金級冒険者になりたい!
「はい、これ」
モモカに買ってくるよう指示されたのは、赤ん坊用の抱っこ紐。
何に使うのかは知らないがとりあえず買ってきたのだが、
「ちょっと待って、ちょっと、待って」
「抱えて」
なんと驚いたことにモモカは俺の前に掛けた抱っこひもへとライドオン。
「それもこれもあんたが外に出たいって言うからでしょう」
「う…」
…話は数日前に遡る…。
「そう言えば、盗まれた金貨返してもらってないな」
「あの時はいろいろといっぱいいっぱいだったじゃない。気にしなくて良いわよ」
「いやー…でも数十枚だぜ? めっちゃ大金じゃん」
モモカの誘拐と一緒に金貨も盗まれていたのだが、モモカを安心させる為にすぐその場を離れてしまったので、それらを回収できていないのだ。
あれは一応モモカのお金なので、モモカが良いと言ってくれるなら…いや、金貨数十枚は悔しい。
「お金のことなら心配しなくても大丈夫よ。あたし、これでも貯金は金貨数百枚もあるんだから。それに、あんたがあたしを捨てないでくれるなら、あたしの財産は全部あんたのものよ」
そうにへらと笑いながら俺に体を寄せてくるモモカ。
ありがたい…じゃなくてこのままだと俺はヒモになるしモモカはヒモに貢いでしまうダメな女の子になってしまう。
「いや、気持ちは嬉しい。気持ちは嬉しいけど、ねぇ?」
「嬉しいならそれでいいじゃない」
「違くて。お金にモノを言わせた関係性はまずいとは思わないか?」
「…まあ、確かにそうね。でも今のあたしなんてお金も自分で稼げないし一人じゃ碌に生活も出来ないわよ。一方的にアキから受け取るだけの関係性の方がもっとまずくないかしら?」
何も言い返せない。
「…まあでも、あんたの気持ちも分かるわよ。あたしは別にいいけど、女の子の貯金を食い潰して生活するのに耐えられないんでしょ?」
「そうだな。それに格好悪いし。好きな女の子の前では恰好付けたいだろ」
「…もう」
俺の発言の何処かに何かを感じたのか何故かすこぶる機嫌の良くなったモモカが俺の体をぺちぺちと叩く。
「まあとにかく、お金は大事だ。自分で稼げるようにしたい。モモカの体を治す方法についても調べたいしな」
未だモモカの体はゆっくりと竜の呪いが進行し、左腕以外付け根まで無くなってしまった手足の切断面が紫色に腐っている。
定期的に俺の回復で進行した分を治してはいるし、命に別状はないが、魔法も使えず日常生活も不便になってしまった彼女をなんとかできるならなんとかしてあげたい。
俺の出来ることなんて、人を回復してやることだけなのに、それすら満足に熟せないなんて屈辱だ。
「そうだ、アキ。そんなに稼ぎたいならあんた金級冒険者になりなさいよ」
「突然金級に?」
「あんたの実力なら金なんて一瞬でしょ。金級になれば冒険者ギルドも手放したくない人材になるし、いろいろ働く上で有利になるわよ」
そう言えばこの町に最初に来た時に金級への昇格がどうとか言ってたな。
「確かに、この前ギルドに行ったら俺なんか金級試験受けれるって言ってたな」
「やっぱりアキは凄いわね…」
顔が少しくすぶるモモカ。
「でも言われるまで思い出せなかったよ。やっぱ物知りだな。流石モモカだ」
「当然でしょ! あたしはあんたのモモカだからね!」
しかし、ちょっと褒めてやればたちどころに元気を取り戻す。
「いろいろ教えてくれよモモカ先輩」
金級冒険者の試験とか、筆記だったら俺何も知らないからだいぶヤバイしな。
そう彼女に媚びてみれば、効果は覿面だったようで、
「せ、先輩ね…! ぐへへ…」
と何やら気持ちの悪い顔をしながら笑みを浮かべていた。
まあ楽しそうだからなんでもいいか。
と、モモカに金級冒険者試験の内容を聞いて、即日出発。
しようとしたところで冒頭に戻る。
「モモカさん、これは一体…?」
俺に抱えられたモモカに恐る恐る声を掛けてみる。
「この前みたいにあたしを一人っきりにしたら危険でしょう?」
「冒険者をやる関係上、こう前に構えられると超危険だと思うんですけど…」
