第17話
第17話
"依頼の謎"
「遅かったじゃねぇか」
「急いだ方よ?」
「そりゃあ悪かった」
バスに乗り込んでいく生存者達。
「…どうしたんだ?その傷」
「え?」
真希に頬の傷が見つかり、彩は慌てて傷を手で隠した。
「…何でもないわよ」
「何でもねぇ事ねぇだろ。捕食者にでもやられたのか?」
「違うわよ…。あれよ…鎌鼬にやられたのよ」
「今時そんな事言う奴まだ居たのか…」
そこに、恵美がやってくる。
「全員乗ったよ。早く脱出しよう」
「そうだな。行くか」
真希と恵美も、バスに乗り込む。
「…彩?」
「………」
しかし、彩はなぜか発車しようとしなかった。
「どうした?さっさとこんな場所から…」
「あそこ…」
「あ?」
「誰か…居ない…?」
「え?」
彩が指さしたのは、正面にある3階建ての建物。
その時、運転席のガラスに、突然銃弾が飛んできた。
「な、何だ…!?」
「狙撃されてる…!みんな伏せて!」
彩の呼びかけを聞き、一同は全員姿勢を低くする。
「どうすんだよ、おい!」
「強行突破よ…!」
「マジかよ!?」
彩は少しだけ頭を出して、アクセルを思い切り踏み込む。
幸い、開けた道路だったので、慎重に運転する必要は無かった。
今求められるのは、一刻も早くこの場から離脱する為のスピード。
「しっかり掴まってなさいよ…!」
彩はアクセルを、更に強く踏み込んだ。
「ちっ…。外れてもうたわ」
「珍しいですね。楓さん」
「ウチかて、人間や。百発百中なんて無理に決まっとる」
「…楓さん」
「なんや」
「…本当に、"外れた"んですか?」
「………」
「"外した"んじゃなくて…?」
「黙らんかい。…さっさと行くで」
「…はい」
その後、彩達は狙撃から逃れる事に成功し、町を出る為に、ひたすらバスを走らせた。
「今の狙撃…誰だったんだ…?」
真希は座りもせずに運転席の隣に立ったまま、彩に訊く。
「私に訊かないでよ…」
「…それもそうだな」
「………」
彩は、明美の言葉を思い出していた。
「(一体誰が…何の為に…?)」
一方…
「参ったなぁ…。ノリと勢いだけで話進めちゃったけど、茜さんと対立するのは非常にまずい…」
「本当にどうするの…?私達が勝てる相手じゃないと思うけど…」
茜、風香の2人と別れた大神姉妹の2人は、特に行くアテも無く、ただただ足の向くままに歩き続けていた。
「それもそうなんだけど…。やっぱり依頼自体乗り気になれないんだよねぇ…。いっそのこと、放棄しようかな?」
「良いの?ご新規さんみたいだったけど…」
「素性も明かさないような奴の依頼なんて知ったこっちゃねぇんだよッ!…ってな感じで逆ギレしてみようかな」
「止めた方が良いと思うな…」
そんな事を話しながら歩いていると、正面に、2体の捕食者が現れた。
「良いねーお前達は。悩みなんか無さそうで」
「結衣姉…。相手を選んで嫉妬してよ…」
それぞれ、武器を構える2人。
「何はともあれ、どんな事があろうとこいつらは敵だ。行くよ!」
「はいはい…」
捕食者との遭遇はこれが初めてである2人であったが、恐怖心などは微塵も無く、むしろ好奇心のような感情が湧いていた。
「さて、どんな奴なのかな?今噂の捕食者ってのは」
「患者とはまた異なるみたいだね。感染能力は無いって聞いたよ」
「あ、そうなの?なら、そこまで慎重に行かなくても良いか」
「でも、油断はしないでよね?」
「わかってるよ」
捕食者の頭部に狙いを付けて、構えている2丁のハンドガンを連射し始める結衣。
捕食者の弱点は頭部ではないので倒れなかったものの、捕食者の顔面は蜂の巣のように穴だらけになった。
「弱点は頭じゃないのか…。じゃあ、心臓かな?」
「…結衣姉って、いつも頭か心臓だよね」
「生き物の弱点なんて、大体同じだよ」
「まぁね…」
今度は、心臓を狙う。
当然、弱点は心臓であるので、捕食者は倒れて動かなくなった。
「ビンゴ!ってね」
「心臓なんだ…。面倒臭いなぁ…」
もう1体の捕食者には、玲奈が両手に持ったナイフを器用に回しながら近付いていく。
捕食者は近付いてきた玲奈に、掴み掛かろうとした。
玲奈はそれを容易く避けて、背後を取る。
そして、後ろから心臓の部分にナイフを1本突き刺し、その場で跳ねてナイフを蹴って押し込んだ。
玲奈のナイフは心臓を貫通し、緑色の捕食者の体液まみれになって地面に落ちる。
2人はあっという間に、捕食者を撃破してしまった。
「手応え無いねぇ…。これなら、まだ患者の方が厄介だよ」
「確かに。1回でも咬まれたら感染する患者の方が、よっぽと脅威だね」
2人は早くも、捕食者はさほど脅威ではないと認識する。
しかし、その認識は、すぐに改められる事になった。
「ん…。…死体か」
歩いている最中、生前学生だったと思われる人間の死体を見つける。
すると、2人が見ている目の前で、3体の幼体が死体の腹部を喰い破って出てきた。
「なるほどねぇ…。感染能力は無いけど…」
「…寄生させる事はできるんだね」
しばらく、様子を見る2人。
3体の幼体は、成体へと進化を遂げた。
「…面倒くせぇ」
「もうやだ…」
2人は深い溜め息を吐いた後、捕食者の殲滅に取り掛かった。
