に向けていたスナイパーライフルを肩に掛ける。


「あら、止めちゃうの?」


「無駄な戦いはしない主義なんや」


「そう…」


茜も彼女に倣って、刀から手を離す。


それを見て、風香と凛も気を落ち着けた。


「さっき、大神の2人が来とる言うとったが、茜さん、会うたんか?」


「えぇ。ちょっと前にね。彼女達も、あなた達と同じ依頼を受けたらしいわ」


「なんや最近はけったいな依頼が多いな…。この前も大人数やったやないか」


「基本的に1つの依頼には2人まで…。それが決まりのような物なんだっけ?」


「せや。報酬やら機密事項やら、依頼主からしたら面倒が増えるからな」


「なるほどね…」


楓の話に納得する茜。


同時に、依頼主について、2つ気付いた事があった。


「となると、依頼主は金銭が豊富で、機密事項についても問題が無い人物…って事かしら?」


「まぁそうなるが…。肝心のその人物ってのが、見当もつかんのや」


「依頼は文通?」


「その通りや」


「ふーん…」


茜はしばらく何かを考え込んだ後、一同の顔を見回した。


「依頼主を探してみない?ちょっと興味が湧いてきたわ」


「興味やと?」


「梨紗ちゃんを抹消したい理由、気にならない?」


「…まぁ確かに気になるな。せやけど、どないするつもりや?依頼主の居場所なんて、ウチらは知らんで」


「よくよく考えてみなさい。梨紗ちゃんの殺害を依頼したって事は、彼女の事を知ってるという事。彼女に訊いてみれば、何かわかるかもしれないわ」


「…それは、無理やな」


否定した楓に、茜は驚いた様子を見せる。


「…どうして?」


「奴ならとっくにこの町を出たで。久遠や雪平達とな」


「…え?」


「奴らが乗ったバスを見たんや。なぁ、宮城」


「はい。他の生存者達も一緒に」


2人の話を聞き、呆然とする茜。


「…それじゃあ、手掛かりも無しに、このだだっ広い町をしらみ潰しで探すしか無いって事?」


「そういう事やな」


「………」


茜は深い溜め息を吐いて、歩き出した。


「私達はどうするんですか?」


「ここに居てもしゃあない。行く当てもないさかい、茜さんの後、追うで」


「わかりました」


茜に続いて、歩き出す2人。


「…風香ちゃん?」


1人、その場から動かない風香に、凛が気付く。


風香は赤面しながら、もじもじした様子で凛にこう言った。


「…銃向けちゃって、ごめんなさい」


「…へ?」


きょとんとして、風香を見つめる凛。


風香は二度は言わず、そのまま茜の元へ走っていった。


「宮城。あれが俗に言うツンデレっちゅうやつか?」


「私に訊かないでくださいよ…」



その後、4人は行き先も決めずに歩き続ける。


10分後、辿り着いた場所は、梨紗の家がある住宅街だった。


「あら、戻ってきちゃったのね」


「ここに、何かあるんですか?」


「いえ、何も無いわ」


「え?」


「でもまぁせっかくだし、ちょっと歩き回ってみましょう」


「はぁ…」


歩き出す一同。


住宅街には死体しか無く、辺りは不気味な程、静寂に包まれていた。


「静かやな」


「嵐の前の…ですかね」


「…けったいな事は言うもんやないで、赤城」


「すいません」


その時、先頭を歩いている茜の後ろを歩いている凛が突然立ち止まり、その後ろを歩いていた楓が彼女の背中にぶつかった。


「…ええ度胸やないか、宮城」


「今…あの家に誰か居ました…」


「…何やと?」


「窓に人影が見えたんです。…嘘じゃないですよ?」


右手側に見える住宅を指差しながら、訝しげな視線を向けてくる楓を必死に説得する凛。


その住宅は、梨紗の家の向かいに位置する家だった。


「…どうすんの?」


「怪しい場所は片っ端から調べる…。手掛かりが無い状況の基本よ」


