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無価値スキル【価格表示】が覚醒したら、ガラクタで最強になった。【第3章開幕】  作者: 鍵宮ファング
第3章 闇と因縁と崩落する黄金郷(夜天競売会篇・後篇)

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第33話 コレがオマエたちの価値

 急ぎ足で競売会会場――オペラ座を出ると、露店(ろてん)の連なった夜市(バザール)が広がっていた。


 ほんの数分前まで笑い声で満ちていたはずの夜市は、もうそこにはない。


 果物を抱えた商人は荷車を放り出し、家族連れは悲鳴を上げる子供の手を引いて逃げる。


 行き交う人々が我先にと押し合い、倒れた誰かを踏み越えて逃げて行く。


 その中心に、夜空を背負うように立つのは、三メートルを超える怪物。


 ベリアルは逃げ惑う群衆など眼中にない様子で、一軒の露店を掴み上げた。


 次の瞬間、その屋台は砂のように崩れ始めた。


 木材も、布も、並べられていた雑貨も。


 触れられた全てが色を失い、灰となって夜風へ溶けていく。


(もろ)い』


 ベリアルは(てのひら)に残った灰を見つめ、退屈そうに呟いた。


『価値無き器は、触れるだけで崩れる』


 言葉と同時に近くの露店を蹴散らす。


 その風圧一つで、周囲のテントが舞い上がり、小さな瓦礫(がれき)が飛び(すさ)む。


「皆さん、下がって!」


 《(コウ)


 カグヤが間髪入れずに札を切り、障壁(しょうへき)を展開した。


 それでも勢いがついた瓦礫(がれき)は、その障壁すら突き破って襲いかかってくる。


先刻(せんこく)の人の子か。何をしに此処(ここ)へ来た』


「そんなの決まってるだろ! オマエを止めに来たんだ!」


「街を壊すなんて、そんなの許さない!」


戯言(ざれごと)を。貴様らのような無価値なデク人形に、我は倒せぬ』


 ベリアルは俺たちを見下しながら、一歩踏み出す。


 地面が大きく揺れ、思わず転びそうになる。


『だがこの我に立ち向かう勇気、賞賛に値する。価値なき勇気だがな』


「図体だけじゃなく、態度もデカいとはなァ。ハッキリ言って、私はアンタが嫌いだぜ」


 ヴェルカは鼻で笑い、スカートの(すそ)豪快(ごうかい)に引き裂いた。


 そして先程のお返しと言わんばかりに右脚を踏み出し、ベリアルの顔を(にら)み上げた。


「テメェにも教えてやるよ。人間サマの本気がどれくらい恐ろしいモノかをよォ!」


雑兵(ぞうひょう)ほどよく吠えるものよ。まずは貴様から血祭りに上げてくれる』


 巨大な拳が、ゆっくりと持ち上がる。


「来るぞ!」


 俺が叫ぶより早く、ベリアルの拳が大地に叩き付けられた。


 轟音。


 石畳(いしだたみ)が爆ぜ、地割れが放射状に走る。


 屋台は宙に跳ね上がり、(たる)も荷車もまとめて吹き飛んだ。


「散れッ!」


 ヴェルカの一声で、俺たちは同時に跳ぶ。


 俺は左。ミリスは後方。


 カグヤは瓦礫(がれき)を足場に家屋の屋根へ。


 ヴェルカだけが、真正面から飛び込んだ。


「全力で、行かせていただきます!」


 言いながら、カグヤは自分の傷口を引っ掻き、噴き出した血を手持ちの札に与えた。


「《東方式符術(とうほうしきふじゅつ)奥義(おうぎ)百鬼封陣(ひゃっきほうじん)》ッ!」


 次の瞬間、血を吸い込んだ札が生き物のように(うごめ)き、彼女の周りを取り囲んだ。


 そこから意思を持ったように、無数の札が飛び出した。


 《(ザン)》《(ザン)》《(ザン)》《(ザン)》《(ザン)


 数十枚の札が、光の刃へ変わる。


 《穿(セン)》《穿(セン)》《穿(セン)》《穿(セン)》《穿(セン)


 続いて矢のような鋭さを帯びた槍が現れ、


 《()》《()》《()》《()》《()


 最後に数え切れないほどの火球が、渦を巻く。


「行けッ!」


 カグヤの号令を受け、召喚されたそれは一斉にベリアルへ肉薄(にくはく)する。


「はぁ……っ!」


 その横で、ミリスが両手を掲げて瓦礫(がれき)を浮遊させる。


 石畳。屋台の柱。砕けたレンガ。


 彼女はそれら全てを重力で束ね、符術(ふじゅつ)弾幕(だんまく)へ紛れ込ませた。


 斬撃と炎、そして瓦礫(がれき)豪雨(ごうう)


