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4話 オルゴール

オルゴール


 受け取る原稿がなくても、すっかり春男の家に入り浸るようになった。やっぱり、汚れきった部屋にまっすぐに帰るよりも、春男の家で食事をしてから帰ったほうが体調がいい。ついでに、仕事の進み具合も見られるし。

 その日、春男の机にはなにやら箱が置いてあった。

「なんだ、これ。」

「ああ、これねぇ。」

 春男は箱を開けて見せた。なにやら、入っている。これは、なんだっけ?

「なんだ、これ。」

「オルゴールの本体だよ。懐かしいだろう?」

 春男は本体を取り出して、ネジを回してみせた。曲が流れ始めた。なんだか、聞いたことがあるような曲のような気がする。しかし、聞いた方が早そうだ。

「この曲、なんだっけ?」

「僕たちの小学校の校歌。」

 ああ、という顔をした。そうだった。どおりで、どこかで聞いたことがあると思ったはずだ。

「でも、なんで、こんなものが?」

「あれ?忘れたの?卒業記念でオルゴール、作ったじゃないか。」

 オレは記憶をさかのぼる旅をした。ところが、どうもすぐには思い出せない。春男が覚えていることをオレが忘れるなんて、ちょっとショックだ。なんだか、悔しい。

「で、なんで、これがここにあるんだ?」

 オレはさらりと話題を変えることにした。

「ああ、今度の作品で使おうかと思って。実家から取ってきたんだ。」

 春男はパソコンの前に戻った。オレはいつものソファに座って、オルゴールを鳴らした。そういえば、と、うっすら思い出してきた。

 春男が覚えていて、オレが忘れているなんてことがあるわけない。

 卒業記念品のオルゴールは、いまだったら、危ないからと作らせてもらえないかもしれないようなものだった。木の箔でオルゴール箱を作るというものだったはずだ。

なにが危ないのかというと蓋だ。蓋の模様を彫刻刀で、彫るものだったから。そういえば、オレはあのオルゴールをどこにやったのだろう。実家を探せば出てくるだろうか。しかし、いまのところ、探しているような時間はなさそうだ。

「で、このオルゴールはなんで、箱がないんだ?」

「ああ、箱ね、落としたときに壊れたんだ。でも、そのまま捨てるのはなんだか気が引けてね。箱を壊して中身だけ取り出したんだよ。」 

 曲は静かに繰り返し流れていた。こういうものを見るとたしかに、同じ小学校だったのだなと改めて思う。ところが、一度も同じクラスにならなかったせいか、記憶にないのだ。卒業アルバムにはたしかにいる。

「オレ、これ、どこにやったかなぁ。」

 オルゴールを聞きながら、思いにふけった。運がよければどこかにしまってあるだろう。運が悪ければ、とっくにないはずだ。どうだっただろうか。

 その曲は昔のオレを思い出させた。毎日、外で遊んでいた日々。昔の思い出に浸っていると、春男が言った。

「夕食、食べていく?」

 どうして、こいつはロマンというものがないのだろうか。オレはため息をついたが、返事はしっかりとしていた。

「食べる。」



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