逆セクハラ
「ごめんなさい、今のあたしは魔法もろくに使えないのよ」
魔力を使おうとすると体に激痛が走るらしく、彼女は本当に何もできないようだ。
「あたしとのパーティは今度こそ終わりにしてもらっても良いわ。役に立たないどころか足を引っ張る存在のあたしを…」
「前も言ったけど、モモカだから俺はパーティを一緒に組みたいんだ。終わりなんて有り得ない」
「…正直、アキならそう言ってくれると思ったわ。こんな状態のあたしを捨てないなんて、相当の物好きか、お人好しか…それか、あたしが大好きすぎるんじゃないかしら?」
にへらと笑うモモカ。
「そうかもな」
あんまり考えずにそう返事を返す。
「…そうなのね…やっぱりそうなのね」
何故かニヤニヤするモモカ。
「…これからどうするか決めたから聞いてほしいんだが」
「ええ。なんでも言ってちょうだい」
「竜を殺す」
「…へ?」
さっきまでの上機嫌からは一変、信じられない物を見たというような顔をされてしまう。
「どうしていきなり自殺宣言するのよ」
「俺は真面目だが」
「どうやって倒すつもりなのよ。言っちゃなんだけどあんたちょっと火力の出る殴る蹴ると回復しかできないじゃない」
酷い言われようだ。実際前まではそうだったんだが、今は違う。
「いや、覚醒したから見てて。崩壊」
意識を集中させ、ドス黒い波動を呼び起こす。
「なによこれ」
「これに触れたら、消えます」
部屋に落ちているとあまりにも猟奇的で怖いので、さっき切り落とした紫色のモモカの腕を黒い波動で消す。
「あんたそんな魔法も使えたの…」
「だから戦いの中で覚醒したんだって」
もう呆れたわと言ったように溜息をつくモモカ。
「とにかく、無理なものは無理よ。それに、少し考えたら分からないかしら。あんたが死んだらあたしはどうすればいいのよ」
「…そうだわ」
負けるつもりはないが、確かにそうだ。
「あたしがどうなろうがあたし自身がどうでもいいけれど、あんたが死ぬのはもっと嫌よ」
左手で俺の右手に指を絡めて俺を見つめてくる。
本来俺がしっかりしなくてはいけない相手に純粋に心配されたことが恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。
「あんたその、偶にいじらしい仕草でのギャップで殺しに来るのやめなさい。いつか襲われるわよ」
「そんなこと言われても…とにかく、俺は竜を殺すつもりだけど、死ぬつもりもない。他に竜の呪いを解く方法があればそれを使うけど」
「…分かったわよ」
むすっと頬を膨らませるモモカ。
「…今日はもう疲れたわね。少し早いけど、何か食べて寝ましょう」
「そう言えば、部屋は一つで良かったのか?」
部屋を取るときに、モモカが一つで良いと主張したので言われた通りにしたのだが。
「あんたねぇ、部屋に一人にして左手だけのあたしに何かあったらどうするのよ。何もできないわよ」
「そ、そうだな」
そんな自信満々に言われても…。
「あんた意外と料理うまいわね」
「そうか?」
調味料は塩と胡椒だけ、適当にいろいろぶちこんでトマトを入れただけのスープをモモカに与える。
赤ちゃんのように膝の上に乗せ、スプーンを口に運ぶのだ。
そういえば食事はどうしようと彼女に聞いたのが最後、
「あたしは左利きじゃないし、あんたが食べさせなさいよ」
とのことだ。
「あたしが作ってもこんなに美味しくはならないわよ。あ、パンも頼めるかしら」
「分かった」
言われるままにパンを一口サイズに千切り与える。
「その…嫌じゃないか?」
「何がよ。もしかしてこれが? 全然、アキを顎で使えるのが楽しいから全く嫌じゃないわ」
「そ、そうか…」
逆に何がおかしいのかしら? みたいな表情をされると俺がおかしいのかな…といった気持ちになる。
