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整理

「モモカ離してくれ…」


 あれから数週間、食っちゃ寝て駄弁るだけの生活をし続けてきたが、手持ちの貯金が尽きた。

 貯金が尽きたと言ってもホントに財布の中がなくなっただけで、ギルド銀行に行けば金はあるのだが…。


「嫌よ。あたしを置いて行って何かあったらどうするのよ」


 宿からすぐそこの店でご飯買って来ると言っただけで、残った左手で俺の腕を信じられないくらいの力で数時間くらい掴んで離さないからギルドまで行くなんて言おうものならどうなるか分かったものじゃない。


「そんなこと言われてもね…お金が無くなっちゃってね…ギルドまで行きたいんだけど」

「じゃああたしも付いていくわ」

「あー、うん…」


 正直な話、モモカを外に連れて行くことも考えたのだけれども、状態が状態だからあんまり連れ出すのもどうかと思ってしまう。


「もしかしてあたしの体のことで何か心配でもしてるのかしら?」


 ビタリと言い当てられてしまって気の抜けた相槌しか声を出せない。


「…最初は嫌だったわよ、もちろんね。でも、アキとならあたしは無敵だから。あんたが居ればあたしは大丈夫」


 にへらと笑いながら体を寄せてくる。


「それに、あたしみたいに戦えなくなった冒険者がギルドに来てお金だけ下ろして帰るなんてよくあることよ」

「マジか」


 やっぱりこえーな冒険者稼業って。







 モモカを抱えてギルドへ突入。

 内心穏やかではなかったが、別に誰もあんまり気にしていないようだ。


「ちょっといいかしら」


 つん、と通る声でギルドの受付嬢を呼ぶモモカ。


「はい。ギルド銀行をご利用ですか?」

「そうね、金貨を五十枚お願い。これ、冒険者カード」

「あ、俺も…」

「アキはいいの」

「え?」


 いいのって何。


「とりあえずあたしの金貨五十枚、お願いね」

「はい、暫くお待ちください」


 そそくさとその場を後にした受付嬢を尻目に、モモカに問う。


「どうして俺がお金出そうとしたのに止めたんだ?」

「それは…まあ、いずれ分かるわ」

「マジか」


 酷いあしらわれ方だ。


「あ、帰りにこれを売りたいから、ある所まで連れて行ってもらえる?」


 と、話を変えられ見せられたのはよく分からない変な玉。


「なんだこれ?」

「大したことのない魔道具(アーティファクト)よ。魔法の威力を上げて、魔力の消費を抑えてくれるわ」

「それ結構凄いモノなんじゃない?」


 強いことしか書いてない気がするのだけれども。


「どう言ったらいいのかしら、あたしくらいの実力だともう在っても無くても同じくらいの効果くらいしかないのよ。まだ駆け出しの子が使うなら効果覿面だと思うけど…」

「なるほどね」


 最初の方は強いけど後に火力のインフレに着いていけなくなるタイプのアイテムか。


 なんて考えていると、さっきの受付嬢が戻ってきたらしく、袋の中にぎっしりと金貨を入れてやってきた。

 それを受け取って、モモカに言われるままにギルドを後にし、次なる目的地へ向かう。






「アキと会うちょっと前くらいに少しだけエレアに滞在してたのよ」


 そう言うモモカの言う通りに道を右へ左へ進んで行くと、ちょっと怪しげな店。

 恐る恐る中に入ると、小さい店内にいかつい顔をしたおっさんが一人。


「ふん…てっきり顔を見なくなったと思ったらひでぇ姿で戻ってきたもんだ」

「うるさいわね。これ、換金してもらえるかしら」


 開口一番馴れ馴れしい口調で酷いことを言うもんで、ちょっとびっくりしてしまった。


「知り合い?」


 ついモモカにそう小声で聞いてしまうが、目の前のおっさんにも声は聞こえていたらしく、


「この店に来る奴なんて金儲けの為に魔道具(アーティファクト)を集めてるヤツか変態しか居ねぇから、自然と顔は覚えちまうんだよ」

「そんな話はどうでもいいでしょ、で、いくら?」

「ちょっと待て。…これなら…金貨二十枚だ」

「貴族の子供がこぞって欲しがるわよ。自分の実力以上の力を誇示する為には最適だもの」

「…金貨三十枚」

「…まあいいわ」


 バチバチだった雰囲気が一瞬で終わる。


「それで、首のネックレスはどうする? それも見た所魔道具(アーティファクト)だろう」

「これは…結構よ」

「ほう…」


 面白いものでも見たと言った感じにニヤつき始めるおっさん。


「彼からのプレゼントか?」

「ちがっ…! まだそんなんじゃないわよ!」


 モモカは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「なんだ、今までずっと一人だったお前さんが男なんて連れてくるモンだし、ペンダントも手放すつもりがないってこた、てっきりそう言うことかと」

