自動車部~5人目~
~前回までのあらすじ~
工業高校は女子嫌いの女子の駆け込み寺でした。
~本編~
しかし、本田さんたちがゴーカート相手に作業している間はヒマですね。IT系専門の私には、機械いじりはできないので、ただ見ているだけです。あくびが出ちゃいます。
三人とも背中に『SOUTH TECHNICAL HIGH SCHOOL』とロゴの入った濃い緑色の同じツナギを着ています。
さらにイツキくんは頭にバンダナをしめて、溶接でアルミの棒をくっつけてます。何かの骨組みみたいです。車体になるのでしょうか?
マキさんはカチューシャと保護メガネをつけ、テーブルの上でハンダゴテ作業中です。
本田さんはゴーカートの下に潜り込んで何かしています。
変な子たちですけど、マジメに部活をしてます。ここだけ切り取って見れば、変人だとわかりませんね。
ただ一人、何もしていない人が……。
稲盛さん、相変わらずデスクの下です。何やってんですか、あの子?
ともかく、暇ですね~。ああ、またあくびが……。
そのうち正午近くになりました。
「ちわ~~~~~っス!!」
突如として車庫に響き渡る甲高い幼声。
現れたのは体操着とブルマ姿の小さな女の子でした。ちなみに体操服の中心には大きく秋山と書かれています。
「小学生……? 誰かの妹さんですか?」
「誰が小学生じゃい!」
間髪いれずに突っ込みを入れてきました。そして睨んでます。激・睨んでます。
「もしかして、ここの生徒さん?」
「もしかしなくてもそうじゃい」
「へえ、何処の学科なの?」
「人のことを訊ねるならまず自分から名乗れ。失礼な奴に名乗る名など、ハヤネにはないんじゃ」
……横柄な態度ですね。頭の悪い小学校低学年の児童みたいです。いや、幼稚園児かな……? これも工業高校生?
まあ、ともかくひとつわかったことは……。
「秋山ハヤネさんですか。学科は? 学年は?」
「うあっ、えっ、な、何でハヤネの名前を知っているんじゃ? 超能力か?」
「いいえ……」
「そっか、自動車部の皆に聞いたな? 口の軽い奴らめ……」
「……苗字、体操服に書いてありますよ」
「あっ……! しまった……」
「名前はさっき自分で言ってたけど……ほんの十一行前に」
「うそっ」
「ホント。自分のこと自分で”ハヤネには……”って言っていたような……」
「そ、そうだったっけ……?」
ほんの少し前に自分の発した言葉すら覚えていないなんて……。どんだけ物覚えが悪いんでしょうか。
何かまた変人臭のする子ですね。
「うう……、バレてしまっては仕方がない。ハヤネこそが、陸上部スプリント競技のエースにして次期部長の秋山 速祢じゃぁーい」
「…………」
声がでかければ、ポージングも奇抜な自己紹介ですね。ライダー、変身!!……ですか?
「で、お前は誰だ?」
「新しい顧問の上尾先生よ」
車体の下から出てきた本田さんが説明してくれました。
「あ、先生だったんだ……」
「何となく予想できるもんだと思うけど……」
呆れ顔の本田さん。彼女に訊ねました。
「あの、部活を掛け持ちしている子って……」
「そうじゃ。ハヤネはあやのんにどうしてもと頼まれて、自動車部もやっているんじゃ」
秋山さんが口を挟んできました。
「だが何を隠そうハヤネの真の正体は、日本人で初めて百メートル十秒を切る予定の陸上部員だったのじゃー。別名、南工のジェット・ストリーム・アタックと呼ばれているが、このハヤネじゃーい!」
ジェ、ジェット・ストリーム・アタック……?
……ひょっとして……『ジェット桐生』と言いたいのでしょうか?
「今日もさっきまで、グランドで必殺のドルフィンキックを練習してきたんじゃ」
ドルフィン……キック……って?
「スタートダッシュのことじゃい」
「…………?」
陸上のスタートダッシュをドルフィンキックって言いましたっけ? 隣の本田さんも、そしてイツキくんもマキさんも小首を傾げています。
「あの~、ドルフィンって何の動物か、あなた知ってる?」
不審に思って私は訊ねました。
「もちろん。犬だろ?」
「い、犬……?」
ドルフィン・ドッグ……ってことですか? そんなウナギ犬みたいなハイブリッド犬がいるんですか?
困惑する私と他の自動車部員を余所に、秋山さんは得意気に言いました。
「足のすっごい速い犬。イングリッシュ・ゴ・ドルフィン・レトリバーとかいう犬」
け、犬種だったんですか?
しかも犬とイルカだけじゃなく、馬まで混じってません? サラブレッドの元になったとかいうアラブ系の馬が……。
まあ、でも走ったら速そうだし、ついでに盲導犬にも向いていそうですね。
本田さん、頭を抱えています。頭痛がするのでしょう。わかります、何となくわかります。
「ハヤ、ドルフィンは犬じゃないから……」
ため息交じりに彼女は言いました。
「え、そうなの?」
すると私たちの眼の前を、一羽の小鳥がスッと飛んで行きました。
途端に秋山さんがポンと手を叩きました。
「そっか、じゃあツバメのことか」
「ツバメはスワロウでしょ。目にしたものを根拠もなく答えにしないで。そもそもあの鳥はスズメよ!」
「んじゃ、ひょっとして鷲?」
「イーグル!」
「アホウドリかな?」
「それはアルバトロス」
「そっか、コンドルだ!」
「違う! どうしてゴルフ用語になるの? ってか鳥でもないから。犬や鳥から離れなさい。ドルフィンってのは……」
「わかった、馬だ! 速いからな……」
「人の話しを聞けえぇぇぇぇっ!!!」
本田さんの怒声が響き渡りました。
ちなみに……
ドルフィンキックとは……競泳のキックのこと。スタート直後に足を揃えて水を蹴る泳法。
陸上選手がスターターから飛び出すロケットスタートのことを、ドルフィンキックとは決して言わない。
「あのー……この頭の痛そうな子はいったい……?」
怒鳴ったせいで息を切らしている本田さんに、耳打ちしました。
「ハヤは陸上部の推薦でこの学校に入ったから、頭が悪くて悪くて……絶望的に悪くて……」
「ひょっとしていつもこんな感じ?」
「こんな感じです」
「さっき、どうしてもと頼まれて入部したって言ってたけど、本当?」
「悲しいことに本当です」
「どうしてこんな子を……」
そうだ、部員数が足りないんでした。人数合わせのためとはいえ、大変ですね。
「まあ、それもありますが……一応、ハヤにも重要な役目を担ってもらってます。こんなのでも……」
「重要な役目?」
「ドライバーです」
「ドライバー?」
めちゃくちゃ重要じゃないですか。この子で大丈夫なんですか?
「ドライバーは体重が軽い方が有利なんです。しかも陸上競技やっているから運動神経いいし、コース取りも上手いので」
なるほど、一理あります。…………不安もありますが……。
そんなドライバーの秋山さん、今はマキさんからドルフィンの説明を受けています。
そういえばあの子が着ている体操服とブルマ、この学校指定のものではないはずです。何故そんなものを着ているのか、と訊いたら私の負けでしょうか?
「ハヤ、ドルフィンはもういい?」
本田さんが訊ねると、秋山さんはバッチリじゃと元気に答えました。
「じゃあ、さっそくマシンに乗って。お昼の前に、走行テストやっとくよ」
キャラ紹介は以上です。




