第七話 君が選んだ道
高校生の月日は、蝉の寿命のようにあっという間だ。
三年生の夏が、もう終わろうとしていた。
三年になった俺と朝霞は、また同じクラスになっていた。
夏休みが明けて、最初のテスト結果が発表された。
「一番は、やっぱり朝霞か~」
「もう、そこは絶対王者だよね!」
「え? まって、二番って俊じゃない?」
「うそうそ、まじで?」
「どれどれ?」
みんなが、廊下に張り出された結果表を押し合いながら眺めている。
「本当だ! 俊すげー!!」
「まじかよ!!」
「俊、めっちゃ変わったよね~」
「うんうん、背もすごく伸びたよね」
教室にいた俺と朝霞は、その様子を横目に勉強の計画を立てていた。
「俊、今回のテスト随分がんばったじゃん」
「朝霞が勉強みてくれたおかげだよ」
「そうか? でも、自分でも結構勉強しただろ?」
「そりゃあ、見てもらって成果でなかったら申し訳ないし……」
なにより、俺にも目標が出来たからだ。
朝霞が弁護士になると聞いて、俺も同じ道を歩みたいと思った。
険しい道だとは、わかっている。
でも……。
* * *
放課後の帰り道、俺と朝霞はいつものように一緒に下校した。
「そろそろ、個人懇談だな」
「そうだね」
「最近、朝霞変わったな」
「え? そう? どこが?」
「女っぽくなった」
「は?」
「言葉遣いとか」
「あぁ……。受験とか先のこと考えたら、そろそろ直さないとマズイかなぁと思って」
「そっか」
「嫌か?」
「俺は、別に」
「ほらー。またハッキリ言わない」
「言葉使いの違いで、朝霞を嫌いになったりしない」
「うん。良く言えました!」
「ちぇっ」
「俊、手見せて」
「手?」
「うん」
「ほら」
差し出した手を、朝霞は握りつなぐ。
「え?」
「よし、帰ろう」
「お、おい」
引っ張られるように手を繋ぎ歩く。
手から伝わる朝霞のぬくもりが、照れくさくも嬉しかった。
* * *
家の玄関前につくと、朝霞は手を離す。
「さすがに、お家の人に見られるのは恥ずかしいからね」
はにかんで言う朝霞の笑顔が、眩しかった。
「ただいま」
「おかえり~」
「こんにちは! お邪魔しまーす!」
「朝霞ちゃん、いらっしゃい」
「母さん、これから買い物いってくるから」
「うん わかった」
「朝霞ちゃん、ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
母さんは、そう言うと買い物へ出かけた。
俺たちは、部屋へ行き勉強をはじめる。
「なぁ? そういえば、朝霞の進路希望聞いてないかも」
「あぁ……俊は?」
「俺は、ここのN大の法学部が第一志望かな」
「へぇ~。俊も法学部目指すんだ」
「まぁな」
「なんで?」
「なんでって……。朝霞が弁護士になるって言ったから」
「言ったから?」
「朝霞は、自分を守る為それから弱い人を助けたいと思ったって言ってただろ?」
「うん」
「俺も同じ、自分を守り強くなりたい。そして弱い人も朝霞も助けたい」
「え?」
「俺、ずっと朝霞に守られてばかりだった。俺だって朝霞を守りたい」
「そっか……」
「うん」
「ありがとう」
朝霞は、にっこり微笑む。
しかし、どこか寂しそうな表情だった。
「それで、朝霞の進路希望は?」
「……東京のT大」
「え……」
「なんだよ」
「いや……地元じゃないのか……」
「ずっと前から、決めてた」
「なんで、もっと早く言ってくれなかったんだよ」
「言う必要なんてないだろ」
「だって……」
俺たち、付き合ってるんじゃなかったのか……?
その言葉が、なぜか言えなかった。
「どこでどう過ごしたって、私は変わらない」
「え?」
「俺たちは、そんなことで壊れるような仲なのか?」
「なんで、そこだけ俺っていうんだよ。ずるいぞ」
「いいじゃん」
「確かに、そうじゃないと思ってる。けどさ」
「けど、なんだ?」
俺は、この先もずっと朝霞と一緒にいると思ってた。
いや、信じてた……。
でも、それは俺が勝手に思っていただけに過ぎなかったんだ……。