 その死角へ滑り込むように、俺は転がっていた木の棍棒(こんぼう)を拾い上げる。


 《使い古しの木棍:30G → 百年樫(ひゃくねんがし)戦棍(せんこん):4,800G》


 握った瞬間、あまりの重さに肩が外れかけた。


 やっぱり武器はまだ早いか……。


 それでも、俺は棍棒を持って駆け出した。


「はぁぁぁぁッ!」


 足にありったけの力を込めて、ミリスの瓦礫(がれき)を経由しながら駆け上がる。


 石片(せきへん)が足裏に食い込んで、痛みが走る。


 ……くそ、靴を失ったのは痛かったか。


 けれど、その傷みを乗り越えて、ベリアルの頭目掛けて棍棒を振りかぶった。


「ホォォォォ、ワチャァァァッ!」


 その横で、同じく瓦礫を蹴りながらヴェルカも飛び出す。


 そして――


「ドラァァァッ!」


 棍棒を思い切り振り下ろす。


 ――だが、ベリアルは俺へ視線を向け、


『無意味なことを』


 大きな人差し指で俺の棍棒を受け止めた。


『《価値暴落(フォール・アウト)》』


 次の瞬間、棍棒が一瞬して灰と化し、俺の掌からサラサラと溢れ落ちた。


「え……」


『デク人形共めが。まだ分からぬか』


 言いながら、ベリアルはハエでも払うように腕を横薙ぎに振る。


 それだけで、カグヤの符術も、ミリスの瓦礫も呆気なく跳ね返された。


「きゃっ!」


「ミリス殿! くっ!」


 光の斬撃が、ミリスの瓦礫が、今度は二人を襲う。


 更に、ベリアルが触れた“それ”すらも、色を失って灰になった。


『我が触れたものに価値など残らぬ』


 ベリアルが静かに呟く。


『価値なきモノは()ちる。それが理だ』


 その一言に、誰もすぐ言葉を返せなかった。


 俺の手には、さっきまで握っていた棍棒の灰だけが残っている。


「……冗談だろ」


 指が触れただけで、まるで燃え尽きるようにして消滅した。


 瓦礫も、カグヤの斬撃だって。


 それに炎まで。文字通りに“燃え尽きて”灰になった。


「あり得ない」


 カグヤは傷口を抑えながら、血反吐混じりに呟く。


「私の術は、少なくとも物質じゃあない……」


 思念体(しねんたい)――エネルギーの類だと、カグヤは瞳孔(どうこう)を震わせる。


 言ってしまえば彼女のそれは魔法に近い。それなのに、


『触れられるモノならば、全て同じこと』


 ベリアルは俺たちを見下しながら告げる。


「おいおい、そりゃ流石にズルだろうが……」


 ヴェルカだけが、乾いた笑いを漏らしていた。


 平気な素振りを見せているが、額に汗が(にじ)んでいる。


 彼女でも、相当マズイと思っている証拠だった。


「魔法も無効化、その上近付いて触れられた瞬間ゲームオーバーってよォ」


 肩を竦め、諦めたようにカラカラと笑う。


「コレが悪魔のやることかよ、クソッタレが」


 その軽口が、逆に状況の最悪さを物語っていた。


 近付けば終わり。


 遠距離から攻撃しても、価値を奪われるだけ。


 ――触れられる。


 その条件さえクリアされた瞬間、俺たちは手も足も出せなくなるワケだ。


 ――じゃあ、どうやって戦えばいいんだ! あんな怪物と!


 考えろ。きっと何か、突破できる方法があるはずだ。


『フン。もう終わりか人の子よ』


 ベリアルが冷ややかな笑みを浮かべる。


 俺たちが何も出来ないと知って、勝ち誇っていやがる。


「クラド……やっぱりもう、無理なのかな……」


 ミリスの弱々しい声が耳に届く。


「いや、まだ方法があるはずだ」


 返事をしながらも、俺は必死に視線を走らせていた。


 奴の能力は俺の能力とよく似ている。


 触れたものの価値を変える俺と、価値を奪うベリアル。


 ――なら、俺ができないことは奴にもできないはずだ。


 けれど、そんな都合のいいものがこの辺りに落ちているはずが――。


 《使い古しの(ほうき):5G》


 《真鍮(しんちゅう)のベル:10G》


 《欠けた手鏡:8G》


 《紙提灯(かみちょうちん):3G》


 《巻き尺:15G》


 《針金ハンガー:1G》


 やっぱりダメだ。どれも安い。


 笑えるくらい、笑うしかないくらい安い。


 武器どころが、ガラクタにもなりきれない物ばかりだ。


「……ベル?」


 思わず呟く。


 こんなもの、鳴らして何になるってんだ。


 勝てる気がしない。


 そう諦めかけたのと、風に揺れたベルの音が響いたのは同時だった。


 ――チリン。


 思ったより心地良い音色だ。子守歌を奏でるには持って来いかも……。


 ――歌?


