召喚された者
轟々と何かが燃え盛る音で目が覚める。
何やら不思議な音がするなと思い、外に出てみれば、音を聞きつけたのかイフィルも外に出ていた。
彼女が一心に見つめる方向を見れば、音の出どころはスズ村。
真夜中なのにやけに明るい村は…明るいんじゃない。
燃えていたのだ。村が。
「直ぐに行かないと」
もしも火傷をした人がいればすぐ治してあげないといけない。
ちょっと火の上がり方が激しすぎるし、とにかくすぐ行ってあげないと何か甚大な被害が出るかもしれないのだ。
「待って…」
駆け出そうとした俺の腕を、イフィルが掴む。
「放してくれイフィル。すぐに行かないとなんだ」
「違うの…今行ったら…白い人たちが…」
「白い人…?」
「剣と盾を持った白い人が沢山…!」
良く分からんが、ただの火事ではなさそうだ。
更に急ぐべき理由が増えてしまった。
「イフィル、俺は大丈夫だから──」
炎で煌めく小麦畑の向こうから、数十人の足音が聞こえる。
イフィルを庇うようにそいつらの方を向けば──
「なっ…!?」
この世界に初めて来た時の白フード。
あいつらが何人も、そこには居た。
「まさか俺を追って…」
どうやってここを嗅ぎ付けた? どうして先に村を燃やした?
頭の中は困惑と混乱、恐怖でいっぱいだ。
「…ん? おや、その髪色に瞳の色は…」
白フードの集団は俺を見つけたらしく、一気に警戒態勢に入る。
そんな中、一人だけ全く緊張も警戒もしない男がそこには居た。
見間違う筈もない、懐かしい、しかしながらこっちの世界では俺以外に見たことのない見た目。
黒髪黒目の、日本人がそこには居た。
「まさか、精霊王の命に背いた反逆者がこんなところに居るとはね」
「何を…」
いきなり何を話し始めるんだコイツは。
「まあ、殺しはしないであげるよ…同胞っぽいしね。僕は霧島 大智。特別に君には、僕のことを大智と呼ぶことを許可するよ」
優雅に──ナメていると言った方が正しいだろうか、礼をする霧島。
「精霊王が何かは知らないが…何をしに来た!?」
「おや、召喚されて早々に逃げ出したと聞いたけど、まさか本当に何も聞かず逃げ出したとは…」
このお喋り大智をとっととどかして村に向かわなきゃいけないのに…コイツに勝てるビジョンが全く浮かばない。
全く不用心な構えの筈なのに、隙を感じさせない威圧感。
後ろの白フードたちの数も力押しが難しいと感じさせる要員になっているだろう。
「じゃあ、一応話してあげるよ。君も含め…僕たちは勇者だ」
「勇者…?」
後ろに居たイフィルが声を漏らす。
俺も気の抜けたはぁ? と言った声を出しかけた。
「ああ。エルティナ帝国の皇帝と精霊王の勅命により、精霊たちの生活を脅かす魔の存在を滅する為に、僕たちが召喚されたんだ」
「魔の存在…?」
「魔の存在…このリュヴーズ大陸に巣くう人間の形をした亜人たちのことだよ。現代日本風に言えば、ケモミミってヤツとか耳の長いエルフとかだったかな」
亜人。村の人たちやライカのパーティの子たちか。
「そいつらが近くに居るだけで精霊たちはうまく働けなくなってしまうんだ。それにこの大陸の人間は見た目は普通でも、少なからず亜人の血が流れている混血の場合が多いっぽいし…僕としても心苦しいけれど、この大陸の人間たち…魔人たちには消えてもらう」
「な…」
こっちの大陸の人間を皆殺し…? やっぱり白フードの連中や帝国は狂ってる…!
