第三話 教室に風が入った日
放課の時間になり、クラスの女子が朝霞の周りに集まる。
「ね、ね? 今朝の俊、カッコ良くなかった?」
「私も思った~! 朝霞に手出すな! だって」
「きゃ~♪ 私も言われてみたい」
「おい、からかうな」
「でも、ね~?」
「うんうん、いいよね~!」
すると、俺の席の前に神田と成沢が立つ。
「おい、俊。今朝のどういうつもりだ?」
「俺たちに、喧嘩売ってんのか?」
はぁ……。やっぱ、こうなるよな……。
それを見た、クラスの女子たちが更に神田と成沢を囲んだ。
「ねぇ、あんた達いい加減にしなよ」
「そうだよ、そういうのマジでウザイから」
え……?
他の男子たちも、更に同調する。
「そうだぞ、お前らいい加減やめとけ」
「卒業できなくなるぞ~」
「自主退とか、マジやべぇし」
神田と成沢は目を合わせる。
「ちっ、行こうぜ……」
俺は緊張の糸が切れたように、机に突っ伏したまま朝霞のほうを見る。
目が合ったかと思うと、彼女はふっと微笑んだ。
* * *
――放課後
俺の机の上に、朝霞がリュックをドサッと置く。
「おい、俊。帰ろうぜ」
「え? お前と?」
「なんだよ、朝も一緒だったろ」
「そ、そうだけど」
「ほら、帰るぞ」
「ぶ、部活は?」
「今日は、休み。 行くぞ」
「お……おぅ……」
「朝霞、待って~! 私たちも一緒に帰る」
「なんだ、俊ずるいぞ俺らも一緒に連れてけ」
昇降口が、ガヤガヤ賑わう。
「こっちこっち!」
「なんだか、大所帯になっちまったな」
俺は、大勢の輪の中心にいることなんてなかったから、少し肩に力が入る。
なのに心の中が、フワフワとくすぐったかった。
大通りを渡った先からは、俊と朝霞は二人になった。
「今日、カッコ良かったじゃん?」
「え?」
「ちゃんと立ち向かえてた」
「なんか、咄嗟に……」
「すげぇじゃん」
「う、うん……」
「俊が、自分で動いたからみんなが動いたんだよ」
「そうなのかな……」
「そうだよ」
「でも、朝霞はなんで俺を構うんだ?」
「言っただろ、放っておけなかったって」
「そうだけど」
「それに、俊が優しいのは知ってる。ずっと見てた」
「え?」
「黒板消しの掃除とかさ……みんな、誰かがやるだろうって思っている」
「あぁ……」
「俊はそういうの、さり気なく気が利くよね」
見てたんだ……。
「それにさ、猫拾っただろ?」
「え? なんでそれ知ってるの?」
「俺もさ、気になってたんだ。あの猫」
「そしたら、俊が抱いて連れて帰ってくの見たんだ」
「そっか……」
「そういうこと出来る奴って、すごいよ」
「そうかな」
「そうだよ。俺のことも、かばってくれたし。もっと、自分に自信持ちな」
「うん……」
「なぁ? 今度、猫見に行っていい?」
「え!?……い、いいけど……」
「猫の名前、なんてつけた?」
俺の中でずっと行きたくなかった学校が、この日を境に大きく変わっていった。