 刹那(せつな)、まるで雷に打たれたような衝撃が俺を襲った。


「……オペラ座」


「あ? オペラ座ぁ?」


 ヴェルカの声が遠く聞こえた。


 頭の中では、別の何かが猛烈な勢いで繋がっていく。


 舞台を満たす荘厳(そうごん)旋律(せんりつ)


 息を呑むほど迫真(はくしん)歌劇(オペラ)


 鳴り止まない花火のような拍手喝采(はくしゅかっさい)


 ――見えた!


 俺が、ベリアルが――。


 ――否。誰にも掴むことのできない、価値のある物が!


「なるほど、ようやく見えた」


「見えたって、何が?」


 ミリスが俺の顔を覗き込む。


 けれど今は、細かく説明する暇がない。


「三秒だけでいい。何とか隙を作ってくれ」


「三秒……?」


 言葉はそれだけだった。


 けれど、三人とも俺の目を見て頷く。


「三秒ですね、分かりました」


 最初に動いたのはカグヤだった。


 背後で(うごめ)く札をごっそりと掴み取り、ベリアルを睨み上げる。


「皆さん、私が術を発動したのを合図に動いてください」


 次の瞬間、何十枚もの札を一斉に解き放った。


 札は空中で陣を描き、光となってベリアルの四方を取り囲む。


 《(ザン)》《穿(セン)》《()》《(バク)


 攻撃と拘束を織り交ぜた、全方位同時展開。


 だがベリアルにとっては無駄な足掻きに過ぎなかった。


『浅ましい。何度言わせれば気が済むか』


 ベリアルが片腕を振るい、弾き返された術が灰となって夜風に溶ける。


 その隙に、俺たちは迷わず駆け出した。


「任せて!」


 ミリスが両腕を掲げ、瓦礫を動かす。


 俺は瓦礫から瓦礫へ、階段みたいに並んだそれを跳び越えながら、崩れた民家へ飛び込んだ。


 最初に掴んだのは、(ほうき)だった。


 《使い古しの(ほうき):5G → 砂塵の魔箒(ダスト・ブルーム):5,800G》


 ありったけの価値を与えて、大きく振りかぶる。


「これでも、食らいやがれッ!」


 思い切り薙ぎ払った次の瞬間、穂先(ほさき)が爆ぜるように解け、積もっていた土埃(つちぼこり)が一斉に巻き上がった。


 ただの土煙じゃない。


 暴風そのものが意思を持ったみたいに渦を巻き、瓦礫や灰を巻き込みながらベリアルの顔面に襲いかかる。


『むぅっ?』


 巨体が(わず)かに足を止めた。


 たとえ巨大な悪魔だろうと、目や耳にゴミが入るのは嫌だろう。


『おのれ、ちょこまかと!』


 ベリアルが鬱陶(うっとう)しそうに腕を振るう。


 だが払っても払っても、土埃は次から次へと舞い上がり続けた。


 その間に、目を付けていたガラクタを拾いながら駆けて行く。


「ヴェルカ、コイツを蹴り上げてくれッ!」


 叫びながら、手にした提灯(ちょうちん)をヴェルカへ放り投げる。


「任せやがれ、コンチクショウ!」


 煙幕を突き破るように、ヴェルカの脚が振り抜かれた。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 バァンッ! と乾いた音を響かせ、提灯(ちょうちん)は夜空へ高々と蹴り上げられる。


