第18話
第18話
"協力と敵対"
「捕食者の製作者って…。それ、憶測ですよね?」
訝しげに、明美を見る玲奈。
「あなた、奴らが自然に生まれた生物とでも思ってるの?」
「…まぁ、そうとは考えづらいですけど。じゃあ一体誰が何の為に作ったって言うんですか?」
「それはまだわからないわね。…本人に訊かない限りは」
「…訊く気ですか?」
「勿論」
明美は怪しい笑みを浮かべて、歩き出した。
「…どうするの?」
玲奈が、結衣に訊く。
「とりあえず、あいつについていくかな。他に行く所も無いし」
「…依頼は?」
「…さぁね」
2人は、明美の後についていった。
「そういえば、この辺に武器商人って、明美以外居ないよね」
歩いている最中、結衣がふと、そう呟く。
「実際には居るわよ。ただ、名が通ってないだけね」
「居たのか…」
「…まぁでも、大抵の奴らはクスリと一緒に売ってたりって感じだから、副業っていう形が多いわね」
「副業ねぇ…。私達も何か始めてみるか、玲奈」
「やめた方が良いと思うよ。結衣姉、飽き性じゃん」
「うるせー」
一同が道を歩いていると、正面に榊原高校の校舎が見えてきた。
「学校か…。調べてみる?」
「そうね…。というかあなた達、どうしてついて来てるのかしら?」
「行く当ても無いし、お前についていけば何とかなると思ってね」
「何ともならないと思うのだけれどね…」
「まぁいいじゃないか。天下の大神姉妹がお供してやるってんだ。悪い話じゃあるまいよ?」
「ふん…。自信過剰な女ね」
「有名人でーす」
「(イライラしてきたわ…)」
先頭に居る明美は、開けっ放しになっている校門から学校の敷地内へと入っていく。
校庭には、大量の捕食者が彷徨いていた。
「おやおや、随分と生徒が多い学校だねぇ」
「治安も悪そうだね」
武器を取り出す大神姉妹。
それを、明美が止めた。
「わざわざ戦う事は無いわ。逃げるわよ」
「…キング」
明美の背後に居る紗也香が、彼女の名前を呼ぶ。
何かと思って振り向いてみると、別の捕食者の集団が迫ってきていた。
「…囲まれたわね」
溜め息を吐く明美。
「行くぞー!」
結衣が先陣を切り、一同はその場に居る捕食者の殲滅を始めた。
その頃…
「風香ちゃん」
「何?」
「胸…触ってもいい?」
「………」
大神姉妹と分かれた茜と風香は、駅前の辺りを彷徨いていた。
「ダメ?なら下を…」
「お姉ちゃん、どこに居るんだろう」
「…一向に見つからないわね。無事だと良いけど」
「…でも、連絡が無いってのは、やっぱりちょっと不安かも」
「大丈夫よ。晴香ちゃんだって、ただの女の子ってワケじゃないわ。上手い事生きてるハズよ」
「…だと良いんだけどね」
「そういうワケで、スキンシップという名のおさわりを…」
「ちぇすと!」
「痛っ!」
2人が何となく駅の中に入ってみると、明美達が爆破した列車の残骸が目に入った。
「誰か居た証拠ね」
「物騒な証拠だね…」
その時、2人の背後から、何かを引き摺る音が近付いてくる。
「………」
「………」
2人は目で合図を取り、同時に振り向き武器を構えた。
「…何こいつ」
そこに居たのは、血まみれの巨大な斧を持ち、顔には麻で繕われた袋を被った不気味な巨人。
生体兵器、"D-11"であった。
「何というか…ありきたりな…敵ね…」
「うん…何かで見たことある…」
突然、2人に斧をなぎ払うD-11。
しかし、突然とは言え、その斧はかなり重いらしく、振る寸前に予備動作が見えた。
2人はそれを見抜き、即座にしゃがんでその一振りを避ける。
D-11は避けられた事を確認すると、斧を返して、足元を狙って再び横に振った。
防戦が嫌いな2人はその攻撃を跳ねて回避し、そのままD-11の目の前に着地する。
斧以外の攻撃方法が無いと思い込んでいた2人は、至近距離戦なら有利だと判断した。