「そんなのおかしいだろ!?」
「君、歴史は勉強したかい?」
「…何の関係があるんだよ、そんな話」
「いや、歴史なんて知らなくても分かるだろう。この世は力が全てなんだよ! 弱者は虐げられ、強者が甘い蜜にどっぷりと浸かる! 地球だってそうだった! でもこっちの世界では、僕が強者なんだ。僕と僕に与する者だけが正義なんだ! そうだろう、大精霊マリー?」
そう高らかに叫びながら、虚空に語り掛ける霧島。
「…やはりこっちの大陸は穢れが強くて顕現できないか…」
まるで話が通じない。…しかしながら、日本で生きてきた普通の人間がこうも過激な思想になる物なのだろうか。
「お前、霧島と言ったか。もしかしたらお前は帝国と精霊王とやらを正しいと信じて疑っていないのかもしれないが、俺は召喚された時に見たんだ。城の地下では人体実験が行われていたんだ。それに、俺もお前も、同意無しに突然ここに召喚されただろう? そんな非人道的な奴らの言うことを信じるのか? お前は騙されてるんだ、今からでも遅くない。そんな奴らの味方をするのはやめて、俺と元の世界に帰る方法を探そう」
そう言えば、ピクリと霧島のこめかみが動く。
やはり、都合のいい情報しか帝国に教えられていなかったのだろうか。
白フードたちも少し動揺し始める。自分たちが人体実験をしていたなんて霧島には伝えてないのだろう。
そして、霧島が言葉を紡ぐ。
「だからなんだ?」
「──は?」
どうしてそんな感想が出てくるんだ。
「どうせ実験に使われたということは大した能力もない無能。精霊たちの為に死ねたのならば本望だろ」
ああ成程。どうやら彼は…同胞の人間ではないのかもしれない。
こんな人格破綻者が地球に居る訳がないのだ。
もう対話での解決は無理だ。
コイツはタダの獣。自分の欲望だけで動くホンモノのバケモノだ。
「それに……わざわざ元の世界に帰ろうなんて、君は気が狂っているのか? あんな世界に? 僕が虐げられるだけの世界に!?」
「…もういい。話し合っても何も変わらない」
「そうか、そうか! 君はリア充か! 弱者の気持ちを考えた事がないんだろう! さっきの発言は取り消す。君は──ここで僕が殺す」
霧島が腕を振り、彼の右腕に光が集約した瞬間、一気に地面を蹴り出しヤツに接近──。
「は?」
胸に、光の剣が刺さっていた。
「反逆の聖剣」
ヤツとの距離はまだ数十メートルもある筈。なのに見えなかった。
「僕のスキルは全てを穿つ聖剣。視界に入る全てが僕の攻撃範囲さ」
「なるほど、なッ」
刺さった光を引き抜く。
自動で回復が発動し、胸はたちどころに回復。
「君の自動回復…どうしてそんなに素早いんだ?」
一瞬驚愕の表情を浮かべる霧島。
その一瞬の隙を付き、一瞬でヤツの喉元へと接近。
思いっきりの右フックをぶっ放す。
モロにパンチを受けた霧島は軽くよろめく。
「イフィル、逃げてくれ。こいつを何とかして俺は村の皆を助けに行く」
「で、でも…」
「良いから早くッ!」
イフィルの前で一度も出したことのないような大声を出せば、彼女は何度もこちらを振り返りながら、山の闇の中へと駈け出す。
「させるかよッ!」
そっちの方向に霧島が顔を向けようとした瞬間、霧島にのしかかり視界を塞ぐ。
「視界に入る全てがお前の攻撃範囲なら、視界を奪ってしまえばどうってことはないな!?」
そのまま馬乗りになり霧島を殴ろうとするが、左目が見えなくなり激しい熱。
反逆の聖剣をブチ込まれた。
しかしお構いなしにそのまま霧島の魂を知覚して必殺のパンチをお見舞い…。
「痛ぇんだよっ!」
確かに手ごたえはあった。しかし、効いていない。
気が散った瞬間に下から抜け出した霧島が俺を蹴り飛ばす。
「はぁ…はぁ…君、魂の知覚まで進んでいるとはね。スキルの力を一向に使わないのはどういう了見だい?」
こいつは俺と同じで魂を知覚して、何かしらの方法で防護できるようだ。
しかし、それをされるとだいぶ苦しい。殴る蹴るくらいしか俺には方法がないからな。
「──今だ! 撃て!」
俺と霧島の距離が開けた瞬間に、数十発の魔法が俺の元へと飛来する。
全てを完全に避けるのは無理だ──。