「大神姉妹じゃない。こんな町で何してるの?」
捕食者を殲滅して武器をしまった大神姉妹の2人に、路地から出てきた明美が話し掛ける。
「おぉ。明美と…」
「藤堂です」
「藤堂さんか。よろしくね。私は…」
「大神結衣さん。そちらは大神玲奈さんですよね。伺っています」
「本当に有名なんだねぇ…私達って」
結衣は自分が思っている以上に名が通っている事に、思わず苦笑した。
「あなた達、誰かの依頼?」
「依頼です。…沢村さんは?」
玲奈の質問に、明美は彼女から目を逸らしながら答える。
「私は…ちょっと調べ物をね…」
「…調べ物って、何ですか?」
人の観察に優れている玲奈は、すぐに明美の動揺を見抜いた。
「…調べ物は調べ物よ」
「その調べ物がどんな物かを、訊いてるんです」
「………」
押し黙った明美を、玲奈は更に追い立てる。
「どうしました?」
「…いえ、何でもないわ」
明美は彼女の鋭い視線に耐えかねて、溜め息を吐いて話し始めた。
「捕食者の事を調べてるのよ。生態、出現の原因…その他諸々…ね」
「捕食者って、沢村さんの作品じゃないんですか?」
「違うわよ。私はあんな下品な物作らないわ」
それを聞いた玲奈は、心の中で嫌味を言う。
「(あなたの作品も決して上品では無いと思いますけど…)」
「…何か言いたそうね」
「いえ別に」
「…本当に?」
「本当です」
「………」
顔色1つ変えない玲奈に、明美は少しだけ苦手意識を抱いた。
「明美が作ったんじゃないのか…。これもうわかんねぇな…。お前どう?」
「皆目見当もつきませんね…。これほどまでの生体兵器を作れる人物が居るとは…」
結衣に訊かれ、顎に手を当てて考え込みながら、そう答える紗也香。
「D細菌よりも有能だね、こりゃ」
「それは無いわね」
結衣が呟いた言葉に、明美は何故か対抗意識を持った。
「…はい?」
「D細菌の感染能力はあなたも知っているでしょう、大神結衣。こんな出来損ないのような兵器と比べるだなんて論外だわ」
「でも、寄生するってのは凄くね?」
「き、寄生が何よ…?私のD細菌の方がコストパフォーマンスに優れていて、それでいて尚且つ…」
「はいはいお前すげーなー尊敬しちゃうよえらいえらい。さ、行こうか玲奈」
「流すな!」
結衣と明美が下らないやり取りをしていると、背後から患者が接近してきている事に、玲奈が気付いた。
「結衣姉」
「え?…あぁ」
気だるそうに銃を取り出し、やる気がなさそうに銃を構える結衣。
「…玲奈、頼んだ」
「…は?」
「いや、面倒臭いからさ…」
「………」
玲奈は不機嫌そうにずかずかと歩いていき、患者を本気で斬り裂いた。
「(哀れな患者ね…)」
機嫌が悪い玲奈に惨殺された患者に、明美は柄にもなく同情した。
「ご苦労。さぁ、行こうか」
「………」
「怒ってんの?」
「…別に」
「こういう時は頬を突っついてみて…」
「~ッ!!!」
「激しく抵抗したら、怒ってるって事だよ。覚えといてね、みんな」
「え、えぇ…」
「(覚えとく必要あるのかな…?)」
仲の良い姉妹だ、と、2人は改めて思った。
「そういえば、あなた達は今からどこに行くの?」
「さぁねぇ…。人を探してるんだけど…」
「何て人なの?」
「綾崎梨紗」
「…え?」
「あーやーさーきー…」
「いやそれはわかってるのだけど…」
「じゃあ何だよ」
「その子なら、知ってるのよ」
「あっそ、それは良かっ…えぇー!?」
「(こいつ面白いわね…)」
笑いを堪えている明美に、玲奈が話し掛ける。
「沢村さん。知ってるって、どういう事ですか?」
「ちょっと前まで、一緒に居たわ。銃を売ったのよ」
「銃を…?料金は?」
「変態百合女のツケにしてあるわ」
「(茜さんか)」
玲奈は、一瞬でわかった。
「…でも、何か乗り気になれなくてねぇ」
そう呟いた結衣を見て、眉を顰める明美。
「…珍しいわね。依頼には忠実なあなたがそんな事を言うだなんて」
「聞けば、綾崎梨紗って子はまだ二十歳にも満たない女の子だって言うじゃない。そんな子を殺すのは、流石に気が引けるってもんよ…」
「…まぁ、それはそうよね」
純粋で穢れの無い梨紗の瞳を思い出し、明美も頷いた。
「とは言え、依頼放棄はこの世界じゃ御法度。…今さっきまで、迷ってた所なんだ」
「…依頼主は、何の為に殺害を依頼したんですかね?」
話を黙って聞いていた紗也香が、呟くようにそう訊く。
「…確かに変ね。梨紗ちゃんは恨みを買うような子には見えないわ。…依頼の理由なんて、聞いてないわよね?」
「文通による依頼だったので、詳細を聞く事はできませんでした」
明美の問い掛けには、玲奈が答えた。
「…その依頼主、怪しいわね」
そう言った明美を、紗也香が横目で見る。
「怪しい…と言いますと?」
「この町に捕食者が出現したのと同時に、理由が不明な依頼を出した…。変だと思わない?」
「確かに変ではありますけど…。やっぱり何か理由があるのでは?…とは言え、本人に訊いてみないとわからない事ですが」
「もしかするとの話なんだけど…」
明美は、大神姉妹が仕留めた捕食者の死体があった場所に溜まっている、緑色の液体を見ながらこう言った。
「捕食者の…製作者かもしれないわ」
第17話 終




