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46話 未完成の作品

未完成の作品


 春男の打った作品は、できるだけこまめに回収する必要があると、三代目の担当者は教えてくれた。その習慣はいまでも、続いている。ちょっとでも、ためておくと、消されてしまうのだ。すっかり、忘れていたら、目の前で消されたこともあった。

「なんとなく、つまらないような気がして。」

 こうなっては、てこでも動かない。どんなに説得しても聞かないのだ。書き直しになる。締め切りがどんなに迫っていても、そんな事が起こりうる。しかし、先に受け取ってしまえば、よっぽどのことがない限りは変更しないようだ。それが、最初からわかっていたオレは、まだマシだったに違いない。オレの前の担当はさぞかし大変だったことだろう。

しかし、実は消されたとされる原稿が残っていることもあるのだと、最近になって知った。 

春男の部屋には、音楽関係のものはほとんどない。しかし、ディスクだけはある。それでも、中に入っているのは音楽ではなく、作品だ。本棚の一部を占領して、そこにきれいに並べられている。落ちて壊れないように、そんなに上のほうには置かれていない。

普段、春男は作品をパソコンで打つときにはフロッピィーに入れている。グラフで表示されている円グラフの色がだんだん埋まって変わっていくのが楽しいそうだ。仕事をした気分に浸れるからだと言っていた。大抵、一枚に二作品くらい入れている。入らないときは、もちろん一枚に一作品だ。

フロッピィーより、もっとたくさん入るからとディスクを渡してみたが、どうも落ち着かないそうだ。一応、フロッピーが壊れたとき用の保険としてディスクにも入れる。

ディスクも増えるが、それ以上にフロッピーだけが増えつづけていく。もう本になった作品など消してもよさそうなのに、なぜか、消そうとしない。なんとなく落ち着かないそうだ。しかし、それくらい、他の作家でもある。別に春男に限ったことではない。

ディスクやフロッピーは春男の父親によって、タイトルの書かれたシールを貼られていて、分類されて置かれている。当たり前だが、春男の作品を読んでいるオレには、見たことがあるはずのものばかり……のはずだった。

あるときに、無意識にその部分を見ていたら、そこに置かれていたのは、『未完成』と書かれたフロッピーだった。そんなタイトルの本はない。

「春男、これって、なにが入ってるんだ?」

 オレはちょっとそのフロッピーを引っ張り出してみた。

「ん?ああ、それ?そのうちに使うかもれない文章とかかな。」

「そのうちって、いつだ?」

「わからない。使わないかもしれないんだけど、どうも、消すには惜しいような気がして。その一枚に、溜め込んでるんだ。だから、一応、未完成って書いてあるだろう。」

 こんな物があることなど、今、はじめて知った。前の担当者は知らなかったのだろうか。

「どれくらい入っているんだ?」

「結構、昔から入れているから半分くらいは入っているかな。でも、そんなものがあったことさえ、いま、思い出したよ。」

そう言って、春男は笑った。フロッピーの半分も文章が色々と入っているのに、なぜ使わないのか。

春男のその笑顔を見て、オレは思った。これに入れられてしまっては、たぶん日の目を見ることはほとんどの確率で、ない。その前に作品を回収しなくては。そう強く思った。

「見てもいいか?」

「いいよー。でも、書き途中ばっかりだよ。」

 オレは自分のノートパソコンを持ち出して、中を見てみた。いつ、書き込みされたのかを見れば、自分が担当した時なのかどうかわかる。どうやら、前の担当者たちは知らなかったようだ。オレが担当になってからは、一作品もなかった。オレはちょっと、ほっとした。しかし、その理由が、オレの回収がこまめだからなのか、春男がこのフロッピーのことを忘れていただけなのか、疑問だ。


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