2話 担当変更
担当変更
作家の担当者が代わることがある。春男の担当も何人か変わったことがある。長い間、他の人がもたなかったが。オレが一番長いだけだ。
オレは春男から担当が変わることはないだろうと思っていた。それが。
「お前の作家担当変更になるぞ。」
そう編集長がオレを呼びつけて言った。
「え?春男がそう言ってきたんですか?」
「そうじゃない。担当したいという奴がいるんだ。お前、やめたがっていただろう?」
「え、ええ。」
たしかに、春男の担当から変えてくれと言ってはいたが、本当にそうなるとは思っていなかったので、ちょっと拍子抜けした。
「まぁ、長く続かないとは思うが、ちょっと休憩だと思って他の作家の担当になってくれ。」
「わかりました。」
オレもそう思っていたところだ。いや、休憩の話しではなく、春男の担当でオレ以上に長く続いた担当者が誰もいなかった。へたをすると、担当になる前に去っていく。編集長にとってはやっかいな作家の一人だった。
とりあえず、春男にはオレの方から担当が変更になったことをメールで知らせた。
『わかった』
そっけない返事にオレもちょっと寂しくなった。しかし、これで晴れてしばらくは春男からの担当をはずれる、そのうれしさの方が勝っていた。
ところが、すぐに辞めてしまうだろうと思われた春男の担当になった新人は、春男のことが気に入ったらしい。おもしろがってよく社内でも話題にしていた。これで、春男から苦情でもこない限り担当の変更はなさそうだ。
一方オレの方は、つまらなかった。いや、仕事の方は順調に進んでいたが。
春男からのメールはぴたりとやんで、会社と家の往復だけになった。質問に悩まされることも、春男の母親の作る料理に悩まされることもない。すがすがしいはずだったが。三ヶ月もするとつまらなくなった。
そして、逆に嬉しそうに春男のことを話す新人が恨めしく思えてきた。
いつのことだったか、無意識のうちに春男の家に向かっていた。インターホンを押すと、春男が出てきて言った。
「どちらさま?」
オレはもう忘れられたのかと呆然となった。目の前が真っ暗になった。
「洋介。」
そうだ、オレのことを思い出したのか?いくらなんでも、早くに忘れすぎだろう。
「洋介ってば。」
目を覚ますと、春男がいた。オレのことを揺さぶっていたようだ。あれ?
「起きた?作品出来たよ。それに、こんなところで寝ていると風邪ひくよ。」
しばらくぼんやりしていたが、起きてみると急に視界がはっきりしてきた。春男の家のソファでうたた寝をしていたらしい。あれは夢だったのか?
「最初はにこやかに寝ていたから、途中では起こさなかったのに。起こす前はしかめた面で寝ていたね。どんな夢だったんだい?」
春男にそう聞かれたが、確かに見ていたはずの夢の内容が起きるのと比例して急にぼんやりしていった。どうも思い出せない。
「さぁ。」
オレは頭をふるふると振ってみた。どんな夢だったのだろうか。




