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金級昇格試験

 冒険者ギルドの奥に通され、そこにはだだっ広い空間があった。


「そこそこの規模があるギルドに併設されてる訓練所ね。上級魔法でも傷がつかない特別な魔法が掛けられてるらしいわ」


 前に抱えたモモカが無属性魔法の応用が~とか白銀級の魔法使いでないとこんな魔法は使えない~など言っていたが良く分からなかったので適当に返事をしていた。


 どうやら訓練所と言うだけあって、他にも何人か使用者が居たらしく、しかし彼らはアレックや数人の受付嬢や試験官を見て、只事ではなさそうだと思ってくれたのか場所を譲ってくれた。

 他にも立ち入りは特に制限されてないのか、遅れて何十人もの冒険者がワラワラと中に押し入ってくる。

 相当アレックという男が物珍しいのだろうか。


「それでは試験を始めたいと思うのですが…」


 受付嬢と一緒に俺をここまで案内してくれた、眼鏡のインテリって感じの試験官の言葉が詰まりながら俺を見る。

 正確には俺ではなく、俺の前の…。


「あたし?」


 きょとん、と首を傾げるモモカ。


「貴女以外居ないでしょう。危ないので離れてください」

「別に大丈夫よ。むしろハンデだと思わない?」


 モモカの挑発するような発言に、受付嬢や試験官が少し困ったような表情を浮かべる。

 一方アレックは眉一つ動かさない。

 しかし、誘拐未遂事件があった中、大丈夫だとは分かっているがモモカを一人にするのもかわいそうだ。

 と、困っていると、


「あ、あの…」


 と何時ぞやに聞いたことのある声。

 振り返ってみれば、そこには前にモモカを保護してくれたあの冒険者の姿が。


「モモカさん、私で良いなら少しの間、見やすいように抱えてあげられますけど…」


 どうやらあの冒険者さんはモモカがごねるのは俺とアレックの試合を見たくてたまらないからだと思っているようだ。


「…そう? じゃあお言葉に甘えて。お願いね」


 結構あっさりと俺の元から離れて冒険者に肩車のように支えられるモモカ。

 試験官と受付嬢も胸を撫で下ろし、試験が始まる。



 モモカから事前に聞いていたルール。命の取り合いにならないように、お互い武器の持ち込みは禁止で規定の物を使用、試験官が止まれと言ったら直ちに動きを止めること、など、普通の条件ばかり。

