第二話 雨の日の登校
休もうと思っていた雨の日の朝。
俺はなぜか、朝霞と傘をさし並んで歩いていた。
「なんで、急に家に来たの?」
「昨日の俊、見てたらどうしても気になってさ」
「え?」
朝霞が立ち止まり、俺の目を真っすぐ見つめる。
「な、なに……?」
「昨日の俊、絶望した顔をしてた」
「俺が……? そんな顔してたんだ……」
「今日、学校……休むつもりだっただろ?」
「う……うん……」
「本当は、悩んだんだ。……迎えに行くか行かないか」
「んじゃ、なんで?」
「放っておけなった……」
「別に、俺なんか……」
俺はまた歩き始め、朝霞も並んで歩く。
「俺なんか、何? まさか、どうでもいいとでも思ってるのか?」
「……」
「俺さ、中学の頃は全然こんなんじゃなかったんだ」
「え?」
「友達もいなかったし、今の俊より酷かった」
「朝霞が?」
「いまの俺を見てると信じられない?」
「あ……あぁ……」
朝霞がいじめられていた……?
確かに、中学時代の朝霞のことは、何も知らない。
周りにも知ってるような奴らは、誰もいなかった。
「上靴は無くなるし、教科書やノートは落書きされて、給食もいたずらされてた」
「まじか……」
「最初の頃はさ、ビクビクしながらじっと耐えるしかないと思ってた」
「じゃぁ、なんで……?」
「俺、漫画好きでさ。結構読んでるんだ。ある時、『Be Reborn』っていう漫画読んだんだ」
「ビーリボーン?」
「英語で、生まれ変わりっていう意味」
「へぇ~」
「その主人公も、いじめられて不登校になるけど強くなっていくんだ」
「その漫画の影響を受けた?」
「まぁね。 それまでは、ずっと傷つくのが怖かった。 でも、傷つくのを怖がってたら何も出来ないって思った。だから、敢えて傷ついて痛みを知って、立ち向かおうと思った」
「なんで敢えて痛みを知ろうと思ったんだ?」
「どっちにしろ、傷ついてるんだし何もしないで後悔したくなかった。
それに、痛みを知れば人の気持ちがわかるようになる……」
「朝霞は、強いよ」
「そうか?」
「普通は、そんな風に考えられない」
「でもさ、相手も同じ歳の人間だろ? 特別じゃないんだよ」
「そうだけどさ……やっぱり朝霞は強いよ」
「まぁ、前よりは少し強くなったか」
「立ち向かう……か……」
「悪い事してないなら、堂々としてればいい。あいつら、調子に乗るだけだから」
「そう言うけどさ……」
「うん、難しい……。勇気いるし、もっと辛くなるんじゃないかって考えるんだろ」
「……」
「でも、大丈夫! しっかりしろって、俺がついてるだろ」
朝霞が背中をバンッと叩く。
「痛っ。すげぇ自信過剰だな……。 でも、頼もしいな……」
二人の笑い声が、雨音に混じり合った。
* * *
「おはよー!」
「あ、朝霞おはよ~!」
「なんだ、お前ら二人一緒に登校かよ」
神田が、待ってましたとばかりに茶化してくる。
「なんだなんだ~? 二人付き合ってるのか?」
成沢も便乗する。
「お熱いね~。ここだけ、気温上がちゃってるんじゃないのか~?」
「だから、何?」
その一言に、みんなが「え?」と驚く。
「う、嘘だろ? 早川が、俊と~?」
教室中のざわめきが一段と大きくなる。
「こんな、奴より俺と付き合ったほうがいいんじゃね?」
成沢が調子に乗ってからかう。
「うるせぇなぁ!」
「なにぃ?」
「いちいちグダグダうるせぇって言ってるんだよ」
「ちょっと、朝霞……」
クラスの女子が止めに入ろうとする。
「今どき、いじめなんてダセぇんだよ!」
「なんだとっ」
成沢が、朝霞の胸ぐらを掴む。
クラスの女子が騒ぎだす。
「やめろよ! 女子に手出すなんて卑怯だぞ」
俊が間に入り、朝霞をかばう。
「こいつなんて自分のこと俺っていってるあたり女じゃねぇし!」
「言ってることが、ちぐはぐだな」
「なんだとっ!」
「やめろって言ってるだろ!! 朝霞に手出すな!」
「なにっ、俊のくせに生意気だぞ!!」
成沢は、今度は俊の胸ぐらを掴みかかる。
「おい! 相手は俺だっただろ?」
「なんだ、二人してかばい合いかよ」
神田が煽る。
「悪いかよ」
「やめろっ。朝霞は関係ない」
キーンコーンカーンコーン。
成瀬、神田と睨み合う朝霞。
「お前らなにしてるんだー? 早く席に着けよ~」
「くそっ」
先生が教室に入り、ガタガタと席に着いた。




