第16話
第16話
"対立"
その頃…
「どこに居るのかしらねぇ…晴香ちゃんは…」
一向に晴香の行方が掴めない、茜と風香の2人。
「もう帰る?私疲れた」
歩きっぱなしである2人には、疲労の色が見え始めていた。
「あなた、お姉ちゃんが心配じゃないの?」
「…大丈夫でしょ」
「えぇ…」
その時、進行方向から、こちらに歩いてくる2人の人物を見つける。
「あら、懐かしい顔ね」
「げっ…」
その人物とは、一部の界隈で"大神姉妹"と呼ばれている、大神結衣と大神玲奈の2人であった。
面識がある大神姉妹の2人は、茜と風香に気付いてこちらにやってくる。
「茜さんじゃないですか!」
「あ、チビっ子だ」
2人はそれぞれ、茜と風香の元へ。
「久しぶりね。依頼かしら?」
「そんな所です。茜さんは?」
「人捜しよ。晴香ちゃんが行方不明でね…」
「え、ハルちゃんが…?」
「そうなのよ。もしも見つけたら、連絡してもらっても良いかしら?」
「勿論ですよ!」
仲が良い茜と結衣の2人は、穏やかな様子で会話をする。
一方、仲が良いとは言えない風香と玲奈は、殺伐とした様子であった。
「何でこっち来んの?来ないでよ」
「久しぶりに会ったから、挨拶の1つでもするかなって思って来てあげたの」
「あんたに挨拶されても嬉しくも何とも無いし。さっさと私の視界から消えてよ」
「何言ってんの?あんたが私に挨拶するのよ」
「は?」
「相変わらず礼儀って物を理解してないお子様ね」
「うっせー貧乳」
「は?」
「事実じゃん」
2人の口論は、しばらく続いた。
「人捜しと言えば、私達もそうなんですよ」
会話の中で、ふと、結衣が思い出したかのようにそう言う。
「あら、そうなの?私の知ってる人かしら?」
「いえ、多分知らないと思いますよ。この町の人間ですので」
「へぇ…。何て人?」
「綾崎梨沙って人です」
茜は偶然の一致に、思わず驚いた。
「あら、その子なら知ってるわよ。ちょっと前まで一緒に居たわ」
「本当ですか!?今どこに?」
「最後に別れたのは、榊原高校って場所の近くの神社だったけど…。もしかして、彼女の保護が依頼なの?」
「いえ、彼女の殺害です」
それを聞いた途端、茜の目つきが鋭くなった。
「…殺害?」
「理由はわかりませんが、依頼主にも事情があるんでしょう。…ま、私には関係ありませんがね。それでは、私達はこれで」
茜に背を向けて、歩き出す結衣。
その彼女の足元に、銃弾が飛んできた。
「…何のマネですか?」
結衣は振り返って、こちらに銃を構えている茜を睨み付ける。
「彼女を殺すって言うのなら、黙って見過ごすワケにはいかないわねぇ…」
「…こりゃ予想外。まさか仲良くなっていたとは」
結衣はそう言って力無く笑うと、素早く銃を取り出して、茜に銃口を向けた。
「あなたとはやり合いたく無いんですよ。ここは目を瞑ってくれませんかね?」
「お断りよ」
「…そうですか」
銃を構えたまま、無言で睨み合う2人。
しばらくすると、茜が銃を下ろし、それをゆっくりと地面に置いた。
結衣もそれを見てニヤリと笑い、同じように銃を地面に置く。
そして、2人は同時に走り出した。
「え、あの2人何で戦ってんの?」
「結衣姉、本気で戦ってる…」
銃声を聞き、駆けつけてきた風香と玲奈。
「本気って…手合わせとかじゃないの?」
「うん。殺す事も辞さない気でいる」
「何でわかんの?」
「姉妹だから」
「へー…」
2人は茜と結衣の戦いを止めようとも思ったが、2人の気迫が怖くて近付く事すらできなかった。
「…あんた止めなよ。妹でしょ?」
「…だから何?あんたが行けば?」
「びびってんの?」
「まさか」
そんな一方、茜と結衣は激戦の真っ只中。
