自動車部~4人目~
~前回までのあらすじ~
変態的男子高校生にセクハラされました。
お腹のぷにぷにを何とかしたいです……。
~本編~
「いつきくん、またところ構わず女の人に抱きついてぇ!」
いつきくんに詰問するセミショートの女生徒。丸顔でタレ目のかわいらしい女の子です。まつ毛も長いですね………。
「いいだろ、少しぐらい」
「よくないよぉ、ボクがいるのにぃ。ボクが女の人嫌いなの知ってるでしょ!」
「ああ、そうだった、悪りぃ悪りぃ。でも年上でメガネの女って、こう知的な感じで惹き寄せられるものが……」
「言い訳になってないよ、それぇ」
まったくです。しかも悪びれた素振りが一切ありません。もっと反省してほしいです。
「えっと……あの二人の関係は……?」
小声で本田さんに訊ねました。
「もしかして……」
「はい、交際中です」
「さらにひょっとして……」
「はい、マキくんはうちの部員です。はぁ……」
とても残念そうに答える本田さん。
そりゃ、自己紹介も前にいきなり痴話げんか始めるくらいですからね。嘆息もしますよ。
「はぐらかさないで、もっと真面目にボクの言うことを聞いてよぉ!」
一方でマキさんの怒りは収まりそうもありません。スカートの裾を両手で握って、わなわなと震えています。
「約束を守れないならボク別れるよぉ!」
「きゅ、急に何だよ……」
「急じゃないから。前にも言ったはずだよぉ!」
彼女の剣幕に、いつきくんもたじたじです。
「いつもボクばっかり……もうもう……」
「あ、まずい……」
いきなり本田さんの表情が曇りました。
「いい加減にしてよぉ!」
マキさんは叫ぶと同時に、両手を蒼天に突きあげました。ただ、スカートの裾を握ったまま腕を振り上げたのは想定外。
当然、秘密の部屋が御開帳です。
「スネークバインドおぉぉっ!!」
女の子が出すとは思えない程の野太い声で本田さんが叫びながら、マキさんのスカートを下げました。
「ふう、危なかった……」
額の汗を拭う本田さん。いや、”危なかった”じゃなくて、事故は回避できてませんでしたよ。ちゃんと見えましたから。
「ああ、またやっちゃったぁ。最悪だぁ……」
と、マキさんは顔を両手で隠してしゃがみ込みます。
「マキくんそんな風に座っちゃダメ、それでも見えちゃうから!」
「ああっ!」
天然ですね、この子……。
「マキくん、興奮するとスカートの裾めくっちゃうクセがあるんです」
本田さんが苦笑しながら説明します。
「だからいつもスパッツ履くよう注意しているんですけど……」
確かに見えたのはスパッツでしたけど……。
「痴女ですか?」
この子も社会生活を送ってく上で、致命的な欠陥があるようです……。
マキさんは自分の痴態を披露した失態に赤面アンド落ち込み中です。
やはりここは教師としてフォローすべきですね。正式な教諭ではなく講師ですが、思春期で傷つきやすい多感な時期の生徒の心を救うという、正に教員らしい仕事を今こそ……。
「マキさん、スパッツ履いてるんだし、気にすることは……」
声をかけた瞬間、マキさんは本田さんの後ろに隠れました。
そして肩越しに私を睨んでいます。その姿はまるで闇夜に、物陰から車のヘッドライトの明りを窺うタヌキの様……。
「あの……私何かしました?」
手を握るどころか、肩も触れてませんよ。
「……ボク、女の人が嫌いなので」
「は?」
本田さんの後ろに隠れたまま、マキさんは言いました。
「女って……わがままで感傷的でヒステリックで陰湿で気分屋で、おまけに平気で友達の陰口言うから嫌いです」
…………黒……。この子、見た目はおっとり癒し系のかわいい顔して、腹の中はドズ黒系ですか?
でも私も女なので、彼女の言うことがわからないわけではないです。女としては耳が痛いですが……。
この子、女だからこそ、女の黒い部分が嫌いというパターンですかね。過去に何かあったのかも……。
「でも……女の人が嫌いと言う割に、本田さんとは仲がよさそうですが……」
「工業高校の女子はサバサバしていて、オッサン化もしていて、女の人らしくないから平気ぃ」
「……あなたの中では、工業高校の女子高生は女にカウントされないんですか?」
「されません」
言い切りましたよ、この子。きっぱりと。っていうか、あなたも工業高校の女生徒のハズですが……。
「だから男ばかりの工業高校にきたっていうのに、今年から部活の顧問が女の人なんて最悪だよぉ……」
本田さんの後ろでぶつぶつと文句を言うマキさん。
「女じゃないって言われているけど、いいの?」
本田さんに訊ねました。
「ホントはこれで殴ってやりたいけど……」
苦笑しながらスパナをチラつかせました。
「でも少ない部員なので我慢してます。それに、私も工業高校に来た理由の半分は、女同士のジメッとした人間関係苦手だからってとこありますから。男の中だと気楽でいいですよ」
工業高校の女子って、ドライで爽やかですね。