9話 春男の観察
春男の観察
そろそろ新入社員が入ってくる季節だが、編集長はやっぱりオレを春男の担当からはずす予定はないようだ。春男がもっと大物作家になって、その春男から苦情でもくれば別だろうが、春男の方に文句はないようだ。オレは何となく、桜を恨めしげに見た。美しい分だけ、腹が立つ。
春男の家に着くと、急に春男が言い出した。
「若白髪って最近、流行りなの?」
オレのことか?とちょっと頭をよぎったが顔には出さずに言った。無意識に、手が髪の方に行っていた。まだ、そんな白髪になるような年じゃないし!だいたい流行ってなんだ?
「髪の一部をまとめて白く染める、あれか?」
オレは最近の若者の事を思い出しながら言った。とはいっても、どこまでが若いのかオレには段々理解できなくなってきているのだが。
「じゃなくて数本。クモの糸みたいに。」
春男は自分の髪を少し、つまんでみせた。まだ、そこに白髪はない。
「その人、本当に若かったのか?」
オレは聞いた。春男に女性の年齢を見た目で当てられまい。春男に限らず、オレも時々わからないことがあるが。たぶん春男よりかはマシだ。絶対に。
「だって学制服来ていたよ。」
これでは間違えようがない。大学なら若くない人もいるだろうが、大学に制服は普通はない。制服は高校生くらいまでだろう。
「たまたま、その子が若白髪だったんじゃないか?だいたい、白髪って言うのは流行でなるんだったら、まとめて一部を白くするだろう。」
「でもね、四人いた中、二人の子が若白髪だったから。半分の確率だから流行っているのかなと思ったんだよ。遺伝の問題なのかなぁ。」
そういうのを半分の確率というのだろうか。オレはちょっと考え込んだ。どうなんだろう?オレの周りに若白髪な人は、誰も思いつかなかった。
「ハイ、できたよ。」
ぼんやりしているうちに、春男が印刷して出した原稿が目の前に差し出された。
「ああ。じゃ、また二週間後に来るから。」
「わかった。」
そんな、いつもの挨拶をして、オレは外に出た。
その帰り、会社に戻るために駅にいたオレは、下に向かうエスカレーターで見かけた。若白髪な男の子。白く染めているのか本物なのか。オレには当然、本人に聞けなかった。しかし本物のような印象を受けた。だからといって流行しているとは限らないけれど。
その二週間後。
「ねぇ、最近ってパペットが流行っているの?」
やっぱり、春男がいきなり聞いてきた。
「パペットって手にはめる人形か?」
「そう。テレビでも本でもマンガでもアニメにも出ていたから。どうなのさ?」
いつの間に、みたのやら。本を読んだ、もしくはテレビを見たということは後で気をつけて見ておかないといけない。作品に影響が出ているかもしれないからだ。
それにしてもなんと答えていいやら。まったくというわけではなく、大流行というわけでもない。春男の流行の基準はどこになるのだろう。また半分の確率だろうか。
「わからん。」
オレは素直に答えた。オレに流行のことはわからない。