どちらも実力に差は無く、勝負は均衡していた。
「流石ね。前見た時よりも動きが良くなってるわ」
「そうですか?まだ私には、あなたの蹴りが見切れませんがね」
「うふふ…。褒めてるの?」
「褒め殺しです」
「あら…」
突然、結衣が急接近して、茜の顔面に殴りかかる。
茜は彼女の拳を振り払うように受け流し、続けて結衣が放ってきた左ストレートも受け流す。
結衣は攻撃の手を一切休めずにひたすら殴り続けたが、茜に攻撃が当たる事は一度もなかった。
「無駄な攻撃は体力を消耗するだけよ?」
「無駄でも…ないですよ!」
結衣は左アッパーを受け流させて、右ストレートを放つ。
しかし、その右ストレートを茜が受け止めようとした瞬間、結衣はその攻撃を中断して、左手によるフックを放った。
「ッ…!」
予想外のフェイントに動揺した茜は回避に失敗し、頬に結衣の攻撃が直撃する。
「手加減しましょうか?茜さん」
結衣が嘲笑気味にそう言うと、茜は口元の血を拭ってニヤリと笑った。
「…その必要はないわ」
今度はこちらの番だと言わんばかりに、急接近する茜。
結衣はどんな攻撃が来るのかと身構えたが、茜が放った攻撃は、脇腹を狙った横からのシンプルな蹴りだった。
当然、結衣はその攻撃を後ろに下がって回避する。
茜は空振った右足を地面につけると、左足を上げて右足だけでその場に立った。
そして、左足で結衣の五体を次々と蹴り始める。
「(なっ…!早い…!?)」
怒涛の連続攻撃に、結衣は攻撃を受け流すどころか、回避すらままならない。
結衣の体力は、一瞬で奪われていった。
「(まずい負けるッ…!)」
永遠に続くと思われた茜の攻撃であったが、結衣が不意に放った苦し紛れのローキックが、茜を回避行動に移す。
しかし、その攻撃を跳ねて回避した茜は、落下様に結衣の頭部へと踵を落とした。
「(死ぬッ…!)」
思わず、ぎゅっと目を瞑る結衣。
しかし、茜の踵は結衣の頭部を外れ、着地した地面に衝撃を与えた。
「切り返しが甘いわね。一方的に攻撃されるような状況になったら、一旦距離を離しなさい。劣勢の時に戦った所で、結果は見えてるでしょう?」
「…完敗です」
地面に座り込んだまま照れ臭そうに笑った結衣に、茜は手をさしのべる。
結衣はその手を取って、勢いよく立ち上がった。
「依頼主は誰なの?」
「…それは答えられませんね。契約ですから」
「…敗者と勝者の関係って、知ってる?」
「………」
敗者は勝者に従うという掟と、契約との板挟みに心の中で葛藤が生じ、何も言えなくなる結衣。
それでも結衣は、答えを出した。
「…言いません。依頼を受けた以上、妨害してくるのであれば、私はあなたに敵対します」
「…そう。残念だわ」
言葉とは裏腹に、表情は笑顔の茜。
「今回は見逃してあげるけど…次は容赦しないわよ?」
「私も、次は全力でいきますよ」
「あら、さっきは全力じゃなかったって事?」
「えへへ…。どうでしょうね?」
結衣は無邪気な笑みを浮かべてそう言って、その場から離れた。
「行くよー玲奈」
「ちょ、待ってよ…!」
突然の茜との敵対に動揺している玲奈は、慌てた様子で結衣を追い掛ける。
その後ろ姿を見ながら、風香が茜にこう訊いた。
「追わないの?」
「追いたいの?」
訊き返す茜。
「…別に」
風香はそっぽを向いて、大神姉妹とは反対方向に歩き出した。
「うふふ…。相変わらず、素直じゃないのね」
小さく笑う茜。
当然茜にとって、大神姉妹との対立は良い展開とは言えなかった。
「(…困ったわね)」
その頃…
「…楓さん」
「………」
「どうするんですか?」
「………」
「私達の依頼は、綾崎梨沙の…」
「うっさいわボケ。…わかっとるがな」
神社を出て、右へと進んでいった楓と凛。