しかし、D-11はその判断を裏切り、斧を持っていない左手で、風香の首を鷲掴みにする。
「ッ…!?」
喉を圧迫され、風香は声も出せずにひたすらもがく。
その抵抗も虚しく、D-11は左手に更に力を込めて、風香の喉を潰そうとした。
「う…ぁ…」
風香の意識がかすれてきたその時、いつの間にかD-11の背後に回り込んでいた茜が、助走して飛び跳ねる。
そして、空中で体を回転させ、左足による強烈な回し蹴りをD-11の延髄に放った。
D-11は思わず、風香の首から手を離す。
「大丈夫?」
「大…丈夫…」
風香は苦しそうに咳き込みながらも立ち上がり、D-11から離れた。
追いかけようとするD-11。
しかし、抜き身の刀を持った茜が立ちふさがる。
「あなたの相手は私よ。来なさい」
すると、D-11が突然斧を地面に叩きつけながら、雄叫びのような声で叫び始めた。
「…嫌な予感」
辺りを見回す茜。
茜を中心に、ぞろぞろと、患者が集まり始めていた。
「困ったわね…。数が多すぎるわ…」
そう呟いて、離れた場所に居る風香を見る。
彼女はとても、戦えるような状態ではなかった。
「仕方ない…」
覚悟を決めて、刀を構える。
その時、2人がやってきた出口の方に、人影が2つある事に気付いた。
「…誰?」
目を細めて、その人影を凝視する茜。
茜は、その人物が持っている銃を見て、誰なのかを判断した。
「あら、仲良し師弟じゃない」
「誰が仲良し師弟や。どつくで」
「え…?違うんですか…?」
「何やねんその残念そうなツラ…」
現れたのは、楓と凛の2人であった。
「良い所に来たわね、あなた達。今から楽しい事をするつもりなんだけど、良かったら一緒にどう?」
「お断りや」
「つれないわねぇ…。風香ちゃんが今ちょっと動けないから、手伝ってほしいのよ」
楓はそれを聞き、眉をひそめて風香を見る。
「…なんや、あいつどないしたんや?」
「ちょっと油断しちゃったのよ。命に別状は無いと思うけどね」
「ならええわ」
楓は安心したようにそう言うと、辺りの患者に視線を配り始めた。
「…多いな」
「やれる?」
「やれん事も無いって所やな」
「それじゃ、やっちゃいましょうか」
「せやな」
じりじりと近付いてくる患者達に対し、3人は背中合わせになって向かい合う。
そして、一番近くに居た患者を楓が撃ち抜いたのと同時に、戦闘が始まった。
「圧殺だけは…勘弁ね!」
次々と襲ってくる患者の首を斬り落としながら、苦笑する茜。
「一旦逃げた方が良いんじゃないですか!?」
「お前今ええ事言うたわ。散開しよか」
凛の提案に楓が賛同し、3人は別々の方向に走り出して、その場から離れた。
「(数が多すぎる…!これじゃあどうしようも無いって…!)」
追ってきた患者から後ずさるように距離を離しながら、1体1体仕留めていく凛。
倒しても倒しても一向に減らない患者に、凛は徐々に嫌気がさしてきた。
「あーもうっ!」
吹っ切れた凛は手榴弾を3つ取り出して、患者が多い場所にそれぞれ1つずつバラまく。
5秒後、手榴弾が爆発し、その爆風に巻き込まれた患者は跡形もなく消し飛ぶ。
その結果、全滅とまではいかなかったものの、凛の近くに居た大半の患者は仕留める事ができた。
「ふぅ…。…他の人は大丈夫かな」
一方、楓は壁を背にして、迫り来る患者達を次々と撃ち抜いていた。
楓の銃、Knight's SR-25の装填数は20発。
「(マガジン2つもあれば、足りそうやな)」
再装填をしながら、残りの敵を確認する。
楓が1つめのマガジンを使って倒した数は、20体を越えていた。
「(こっちは何とかなりそうやが、問題は…)」
再装填を終えた時、ちらりと茜がいる方を見る。
茜は、D-11と対峙していた。
「(さてと…)」
刀を握り締め、じりじりとD-11に歩み寄る。