モモカを前に掛けていると、まるで彼女を防弾チョッキとか鎧とかそういう感じに使っている感覚に陥って非常に困る。
何故かこっちに来てから類まれなる身体能力になってしまったおかげで動きづらいとかそういうのは感じないが。
「危険って…多分この世界であんたの隣より安全な場所は存在しないと思うわよ。すぐ回復魔法使ってくれるじゃない」
「う、うーん…」
まあ確かにそうかもしれない。ヒーラーの横がそりゃ一番安全だろうな。
「それに、あたしを連れて行けばどんな魔物なのかすぐ教えてあげられるわよ」
「それは、心強いな」
モモカを連れて行けばなんでも教えてくれるだろうし、確かにそういう観点から見るとアリだ。
「まあとにかく冒険者ギルドに向かうわよ」
彼女が俺の前で出発進行! と元気にはしゃぐのを見て、これでもいいかな、という気分になったので、このままギルドへ向かうことにする。
「銀級冒険者のアキだ。金級への昇格試験が受けられることになっている筈なので、お願いできないか」
冒険者ギルドに彼女と足を踏み入れ、受付さんにそう声を掛ける。
受付嬢は、前に抱っこされているモモカと俺を見て、最初はギョっとした顔を向けてきたが、すぐに顔付きを真面目な顔に戻し、
「承知しました。少しここでお待ちください」
と言い残し奥へと入って行ってしまった。
「な、なあモモカ。やっぱりこれは…」
「恥ずかしいかしら? でも冒険者にはもっと恥ずかしい輩も居るから大丈夫よ。一日中酒に溺れてるヤツとか、全身真っ黒フル装備の不審者とか、大声で騒ぐ痴女みたいな恰好した変態とか」
「そんな人居るの?」
なんか俺たちが随分マシに…ギリ思えないくらいかな…。
「君が、アキかい?」
二人で話している後ろから、ドスの効いた低い声が俺たちに声を掛ける。
振り返ってみれば、禍々しい大剣を担いだ燻ぶった青髪と無精ひげの目立つ大男が俺たちを見下ろしていた。
「凄い魔道具…」
モモカの呟きに気づき、禍々しい大剣に目を向ければ、鞘に納められた状態であると言うのに鞘の隙間から紫のオーラが立ち込めているのが見える。
しかし一体何の用で俺たちに声を…?
「そうだ。俺がアキだが…」
俺の発言を受け、目を光らせる大男。
品定めされるように全身をくまなく見られる感覚にはどうも慣れない。
「ちょっとあんた、あんまりいやらしい目つきであたしたちをじろじろ見るんじゃないわよ」
ってモモカ滅茶苦茶喧嘩売るじゃん。
「オイ、あれってアレックじゃねーか?」
「アレックってあのタイタンをソロで倒したっつーあの?」
「誰にも興味を抱かず、滅多に喋らない孤高の金級狩人がどうしてあんな男に話しかけてるんだ?」
「知らねーよ。あの男に何か用があるんだろそりゃあよ」
周りが突然ざわめき出す。
聞き耳を立ててみれば、アレックと呼ばれたこの男は相当な実力者のようだ。
でもタイタンなら俺も倒したことあるし! その点なら負けてないぞ。格好いい剣は持ってないが。
「すみません、お二方、準備ができました、奥へと進んでいただけますか?」
と、お互いの間に険悪なムードが漂いそうになったところを、奥から戻ってきた受付嬢さんがそう俺たちに声を掛けて来る。
「あ、もしかして…」
金級冒険者への昇格試験は、同じく金級冒険者との一騎打ち。
どれだけ善戦できたかによって、また相手を担当した冒険者の所感により昇格か否かが決定される仕組みだ。
そんな中俺に声を掛けてきた金級冒険者と言うことは…。
「ああ。俺が君の試験を担当するアレックだ。それと、すまない」
何がすまないなんだ?
「もしかして、さっきあたしたちをジロジロと見てきたことについてかしら?」
モモカがそうアレックに問えば、彼は首をコクコクと縦に振る。
ああ、モモカに言われたことを気にしていたのか。
「ふん、分かればいいのよ」
「すまなかった」
この大男…孤高とかソロとか言われていたが…これ口下手なのを勘違いされてないか?




