崩壊
走っている途中で、爆発音。
振り返れば、私の家の目の前に土煙が舞っていた。
「アキ!」
今すぐ引き返してアキを助けてあげたいのに、私には力がない。
アキに守ってもらってばかりで、救ってもらってるのに、私は彼に何もできない。
でも、このままじゃアキは死んじゃう。
…一つの閃きと共に、私はある場所を目指して走る方向を変えた。
「本当にタフだね、君は」
服はボロボロ、しかしながら身には一つも傷なく俺は再び霧島と対峙する。
「もしかして…君のスキルはその驚異的な回復能力かな?」
「っ…」
しかしながら、土埃が晴れた瞬間再び胸に光剣がぶっ刺さる。
「だとしたら非常に厄介だ。なんせ、僕たちのスキルは無制限に使えるからね。ただ、厄介なのと同時に同情するよ。僕たちの肉体はわざわざ回復能力を使わなくても自動回復で回復するからね。まるでスキルがあってないようなものだ。まさしくハズレスキルかな」
「ハズレスキルとか知らねぇよ」
胸の剣を引き抜いた瞬間再び光剣が打ち込まれる。
もう何度も胸をぶっ刺されたせいで最早痛みなど感じなくなってきたので、胸に走る激痛を無視して霧島の元へと走る。
それを見た白フードたちが一斉にいろいろな色の魔法をぶっ放してくるが、またどれも俺には効かない。
土煙が舞う中、胸に刺さった剣を抜き、瞬時に霧島に接近し、思いっきり顔面を殴りつける。
やはり視界がない状態での霧島には一矢報いる術がある。
「チィッ…お前ら、僕の邪魔をするんじゃあないッ! もう魔法は飛ばすな!」
しかし霧島ももうそれは分かったようで、白フードたちに叱責を飛ばす。
再び霧島と目があい、次の瞬間また胸に剣が刺さる。
「はぁ…はぁ…ここまで僕を追い詰めたのは君が初めてだよ」
滅茶苦茶泥試合だ。こっちはお前に構ってる暇なんてないのに、お互い打点がない。
「…分かった。君を倒す方法。精神を壊してしまおう」
途端、右足に光剣が突き刺さり、地面に縫い付けられてしまう。
力任せに足をと光剣を引き抜くと、次は左足に光剣が突き刺さる。
面倒くさいことこの上ない。
「その後はあの村の魔人たちと先ほど君が逃がした少女の首を揃えて君の目の前に提出するとしよう。なあに、あの村に火をつけたのは無論僕たちだ。僕の部下が直に全員皆殺しにしてくるだろう。おい、お前たち、ここは良いからさっきの女を探しに行け」
そう言われて、頭の中で何かがプツリとキレる。
闇雲に足を動かすも、奴の元まで行ってアイツの顔面をぶっ飛ばすのにはかなり時間を要するだろう。
しかしそんなのお構いなしだ。
「牛歩の君が僕のところへ辿り着くまで暇だし、冥途の土産というわけでもないが、少し話でもしよう。僕たち勇者のチート能力と類い稀なる肉体、魂を知覚する感覚は、魂レベルの違いから生まれるモノだ」
突然聞いても居ないことをペラペラと喋り始める霧島。
「仮に、元居た世界の魂レベルを10とすると、こっちは1未満だ。本来ならば交わることのない僕たちだが、数奇だが定められた運命を辿ってしまったことでこの世界に召喚される。すると、僕たちのこちら世界の基準では非常に強大な魂レベルが、魂の感覚、肉体の強さやスキルとしてバグを起こし現世に顕現してしまうんだ。惜しむらくは僕たちの体には魔力が全く存在しないことか」
「鍋一杯のカレーライス…魂を全て皿に盛ろうとしても、お椀程度の皿だと溢れてしまうだろう? だから机一つ分くらいの皿…肉体と能力になるのだよ」
「少し長々と話し過ぎてしまったかな。そろそろ村の方も片が付いただろうか」
何を言っているのか全く分からないが、これだけは分かる。
