5話 春男の友人には
春男の友人には
面倒くさがり大王の春男は家からでないことも多い。仕事の内容も関係しているのだろうが、オレは仕事じゃなくて、性格のせいだと信じている。仕事なら、仕事のない時に遠出にでもでかけるが、春男の場合は家で休むと決まっている。そのせいか、郵便受けはオレが行くたびに何かしらが入っている。入っていないときは、でかけたばかりだとすぐにわかるくらいだ。
その日は、どこからか帰ったばかりなのか、ソファのうえに郵便物が起きっぱなしだった。これを片付けなきゃ、オレが座れない。
「鮨屋からハガキが来ているが、お前、出前なんて取るのか?」
はがきやら、請求書やら、どうでもいい広告などを振り分けながら言った。
春男の家に入り浸るようになってから、春男が出前を取っているのは見たことがない。ま、あれだけ作れれば取る必要もないだろう。
ジャンクフードは見たことがある。たまに、食わせてもらってばかりだと悪いのでオレが買ってくるからだ。別に、きらいなわけではなく、ただ、買いに行くのが面倒なのだそうだ。
「ああ、それはね、友人からきたんだ。最近、やっと鮨職人になったんだって。」
パソコンに向かったままで、春男は言った。手書きだったせいか、ハガキには目を通したようだ。それにしても、毎度のことながら春男の友人はよくわからない。
「鮨?この間、言っていた料理関係に進んだ人とは違うのか?」
「あ、別の人。こいつはねぇ、卒業したときは普通の会社に入ったんだ。ところが、父親の店を継ぐって急に決まったらしくって。慌てて修行したみたい。」
「鮨屋の息子なのに、継がないつもりだったのか?」
やっとオレはソファに座った。
「さぁ?なにか、理由を聞いたような気もするけど、忘れた。」
オレはため息をそっとついた。春男の友人たちは、どこまで春男の記憶力が悪いことを知っているのだろう。たまに気になるところだ。
「じゃ、料理関係に進んだのは二人になったのか?」
「いや?パン関係に進んだのもいるし、魚はそいつだし、コックになった奴もいるし。調味料関係もいるな。あー、あと、菓子もいたような……。」
「料理関係ばっかりじゃないか!」
「でも、そんなものだよ。あとは、他の職業だねぇ……。作家は僕、一人だけだよ。」
春男はにんまりと笑った。と、いうことは?
「ん?じゃ、お前の友人たちは、お前が作家だって知っているのか?」
「どうだろう?言ったような気もするし、言ってないような気もする。いや、そもそもあんまり聞かれないからなぁ。まぁ、お互い様だよ。僕もなにやっているか、知らない友人が何人かいるからね。」
オレは頭がくらくらしてきた。こいつの頭には友人たちに自分の作品を売り込もうって作戦はないのだろうか?
しかし、確かに考えてみると、オレも自分の友人たちの全員がなにをやっているかわかっているかと聞かれれば、わからないと答えるだろう。出会えば、職業を聞くかもしれないが、春男みたいに家からでなかったら知ることはないに違いない。オレだって、こうして春男の担当していなければ、こいつが作家になったことさえも知らないまま、人生が終わっただろう。いや、それでもいいけど。
「今日、どっかでかけていたのか?」
「うん。その鮨屋に、鮨を買いに。今度、魚の解剖、というか、解体を見せてくれるそうなんだ。早く起きないといけないのが難点だけど、次回作にでも使おうかと思って。」
春男のたくさんの変わった友人たちは、本人の知らないところで、売上には貢献していないが、作品の内容には貢献しているようだ。




