3話 才能
才能
オレは自分が休みの日だというのに、どこにもでかけるところがなく、かといって、一人では暇なのでと、理由を大量につけて、すっかり春男の家に入り浸りになっている。春男も別にオレがいても、いなくても特に問題はなさそうだ。
あるときのことだ。チャイムが鳴った。開けてみると、荷物を持った人がいた。
「はんこ下さい。」
「はい。」
オレは勝手に、春男のはんこを使って荷物を受取った。どこに入っているのか、わかっている自分が少し怖い。荷物は、重いし!春男の母親からだ。気をつけて持たないと腰をやられそうだ。
「春男、お母さんからだぞ。」
「あー、開けてー。たぶん、野菜。」
春男は振り返りもせずに言った。開けてみると、たしかに野菜だらけだ。ついでに、カレーのルーまで入っている。これも親心だろうか。
春男に家によく寄るせいか、すっかり最近では慣れて、なにを冷蔵庫に入れるかがはっきりとわかってきたところだ。これで、いつでも、お嫁さんと買い物に行ける。相手がいれば……の話だが。
「さて、じゃ、夕食でも作るか。カレーのルー?まだ余っているんだけどなぁ…。」
ぶちぶち言いながら、春男は立ち上がった。ちょうどきりの良いところまで進んだようだ。
春男宛に送られたたくさんの食材をみて、オレはふと思った。これを、ほとんどあまらせることなく、調理する春男は凄い。オレができることといえば、野菜の皮を剥くくらいだ。それも皮むき器を使って。
春男が、なにやら、ちゃかちゃかと作り出し始めたのを手伝いながら、ふと思った。
「そういえば……お前のお母さん、親父さんが料理するのは知らないのに、お前が料理するのは知っているんだな。だから、あんなに野菜を送ってくるんだろう?なんでだ?」
「僕に料理を教え込んだのは母親だ。これからの男は料理くらいできなきゃ駄目だって。ま、自分が料理の先生をしているっていうのもあるんだろうけど。あ、次は、ジャガイモの皮も剥いて。六つ、向いてくれ。半分はサラダを作る。」
「ハイハイ。つまり、親父さんが反面教師になっているわけか。ま、実際はともかく。」
春男の母親は知らないが、春男の父親の趣味は家事一般だ。当然、料理も含まれる。春男もうまいが、親父さんはもっとうまい。
「そういうこと。でもねぇ、料理ってある種才能だよ。」
大きなフライパンを持ち上げながら春男は言った。
「母親よりも親父の方が作った方が旨いもん。同じこと習ったはずなのに妹のほうが料理下手だし。これは才能の差だね。」
春男は得意げに言った。しかし、現実問題としては、オレの栄養偏り防止にしかなっていない。
「そうなのか…。才能ねぇ…。」
春男はルーを突っ込みながら言った。
「こんなんじゃなくて、作品を書く才能がずば抜けていたらなぁ。あ、キュウリはこれで、すってね。」
しみじみと春男は言った。いや、作家が言う台詞じゃないだろう!
オレは素直に、春男の言うとおりに動いている。そのうち、オレも料理がうまくなるかもしれない。
「お前も、料理関係に進めば良かったのに。いまごろ、売れっ子のシェフになっていたかもしれないぞ。」
「友人にもう料理関係に進んでいる奴がいたんだ。それで、みんな一緒じゃ、つまらないじゃないか。」
オレは思った。そんな理由で進路を決めたのだろうか。
「その人は、いまは、えらくなっているのか?」
「ううん。失業中。」
少しでもいいから、春男の中に作家の才能を見いだしたくなったオレである。