「ごちそうさま。それで、トイレに行きたいのだけれど」
「うん、行ってらっしゃい」
「何を言ってるの? あんたも来るのよ。あたしがどうやって一人で用を足せば良い訳?」
「…あ」
絶望。
「ほら、ちゃんと脱がせなさい」
俺は何事にも動じない。鋼の精神力、鋼の精神力…。
「目を瞑らないで、ちゃんと支えて。転落したらどうするのよ」
「そんなこと言われても…」
「……なんかゾクゾクするわね」
「俺で遊ばないでくれ。少しは恥じらいというものをだな…」
下を見るわけにもいかないので、モモカのムカつくニヤニヤ顔を見ていることしかできなかった。
「寝るわよ」
「疲れた…」
この一週間何も考えたくなくて歩き続けたのも影響しているのかかなり体が怠い。
ベッドに横になれば段々と瞼が落ちてくる。
「ちょっと」
つんつん、と頬を突かれて眠い目をこじ開ける。
「ほら」
モモカが片方しかない腕を広げる。
「…どうした?」
「抱きしめてあげるから」
「いや、大丈夫…」
「良いから」
言われるままに彼女を抱き寄せる。
モモカの左腕が俺の頭を優しく撫でると、それはもう制御できない程の眠気が全身を襲う。
「ほら、やっぱり無理してたのね。こんな体だけど、あたしに甘えてもいいのよ」
「うん…」
眠すぎて何を言ってるのかはよく分からなかったが、適当に返事を返してそのまま意識を手放した。
「汗を掻いたわ」
「どうしたらいいんだ?」
「タオルで拭きなさい」
朝一番、言われるままに彼女の服を捲って、背中をタオルで拭いてやる。
「ちょっと、背中だけじゃなくて前も…」
「すいませんそれだけは勘弁してください」
彼女の前側はかなり破壊力があるので正直かなり目の毒だ。
「…まあ今日は勘弁してあげるわ」
俺の手からタオルを奪い取った彼女は自分で前を拭き始めてくれて安心した。
「モモカの手足を治す方法を調べようと思う」
「ないんじゃないかしら」
決意を新たにそう宣言したものの、一瞬で否定されてしまった。
「いや、もうちょっと俺の回復の出力を上げたりとか、他にも竜の呪いを解く方法は…」
そもそも俺が回復をどうやって使っているのかよく分かってないし、モモカの手足に関してはイフィルよりも何故か進行が早いし、イフィルのように魔法を使い続ければもしかしたら進行が遅くなるのかもしれないが…魔法は使えないみたいだし…もしかして詰み?
「ごめん、ないかも…」
「…まあ、もしかしたらあるかもしれないわよ」
俺の項垂れる様子を見かねてかさっきとは全く反対のことを言い始めるモモカ。
「ただ、今のあたしたちには休息が必要よ。何もしない時間が必要なの」
ベッドに横になったモモカがそう俺に言う。
「そうは言っても…少しでも早くモモカを助けないと…」
「気持ちはありがたいけど。あんた、自分が思ってるよりも疲れてるわよ」
どこにそんな力があったのか、モモカに腕を引っ張られただけで俺は一緒に彼女の居るベッドに引きずり込まれてしまう。
「今のも、あたしは力を入れてないわよ。体も心も疲れてるのよ。あんたも、あたしも。失ったものが大きすぎるわ」
…モモカは俺の為にずっと気丈に振舞っていたが、手足を無くしたなんてすぐ受け入れられるようなことではないだろう。
彼女に無理をさせてしまっていた自分が酷く情けない。
「…ごめん」
「謝る必要はないわ。あたしもあんたも結構お金はあるし、暫くのんびりしてましょうよ。全てのストレス、嫌な事を忘れて、ここで二人で休むのよ」
彼女に頭を撫でられると、また異常な眠気が襲ってきて、俺はこの世界に来て初めての二度寝へと誘われた。
しかし休ませるとかなんとか言ってたが、その後起きてからは彼女からの際どいハラスメントが留まることを知らず、全く心休まらなかった。