今すぐに俺はこのお喋り野郎をぶっ飛ばして早く皆の元へ行かなくてはならないと。
魂が、バグが、カレーがなんだ。俺にあるのは怒りと使命だけだ。
ドス黒く濁った怒りを、まるで回復魔法のように放出。
「なっ…」
暖かい光ではなく、真っ黒で薄ら寒い黒い波動が俺の体から放たれ、一瞬にして光剣を消し去った。
「なんだそれッ…!? そんなスキルがあるなら先に言えよッ!」
再び光剣が俺の体の前に飛んでくる。
しかし、俺の体から放たれる黒い波動がその光剣をかき消してしまう。
この光剣、まるでいきなり俺の体に刺さったかのように感じたが、実際は奴の手元から光の速さで剣が飛んできていたのを認識できていなかっただけらしい。
ゆっくり、ゆっくりと、俺は奴の元へと歩を進める。
体が重く、まるで自分のものではないようだ。
「嘘だ…! 僕の反逆の聖剣に貫けない物はないんだ…!」
狂ったように飛んでくる光剣を黒い波動が消し続け、ついに奴の目前まで迫る。
「とっとと失せろ」
コイツらしく、この能力に名前を付けるとするならば、
「崩壊」
黒い波動が霧島を捉える。
「ヒ、ヒィッ!?」
なんとか体を捩じって避けたつもりになっているみたいだが、波動に触れた右腕が消し飛んでいる。
「ぼ、僕の腕がァッ!?」
「そんなに喚くなよ。あの村に火をつけたのってお前なんだろ? それに比べれば安いものだろ」
「う、うわあああッ!」
狂ったような声を上げ、背を向けて走り去っていく霧島。
後を追うように走ろうと思っても、体が思ったように動かない。
崩壊を使い始めてから体が異様に重くなった気がするので、崩壊を解除してみると、すぐに体は調子を取り戻した。
逃げていった奴の事なんて今はどうでもいい。
とにかく村の人たちを助けなくては。
「お母さん!」
「や、やめて!」
「く、来るなああ!」
俺が辿り着いた頃には、村の建物は半分以上が燃えていて、村民たちが必死に白い服装で統一された兵士たちから逃げていた。
近くで剣を振り上げていた兵士を魂ごと殴り、殺す。
手当たり次第に殺していく。
「アキ!」
「アキ、お母さんが…!」
怪我をしている村民には回復。
殺す、回復、殺す、回復、殺す、回復。
「おいアキ、こっちを見ろ!」
はっと後ろを振り向けば、いつの間にか霧島が村民の首に光剣を突き付ける。
「コイツの命が惜しければ大人しく──」
「俺のことは良いからアキ、みんなを助けてくれ!」
一瞬で霧島の元へ近づき、顔面を思いっきりぶん殴る。
村人の首に刺さった光剣を抜き取り、村人には回復。
「ありがとうアキ、信じてたぞ!」
そのまま村人は走り去っていく。
「君…人質を取られてるというのに…人の心はないのか!?」
「お前よりはマシだろうな」
怒りのままに、崩壊を発動。
「く、来るなッ!」
俺から遠ざかる隙も与えず、黒い波動が霧島の脇腹を抉る。
「痛あ!?」
崩壊を解除し、霧島がどう動くかを冷静に観察する。
どう動かれても、次のアクションでコイツに肉薄し、零距離の崩壊を当てて完全に殺す。
その後は有象無象を殺して、逃げ遅れた人を全員助ける。
そしたら、この前沢山手に入った金貨を使って村を再興しよう。時間はかかるかもしれないが、きっと俺達なら出来る。
そして、モモカにイフィル。二人との関係も、そろそろ俺から答えを出さないといけないだろう。
何かあってからじゃ遅いから、これが終わったら──
「グルオオオオオオオオオ!!」
燃え盛る村の上空で。
火と月の光に照らされても尚黒い肉体が。
めらめらと燃える炎よりも何倍もの大きさの咆哮で。
「竜が…!?」
誰の呟きとも分からない一声。
次の瞬間、村に季節外れの粉雪が降り始めた。