2人が今回受けた依頼も、大神姉妹の2人と同じく、梨沙の殺害であった。
「でも、やりづらいってのは、やっぱりありますよね…」
「せやから困っとんねん。依頼を実行すれば、雪平達も敵に回す事になる。…奴は一筋縄じゃいかんと思うで」
「え?ただのパン屋の店長じゃないんですか?」
「アホ。奴の射撃見てたんか?お前」
「あまり…見てなかった…かもです…」
「けっ…。お前ホンマに間抜けやな。…とにかく、奴は少なくとも素人ちゃう。久遠っちゅうのも、悪くない腕やった。つまり…」
「かなり、苦戦する事になると…?」
「せや。ひょっとしたら、ウチらが死ぬ事になるかもしれへん」
「…そんなにですか?」
「ひょっとしたらな」
弱ったような表情で、溜め息を吐く楓。
しかし、すぐにいつもの鋭い表情に戻り、答えを出した。
「…ま、依頼やし、しゃあないか。やるで、宮城」
「…わかりました。依頼放棄は流石にまずいですしね」
決心して、歩き出す2人。
しかし…
「(…依頼やしな)」
「(…依頼だもん)」
心の中の葛藤は、そう簡単に拭えるものではなかった。
一方…
「はくしょん!」
バスの中で、彩と恭香が帰ってくるのを待っている梨沙。
「(本当に風邪引いたのかな…。今日はやけにくしゃみが出る…)」
そんな事を思いながら鼻をすすっていると、彩と恭香の2人が戻ってきた。
「調子はどう?」
「お帰りなさい。問題ないです」
「良かったわ。それと、良い話があるわ」
「良い話?」
首を傾げる梨沙。
彩は無言でバスの鍵を取り出し、それを梨沙に見せた。
「あ、見つかったんですか?」
「えぇ。なんとかね」
彩は上機嫌な様子で、運転席につく。
しかし、鍵を差し込もうとした時に、手が止まった。
「………」
数分前…
『待ちなさい、雪平』
『何?』
『綾崎梨沙。あなたの知り合いね?』
『そうだけど…。それが?』
『彼女の命を狙っている連中が居るわ。気をつけなさい』
『…え?何で梨沙ちゃんを?』
『さぁね。でも、彼女の殺害を依頼された人物が複数居ると聞いたわ。全員、殺しに慣れてるベテランよ』
『そんな…どうして…』
『とにかく用心しなさい。…また会いましょう』
『…わかったわ。ありがとう』
『…雪平!』
『…?』
『…私の事、覚えてない?』
『…え?』
『………』
『………』
『…いえ、何でもないわ。それじゃあね』
「………」
彩は明美との過去があったかどうかを思い出そうとしながら、鍵を差し込んだ。
その頃…
「遅い…遅くないか…?」
神社の近くにある廃ビルの中で、バスを取りに行った梨沙達を待つ恵美達。
分かれてから、既に2時間が経過していた。
「駅に無かったんじゃねぇのか?他を探し回ってるってんなら、時間も掛かるだろうよ」
「…だが、心配だ」
「本当に心配性だな、お前…」
「姉貴は心配じゃないって言うのか?」
「大丈夫だろ」
「何て薄情な女なんだ…」
「…あ?」
「妹として恥ずかしい。考えを改めてくれ」
「てめぇ、何ほざいてんだこの野郎」
「キレる事しかできないのか?単細胞だな、姉貴」
「………」
「お、何だい」
「屋上へいこうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…」
「久しぶりじゃないだろ」
その時、窓の外から、車のエンジン音が聞こえてくる。
久遠姉妹の2人が率先して見に行ってみると、運転席に彩が座っているバスが見えた。
「これは良かった。さぁ行こうか、みんな」
「でけぇバスだな、おい…」
「むしろ好都合じゃないか。ちっさすぎたら、全員乗れないよ」
「それもそうだな…」
一同はその場を後にして、バスの元へと向かった。
第16話 終