D-11は茜が攻撃範囲に入った瞬間、その巨大な斧を縦に振り下ろした。
茜はそれを最小限のサイドステップで避けて、D-11の斧を持っている大きな右手を斬りつける。
「…ダメね」
渾身の一振りを放ったつもりであったが、D-11の太い右手は茜の斬撃に耐え、切断には至らなかった。
「立派な腕ね…。そんな物振り回してないで、土方の仕事でも始めてみたらどう?」
皮肉っぽくそう言って、鼻で笑う。
D-11はそんな茜に、巨体を左右に揺らしながらズカズカと歩み寄っていった。
茜は警戒して、刀を構える。
D-11は、自分の頭上で遠心力を利用しながら斧を振り回し、茜に迫っていった。
「ッ…。面倒臭い攻撃してくれるわね…!」
舌打ちをして、後退する茜。
どこかに隙が無いかを探すが、巨大な斧から繰り出される斬撃の旋風に、茜は不覚にも恐怖心を覚えた。
ふと、背後に視線を向ける。
茜は、自分が少しずつ壁際に追い込まれているという事に気付いた。
「(本格的にまずいようね…!)」
現状を切り抜ける方法が無いか、必死に考える茜。
その時、D-11の右手を、1発の銃弾が貫通した。
もしやと思って、楓を見てみる。
予想通り、動き回っているD-11の右手を見事に撃ち抜いたのは、楓だった。
「助かったわ…!」
そう呟いて、茜は突然の狙撃に怯んでいるD-11に急接近し、懐に潜り込む。
そして、腹部から頭にかけて、刀を一直線に斬り上げた。
その攻撃を喰らったD-11は後ろに大きく仰け反り、体勢を崩す。
更に、楓が両足を撃ち抜いた事により、D-11は辺りの地面を振動させながら、派手に転倒した。
「トドメよ!」
刀を逆さに持ち替えて、倒れているD-11の顔面に向かって飛びかかる茜。
茜は着地と同時に、D-11の眉間に刀を突き刺した。
D-11の体がびくんと跳ね上がり、最後の余力で茜の体に掴み掛かろうと左手を伸ばす。
しかし、その手が茜の体に触れる前に、D-11は絶命した。
「うふふ…。大した事無かったわね」
刀を引き抜いて、刃身に付いたどす黒い血を振り落とす茜。
その頃には、楓と凛の戦闘も終わっており、2人は各々茜の元にやってきた。
「茜さん、お怪我はありませんか?」
「指先が痛いの。よかったら舐めてもらえるかしら?」
「ご無事で何よりです」
「(素晴らしいスルースキルね…)」
「そんな事よりも茜さん。こんな所で何しとったん?」
手に持っているスナイパーライフルを肩に掛けながら、楓が訊く。
「あ、そうそう。あなた達に訊きたい事があったのよ」
「…何や、訊きたい事っちゅうのは」
「綾崎梨紗ちゃん。…わかるわよね?」
「…あいつがどないしたん」
「命…狙ってる?」
「………」
楓は少しの間茜を睨み、肩に掛けてあるスナイパーライフルを、突然彼女に向けた。
「誰から聞いた」
「大神姉妹よ」
「けっ…。なんやあいつらも来とるんか」
「知らなかったの?」
「一々会うて話なんかしてられへんわ。普段は別々やさかい」
「そう…。ところで…」
言葉を切って、鞘にしまってある刀に手をつける茜。
「この銃は…どういう意味かしら?」
「ウチらは依頼を受けたんや。邪魔をする言うんなら、容赦せぇへんで」
「あら、邪魔をするだなんて、一言も言ってないわよ?」
「せやかて、黙って見過ごす人ちゃうやろ。あんたは」
「…うふふ。わかってるじゃない」
楓の隣に居る凛も、緊張した表情で茜に銃を構える。
同時に、いつの間にか凛の背後に居た風香も、彼女の後頭部にショットガンの銃口を突き付けた。
「…ほな、やってみるか?」
「この距離で、刀に勝てるとでも?」
「何寝ぼけた事言うとるんや。抜刀する前に、頭に風穴が開くで」
「うふふ…。わかったもんじゃないわよ?」
「…かもな」
2人はお互いの得物を睨みながら、不気味な笑みを浮かべていた。
第18話 終