こちらを見てウィンクをした茜に、風香は呆れたように溜め息を吐いた。


「はいはい…」



凛が影を見たという家は玄関の扉が開いたままになっており、その向こうには暗闇が広がっていた。


「大丈夫かな…?」


珍しく、不安な表情の風香。


「あら、あなたらしくないわね」


「…うっさい」


2人がそんなやり取りをしていると、全く怖じ気づいた様子が無い楓が、ズカズカと家の中に入っていった。


「先に行かせて貰うで」


「ちょ…待ってくださいよ!楓さん!」


それを追い掛ける凛。


「私達も行きましょう」


「…わかった」


茜と風香も、家の中に入っていった。


「…手つなぐ?」


「…うん」


「(あ、ヤバい)」



先行した楓と凛は、先に人影が見えたという部屋がある2階に上がる。


階段が軋む音だけが、その場に鳴り響いていた。


「………」


「おい宮城、お前びびっとんのか?」


「は、はぁ!?そ、そんなワケ無いじゃないですか!何言ってるんですか!」


図星をさされた凛は、思わず感情的になって誤魔化す。


「…ウチの背中にくっつきながら、何言うとんねん」


「あ…これは別に…その…」


そんなやり取りをしながら2人が例の部屋の前に辿り着いた頃、遅れて入ってきた2人は階段を登りきった所だった。


「嫌な雰囲気…。何だろう…」


「………」


「宮城さんが見た影って、やっぱり患者か捕食者なのかな…?」


「………」


「…茜?」


「風香ちゃんの手…温かいわ…」


「………」


風香は茜の手を振りほどき、彼女の腰に蹴りを入れた。



「遅かったな」


「楓ちゃん」


「なんや」


「風香ちゃんって、本当に可愛いと思わない?」


「真顔で何言い出すねん…怖いわ…」


「私ロリコンかもしれないわ…やだ怖い…」


「一生言うてろ…。行くで」


扉のドアノブに手を掛ける楓。


そして、ゆっくりとドアノブを回し、音を立てないように扉を開けていった。


そこにあったのは、2つの死体と、それを喰い荒らしている1体の患者。


一同は、肩の力を抜いて安堵した。


「…患者だけかい。なんや慎重になって損したわ」


「でも良かったじゃないですか。患者だけで」


「せやな。お前びびっとったもんな」


「び、びびってません!」


その患者は、楓が頭を撃ち抜いて仕留める。


その場には、3つの死体だけが残った。


「無駄足だったね」


「まぁ、端から期待はできへんかったさかい。元っこや。ほな、戻るで」


部屋から出る風香と楓。


その時、茜が死体の側で、何かを見つけた。


「…茜さん?」


凛がその様子に気付き、彼女の元に歩み寄っていく。


「面白い物を見つけたわ」


「え?」


茜が凛に見せたものは、中身が空のアンプルだった。


「これが…どう面白いんですか?」


「D細菌よ」


それを聞き、眉を顰める凛。


「…本当ですか?」


「えぇ。和宮町でも同じ物を見たの。恐らく…いえ、確実にこれもそうよ」


茜はそう言って、座り込んだまま辺りを見渡し始めた。


「…あった」


嬉しそうな笑みを浮かべ、視線の先へと足を運ぶ茜。


そこには、1本の注射器が落ちていた。


「注射器…まさか…」


「えぇ。誰かが意図的に、この人達を感染させたという事ね」


茜は無残に喰い荒らされた死体に視線を移す。


凛は、信じられないと言ったような様子だった。


「そんな…誰がそんな事を…?」


「それはわからないけど、やっぱり、あなた達に依頼を出した人物が怪しいわね」


「でも、そんな事したって何の得も無いですよ」


「確かにそうでしょうね」


「………」


それじゃあ一体どういう事なんだ、という視線を茜に送る凛。


茜はそれを察して、凛にこう言った。