 《紙提灯:3G → 白夜提灯(ホワイト・ランタン):8,900G》


「今だッ! 弾けろォォォォォッ!」


 刹那(せつな)、夜が消えた。


 ベリアルの背後で白い太陽が炸裂(さくれつ)し、夜市を真昼に塗り替える。


『ぐっ!』


 爆風が土埃をまとめて吹き飛ばす。


 折角隠れていた俺の姿も、民家跡に浮かび上がってしまった。


『見つけたぞ小童(こわっぱ)――』


 ベリアルの腕が俺へ伸びる。


 ――だが、遅い。


「まだ俺の攻撃は終わっちゃいねえぞ」


 手鏡を握る手に、無意識に力が入る。


 《欠けた手鏡:8G → 太陽鏡(ソル・プリズム):9,600G》


 欠けた鏡面(きょうめん)が、提灯(ちょうちん)の放った莫大(ばくだい)な光を吸い寄せる。


 四方に拡散していた閃光が、一点へ、一筋に収束していく。


 鏡の中心が、太陽そのものみたいに白く()けていく。


「はぁっ!」


 鏡に溜まった光を放つように、ベリアル目掛けて押し返す。


 次の瞬間、圧縮された閃光が一直線に解き放たれた。


『くだらぬ、それが何に――』


 ベリアルの掌が接近する。


 だが、光はベリアルの掌を貫通し、巨大な右目に突き刺さった。


『ぐ、ぐはぁぁぁぁぁっ!』


 初めて、ベリアルの口から断末魔(だんまつま)が上がる。


 腕を引っ込めて、慌てて自身の両目を覆う。


『おのれ……貴様、何をしたッ!』


 答える義理などない。


 俺はすぐさま、控えていた二人に合図を送った。


「分かった! ミリス、本気出す」


 ミリスは両腕に力を込め、浮遊させていた瓦礫をベリアルへ解き放つ。


 しかもそれは、ただの瓦礫じゃあない。


 ついさっき、俺が跳び越えた瓦礫たちだ。


 《瓦礫:0G → 爆弾岩:1,200G》


 爆弾岩の雨が、ベリアルの胸元で爆ぜる。


 熱風がこちらまで届く。


 それを(こら)えながら、その瓦礫の中に今度はベルを投げ放った。


 《真鍮(しんちゅう)のベル:10G → 轟鳴の戦鐘(ブラスト・ベル):12,500G》


 ミリスがそれをベリアルの耳元まで運んだ瞬間、


「クラド殿、皆さん、行きますッ!」


 カグヤは札を強く握りしめたまま、屋根を蹴り上げて叫んだ。


「《穿・零式(セン・ゼロしき)》」


 音すら置き去りにして、紫の閃光がベルを叩いた。


 同時に俺たちは耳を塞ぎ、しゃがみ込む。


 ――キィィィィ――――――ィィィンッ!


「くっ……耳が……」


 塞いでいても、骨の(ずい)まで震わせる轟音が夜空を襲う。


 こんなものをまともに食らえば、まず鼓膜は破けるだろう。


『――――! ――――!』


 予想通り、ベリアルは何かを叫びながら暴れ狂っていた。


 俺たちも轟音の余韻(よいん)のせいで耳の奥がキーンとしている。


 だが、これでいい。この隙が欲しかった。


『ぐぬぅ……あり得ぬ。この我の肉体に傷を付けるなど……』


 耳を押さえたまま、ベリアルがゆっくりと俺たちを睨み据える。


 その双眸(そうぼう)には、先程までの余裕は欠片もない。


 あるのは、剥き出しの殺意だけ。


『貴様ら、一匹残らず(ちり)にしてくれる』


「できるもんならやってみろ!」


 俺は民家で拾った巻き尺をハンガーに素早く結びつけ、価値を与えた。


 《巻き尺:15G → 魔鋼巻尺(グラビティ・テザー):7,400G》


 《針金ハンガー:1G → 回天鋼輪(リターン・フック):6,900G》


 それをブーメランのように握りしめ、振り抜いた。


 ハンガーが夜空を斬り裂き、ブーメランのようにベリアルの足元を潜り抜ける。


 そして、巻き尺が右脚に絡み付いた!


「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 巻き尺に凄まじい圧がかかる。


 それを、腕が折れるような勢いで引っ張り上げる。


 その真上で、


「もういっちょ、ふんばってやらァ!」


 ヴェルカが天高く舞い上がり、空中で一回転を決めた。


「食らえ! 《超必殺・乱脚式(らんきゃくしき)きりもみキーーーック》ッ!」


『がぁぁぁッ!』


 右脚が跳ね上がる。


 支えを失った巨体が大きく傾いた。


 ヴェルカの蹴りが、その顔面を真正面から撃ち抜く。


 悪魔の首が大きく仰け反った。


 そして。


 ――ズドォォォォォォンッ!!


 夜市全体が震えるほどの轟音を響かせ、ベリアルの巨体は(つい)に地へ伏した。


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