「違うから! …違わないけど…」


 ぷりぷりと怒るモモカ。


「その兄ちゃん、一匹狼のお前さんが認めるってことはかなりの腕利きなんじゃないか?」

「当然よ! 白銀級の魔物を一人で討伐しちゃったんだから!」

「な…それはかなり凄いな、兄ちゃん。そいつぁラッキーだったとしても偉業だぜ。どうだ? 魔道具(アーティファクト)について興味があるなら何でも教えてやるが、どうだ?」

「白昼堂々あたしのアキを引き抜こうとしないでよ! 全く…帰るわよアキ!」

「また来てくれよ!」


 結局二人の会話には全く入れず、ほぼ空気のような状態で俺はその場を後にすることとなった。





「あの店主、性格が悪いのよ。アキはアイツの言うこと、あんまり気にしなくていいからね」


 店を出て暫くすると、モモカが突然そんなことを言い始めた。


「ペンダントだって、あれがなかったら死んでたんだし、なんとなく手放したくないなって思っただけで…。でもたかだか拾ったものをあんたからのプレゼントだとは思われたくなくて…」

「わ、分かったから…」


 モモカがなんか必死だったので内心なんでそんなに必死にと思いながら相槌を打つ。

 と、今まで激動の再会とガチで何もない数週間だったせいで忘れていたあの存在を思い出す。


「あ。お宝発見コンパス。なんとか拾ってこれたんだったけど…」

「ホント!? あれ無駄に高いから持ってくるの忘れちゃって絶望してたのよ」


 一応貴重品? だと思うので肌身離さず持っていたのだが言い出すタイミングが…この数週間毎日あったんだけど忘れてた。


「お宝発見コンパス、モモカに返そうか」

「いや、あんたが持っておきなさいよ。ろくに動けないあたしが持ってても仕方がないじゃない」

「分かった」


 コンパスを左右に動かしてみると、針が常に一定の方向を指し示す。


「…見てこれ、お宝発見コンパス、モモカのペンダントに反応してて面白いぞ」

「…さっきから発見発見言ってるけど、正式名称はそんな間抜けな名前じゃないわよ。ちゃんとそれには魔道具(アーティファクト)探査機(レーダー)って名前があるのよ」

「どうして最初にそう教えてくれなかったんだ?」

「アキと会ってまだ数日経ってなかったし、あんたちょっとガキっぽかったから難しい単語分からないかなって」

「俺めちゃくちゃ舐められてたのか」

「い、今はそんなことないわよ!」


 最初の出会いは結構感謝されて然るべきだった筈なのに、その後ちょっと信用されてなかったみたいで悲しい。


「今はアキの事、あたしが世界で一番信じてるから。連帯保証人にでもなってあげるわよ?」

「それはいろいろと問題がありませんか…?」



 バカみたいな話をしていたら、すっかり日も暮れ宿の前まで着いていた。

 ここはあたしが出すから、と言うモモカに抗えず、横の店で適当な食材を買い漁り、宿のキッチンを借り、食事を作る。



「あ、アキ…」

「どうした?」


 膝の上に乗せたモモカが何かを俺の掌に握らせて来る。

 開けてみれば、金貨が数枚。


「その、いつもありがとう。アキ。こんなあたしを見捨てないでくれて。だから、これ、あたしから、少ないけど…」

「な…俺は何もしてないし、受け取る訳には…」

「良いから。それより、ごはん食べましょう?」


 この数週間で左手を使うのがうまくなったモモカは少し拙いながらも左手を動かしパンに齧りつく。


「モモカ…」

「どうひたの?」


 口にものを咥えながらもちゃもちゃと喋る。


「もしかして、お金のことを気にしてる?」

「…」


 俺に貯金を引き出させないようにしたり、突然魔道具(アーティファクト)を売りに出したり、金貨を渡してきたり…何かに負い目を感じていて、それをお金で解決しようとしているのじゃないかと、気になって、そう聞いてみれば。

 モモカは少し俯いてしまい、口の中の物を咀嚼し終えてから、顔を上げる。


「だって、こんな体のあたしなんて、何の役にも立たないし…今のあたしにはアキにお金を渡すことくらいしか出来ないの」


 どこか遠い目でそう話し始める。


「あんたは優しいから、きっとそんなことないよって言ってくれると思うけど。ただでさえあんたに甘えっぱなしなのにこれ以上アキに迷惑掛けるわけには、いかないの」


 そう聞いてしまえば、どう返すことも出来なかった。

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