「でも、理由も無しにこんな事をするだなんて有り得ないわ」


「事故の可能性は?」


「ここにある注射器が、その可能性は無いと物語ってるわ」


「確かに…」


頷きはしたものの、納得がいかない凛。


茜はD細菌が入っていたアンプルをポケットにしまい、立ち上がりながらこう言った。


「いずれにせよ、理由は本人に訊かない限りは不明ね」


「…訊く気ですか?」


「勿論」


得意気にそう言って、部屋を出る茜。


「………」


凛は部屋の中央にある死体と注射器をしばらく見つめた後、茜を追って部屋を出た。



一同が外に出てみると、さっきは居なかったハズの複数の患者が、道路をうろついていた。


「勘が良い連中やな」


「どうする?」


「片付けるで。追ってこられても面倒やからな」


「ですよね」


真っ先に戦闘を始める楓と風香。


後から出てきた茜と凛は、戦闘には加わらずに、その様子を見ているだけだった。


「ねぇ、凛ちゃん」


「…何です?」


「この騒動、どう思う?」


突然の茜の問い掛けに、困惑した様子を見せる凛。


「どう…と、言いますと?」


「思っていたよりも、かなり厄介な事になりそうよ」


「え?」


「…ま、私の勘だけどね」


「それってどういう…」


凛が訊く前に、茜は刀を抜いて楓達の元に歩いていった。


その場に1人残った凛は、茜の言葉を心の中で繰り返す。


「(厄介な…事…?)」


その意味は、まだわからなかった。




一方…


「………」


「………」


無言でバスを運転する彩と、その隣で窓から見える移り行く景色をぼーっと眺めている真希。


そこに、転ばないように慎重に歩きながら、恵美がやってきた。


「雪平さん、どこまで行くんですか?」


長い間、運転をしているだけだった彩は、少し反応が遅れ、慌てた様子で返事を返す。


「…え?…あぁ。とりあえず、とにかく町から離れようと思っていたわ」


「そうですか…」


話が終わると、彩は全く感じていなかった自分の体の疲労に気付いた。


「…ちょっと、休まない?」


「疲れたのか?」


「えぇ。少しだけ、良い?」


「良いも悪いも、事故られちゃ困る。そろそろサービスエリアがあるから、そこで一休みしよう」


「ありがとう」


一同が乗っているバスは、真希の話に出たサービスエリアに止まった。



「…あれ?」


バスが止まった事に気付き、眠りこけていた梨沙が目覚める。


「小休憩よ。ちょっと疲れちゃってね…」


「そういう事でしたか」


彩の話に納得した梨沙は、自分の肩にもたれかかって寝ている美由を起こさないように壁に寄りかからせて、座席から立ち上がった。



「…静かだな」


バスを降りて、明かりが点いたままの建物に気付く真希。


「まさかここまで感染が…って事は無いわよね?」


隣に居る彩は冗談っぽくそう言ったが、真希は真剣な表情で、建物に歩いていった。


「姉貴?どこ行くんだよ」


「恵美、お前も来い。万が一ん時は頼むぜ」


「万が一?何言ってんだ?…って待てよ!」


久遠姉妹は、2人で建物の中に入っていく。


「雪平さん。あの2人、どこに行くんですか?」


バスから降りてきた梨沙が彩に訊くが、彩は質問には答えずに、2人が入っていった建物を見つめていた。


しばらくして、バスの中に戻っていく彩。


「…?」


梨沙が呆然としていると、彩はすぐに戻ってきた。


右手に銃を持って。


「…どういう事ですか?」


「あなたも銃を持って一緒に来て。…多分、必要になるわ」


「…わかりました」


梨沙は状況を察し、バスの中に置いてある自分の銃を持ち出して、先に建物へと向かった彩を急いで追った。


第19話 終




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