 元々俺は武器なんて持ってないし、あのアレックの禍々しい大剣は怖いから武器の持ち込み禁止に関してはただのメリットだ。

 しかしながら…。



「それでは初めてください!」



 しかし物凄い覇気だ。

 目の前に立っているだけで異常なほどの圧を感じる。

 絶対金級じゃないだろこれ。

 燻ぶった青の短髪が逆立っているように見え、構えられた規定の大剣は魔道具(アーティファクト)ではない筈なのに、何かオーラすら見える。

 禍々しい大剣をずっと恐れていたが、真に恐ろしいのはアレック自身だったのかもしれない。


「行くぞ」


 とアレックがボソっと呟いた瞬間、一瞬にしてアレックが俺の目の前まで接近。


「速っ!」


 プロントビードルのような見えない速度ではないが、速いモノは速い。

 なんとなく選んだ規定の片手剣で、上から襲い来る凶刃を防ごうとするが、ちっぽけな剣で巨大な一撃を耐えることなど出来ず、大きく仰け反る形になる。

 追撃を片手剣で受け流すように防いだり、普通に躱す。


 大剣と剣が織り成す剣戟が鳴らす軽快な金属音は止むことを知らず、それは永遠かのよう。


 アレックからの攻勢は一向に終わらず、俺も防戦一方になる。

 だが、身も蓋もないことを言ってしまえば、それだけだ。

 最初こそ驚いたものの、アレックのスピードは、プロントビードルやあの忌々しい霧島の光剣には届かず。

 ましてや剣に関してトーシロも良いところな俺が剣で対処できるスピード。

 流石に魂パンチまで使う気にはならないが、少しでも隙を見せれば、一瞬にしてアレックの懐に潜り込み、KOを取れる自信がある。

 だから、こうして攻め続けることで俺に攻撃をさせないのが唯一の勝ち筋だとアレックも分かっているのだろう。





「む…あのアレックだったかしら…なかなかやるわね」


 冒険者の頭の上からモモカがそう呟く。


「それはそうですよ。しがない銀級冒険者の私でも、アレックさんの伝説は知っています。やれ迷宮(ダンジョン)の探索を大きく進めたとか、ソロでタイタンを倒したとか」

「アキはもっと凄いのよ!」


 冒険者の上で暴れるモモカ。バランスを崩しそうになるが、冒険者の体幹が優れているのか転がり落ちることはない。


「なんてったってアキは白銀級の魔物を倒してるんだからね!」

「えっ!? そうなんですか!?」

「そうよ。だから、あたしが彼にくっついててようやくハンデっていうのもながち間違いじゃなかったでしょう?」

「いくら特等席で見たかったからと言って、流石にそんな二人の間に居るって死にに行くようなものじゃないですか…」


 呆れた、と口には出さないがその視線と態度が全てを物語っている冒険者であった。




 体感で数分が経過する。

 アレックの猛攻は終わることなく、ついに俺は壁の方へと追い込まれてしまう。


「っ!」


 一瞬横を見て自分と壁の距離を見定めていた俺の一瞬の隙を見逃さず。

 彼の直感と経験が勝機はここだ、と言わんばかりに、アレックは渾身の一撃を放つ。


 ──ガキン!

 と、音を立て俺の剣が弾き飛ばされる。

 スローに見える世界で、空を舞う俺の剣を確認したアレックは、トドメを刺さんと一層踏み込みを深く俺に向かって来る。


 しかし、なんでこんな強いのにソロとか孤高とか言われてるんだ? いくら口下手でもこんな強かったら引く手数多だろうに。

 一周回ってムカついてきたな。


 足に力を籠め、全力で跳躍。

 床がミシ、っと軋むような音を立てたのを尻目に、空を舞う剣をキャッチしながら一瞬で天井まで跳び上がる。


「な──」


 呆けて俺の方を見上げるアレックを捉えながら、天井を思いっきり蹴り飛ばして急接近。

 気を取り直し受けの構えを取るアレックだったが、もう遅い。


「くらえ!」


 急降下しなから繰り出される俺のキックを大剣で受け止めきれず、よろけたアレックに大剣ごと、追撃の蹴りをお見舞いしてやれば、アレックは漫画みたいに直線でぶっ飛ばされて訓練所の壁に激突した。


「…そ、そこまでっ! お二人とも止まってください!」


 勝敗は決したとばかりに、試験官が声を高らかに宣言した。



 水の町、エレアで有名な金級冒険者、アレックの破れた姿を見て、そこにいた誰もが息を呑む。


「おい嘘だろ…あいつ、アレックをぶっ飛ばしやがったぞ!」

「あんな体のどこにそんなパワーを隠してるんだよ…!?」

「孤高の狩人がやられただとぉ!?」

「モ、モモカさん、アキさん勝ちましたよ!」


 ただし、一人を除いて。


「そりゃ当然よ。あいつは呆れるほどに強いから」






「実は金級冒険者の試験は、三十秒相手の攻撃を耐えるだけで問答無用で合格になるのよ」

「どうして言ってくれなかったんだよ」

「だってその方がアキも暴れられて嬉しいでしょ?」

「別に破壊衝動はない…と思うけど。というかそうなら試験官も止めてくれよ」

「機密情報だからあんまり露骨に三十秒たった瞬間に終了って言えないのよ」

「機密情報ならなんでモモカ知ってるの?」

「それはもちろんあたしがモモカ様だからよ!」


 何時ぞやの冒険者に抱えられて戻ってきたモモカ。


「アキさん! 金級冒険者への昇格が認められました! こちらがギルドカードとなります!」


 と、近づいてきた受付嬢さんから新しいギルドカードを受け取る。


「良かったわね。これであんたもあたしと同じ金級。お揃いよ」

「それは嬉しいな」


 どうやら無事、金級冒険者になれたようだ。

 …それはそうとして、アレック。

 結構派手にぶっ飛ばしちゃったけど大丈夫だろうか。

 急いで彼の元へ戻ってみると、案の定というか気絶している。


「大丈夫か?」


 壁に激突し、少しばかり気を失っていたらしいアレックに回復(ヒーリング)を使う。

 たちどころに目を覚ましたアレックは目をぱちくりとさせる。


「君は…回復術師なのか?」

「まあ、そうかな」


 驚いた、と言った様子でこちらを見て来るアレック。

 まあヒーラーはあんなアグレッシブには動かないよな。


「全く息切れしていないその魔法の腕…」


 すると、アレックが決意を込めたようなキリっとした顔つきになる。


「その回復魔法を見込んで君に頼みがある」

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