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44話 ラッピング

ラッピング (前編)


 ラッピングとはきれいな包装紙やリボンを付けた状態のことをいう。たしかに、きれいだろう。それが自分に降りかかってこなければ。オレは春男の家に行く前に、春男にメールをしている。春男の家にはめったに、鍵はかかっていないが、プライベートというものがある。

『いくぞー』

『入ってもいいよー』 

そう返事がきたので、遠慮なく家の中へ入っていった。その時は気がつかなかった。そこに靴があることに。普段、春男は出かけないので靴は置いていないはずなのに。

「春男―。はる……。」

 突然言葉を切ったのは、あまりにきれいな女性がいたからだ。慌てて、あたりを見回すと確かに、春男の家だ。オレが間違えたわけではない。オレの慌てぶりに、彼女は笑った。

「え、あの、あ、あなたは?」 

「私は――。」

 彼女が言いかけたときである、玄関で音がした。

「ただいまー。」

 春男である。なにやら、荷物を持っていた。

「春男、お前、でかけていたのか?さっきメールで、家に入ってもいいよって返事したじゃないか。」

「したよ?」

 だから、なに?というような顔をされた。どうも、事前にメールを送ることの意味がまったくわかっていないようだ。

「あの、彼女は?」

「ああ。僕らの先輩の田村さんだよ。」

「へぇー、先輩……ん?僕ら?」

「ええ。私も、同じ高校の卒業生だから。」

 彼女はにっこりと笑った。こんなきれいな人がいるなら在学中に会いたかった!

「買ってきたよ、ホッチキス。」

 春男は袋から出しているのを見て、オレはだんだんと落ち着いてきた。あたりを見回すと包装紙のようなものや、リボンなどが散らばっている。

「ホッチキス?なに、してるんだ?」

「ん?先輩にラッピングを教わろうかと思って。もうすぐ、ホワイトデーだし、お返しに包むくらいしようかなぁと思って。」

 オレは思った。いまどき、バレンタインに自分で包む女性なんてどれだけいるのだろうかと。男性はもっといないに違いない。しかし、春男がやるというなら止めはしない。しばらくの間、オレも含めて、田村さん主催のラッピング講座が開かれた。これが、結構大変で、やったことが一度もないオレには、地獄だった。

「田村さん、うまいですね。」

「デパートで毎日、やっているから。慣れね。」

 彼女は、てきぱきとそれでいて、親切に丁寧に教えてくれたが、オレはそれにあまりついていけなかった。一方、春男はそこそこ器用なせいか、うまくいった様で、喜んでいた。いくつか習得したようだ。

夕方が近くなった。

「それじゃ、私はこの辺で。」

「ああ、ありがとう。またねー。」

 春男は笑顔で送り出すことにしていた。すでにその一方で片付けを始めているようだ。

「あ、オレ、送ります。」

 オレは彼女を送っていくことにした。もうすっかり暗くなってきている。三月とはいえ、まだまだ寒いし、夜道は危ない。歩きながら聞いてみた。

ラッピング (後編)


「あの、どうして春男と、いや、彼と知り合いなんですか?」

「ああ、高校時代、同じ、部活だったのよ。私の後輩ね。」

「じゃ、あなたも文章を?」

 春男が入っていたのは、文章を書く部活だったはずだ。

「いいえ、その文章の挿絵の担当をしていたのよ。まさか、あのころは彼が小説を書くようになるとは思ってなかったわ。あなたはいつからの付き合いなの?」

 俺は頭をかいた。

「出会ったのは小学校のころですけど、付き合いをするようになったのはお互いに社会人になってからですね。」

「いいわねぇ。そういうのって、きっと縁があるって言うのね。」

 彼女は息を白くさせながら、笑った。

 実際問題的に、いいかどうかはさておき、彼女と帰れるというのが、ちょっと嬉しかった。画題の中心が春男というところが少々、気になるところでは会ったけれども。なんでもないような会話をしながら、歩いていると駅が見えてきてしまった。

「それじゃあ、ここで。」

「ええ。ありがとうございました。」

 彼女はにっこりと微笑んだ。彼女と別れても、オレはうきうきしながら自分の家に帰った。また会えるだろう希望をもちながら。

 数日後。オレは夕方、春男の家に寄っていた。聞きたいことがあったからだ。春男はきれいに習ったようにラッピングをしていた。

「きれいにできているじゃないか。」

「だろう?」

 春男は得意げに見せた。

「ところでさ、あの先輩、また来ないかな?」

 何気ないように、そぉっと聞いてみた。

「ああ、当分、来ないよ。」

 春男はそんなオレの配慮にも気がつかずに、あっさりと答えた。オレは無意識のうちに聞き返していた。

「なんでだ?」

「おとといかな?昨日だったか、いままで勤めていたデパートをやめてね、外国で働くんだって。当分は帰って来れないんじゃないかな。やりたいことがあるようなことを言っていたからねぇ。この間、来たのも、その報告を兼ねていたんだよ。彼女、英語も堪能なんだよ、それでね……。」

 オレの目の前は真っ暗になった。なにやら、春男が言っているのも耳に入らず、呆然としていた。せっかく出会えたのに?もうお別れ?たったあれだけの縁だったのだろうか……。どうやら、しばらくぼーっとしていたようだ。

「洋介?よぉすけ?!」

 気がつくと、春男がオレを揺さぶっていた。

「な、なんだ?」

「なんだじゃないよ、さっきから声かけているのに。どうしたのさ?具合でも悪いのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……帰るわ。」

「ああ、気をつけてな。」

 春男はオレがぼんやりしている間に、いくつラッピングをしたのかわからないが、結構な数が出来上がっていた。一人で同じ道を歩いていた。オレの家は、駅のもっと先にあるのだ。駅の改札口を見つめ、彼女の笑った顔を思い出していた。

 春男が家でやっているラッピングが終わるまでは、しばらく、春男の家には行かないでおこうと思った。


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