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43話 春男とバレンタイン

春男とバレンタイン


バレンタインと言えば、オレたちのような男性は気になってしょうがないだろう。当日は、目立つようにしてみるか、髪型を考えてみるとか、バレンタインなど気にしないように装ってみるとか、その当時は色々考えたものだった。

学生時代はチョコレートで一喜一憂したものだが、いまでもそんなにではないが、気になるというものだ。

しかし、春男には違っていた。春男にとっては救いの日だったそうだ。それが、たくさんチョコレートをもらえるから、というような一般的な理由ではなく、これ以上チョコレートに悩まされずに済むからなんだそうだ。

「僕は、こんな制度は廃止したいんだ!」

「なんで、悩むんだ?贈るわけじゃあるまいし。ま、もらえるか、もらえないかという点では悩むかもしれないけどさ。」

 春男の家にあったチョコレートのクッキーを食べながら言った。隣の彩ちゃんから貰ったチョコレートは帰ってからゆっくり食べようと思っている。春男は作業をしていた手を休めて聞いた。

「僕の母親は?」

「なんだよ、改めて。料理研究家だろう……って、菓子も作るんだっけ?これも、お母さんの手作りだろう?食べたことのある味だ。」

「そうだよ!それも毎年、毎年、何種類か違うもの開発するんだ!甘いチョコレートが流行れば、甘いのを大量に食べ、ビターのやら、クリームの入ったやつやら、マシュマロ風味なのやら、チョコレートだけに留まらずに、せんべいやらクッキーやら!チョコレートだけでも、いろんな種類があるのに!もう一年分の甘いものを見るんだ!」

 めずらしく、春男が少々興奮気味に言った。よっぽど、苦しめられているようだ。

「今年なんか、生徒を集めて講習を開くとかいって、いつも以上に多く、たくさんの種類を作ったんだ。業者さん向けの本を出すからって材料も大量に買い込んだらしいんだ。」

 春男はげんなりしたように言った。

 そういえば、バレンタインにたくさんの生徒たちに囲まれている春男のことを思い出した。あれは小学生時代だったような気がする。

あのころはよくわからなかったが、実は春男は学校で菓子を配っていた。バレンタインの前に。当日はお返しを貰っていた。それで囲まれていたのだ。

それでも、配るほうがもらうよりも量が多かったように記憶している。オレも貰った記憶がある。さすがに、全部を一人では食べきれなかったようだ。しかし、いまでは配れるのはご近所くらいなものだ。

はたから聞いている、甘いものが好きな人には、かなり幸せに見えるような状況でも春男には壮絶な情景に映るようだ。

「しかし、今は昔に比べたら、だいぶマシになったんだろう?」

「ちょっとだっけだよ。ほとんど、変わらないよ。」

 たしかに、春男の今現在の机の上は大量のお菓子で埋められていた。春男はそれを、包んでいた。おすそ分けの準備だ。もちろん、オレも貰って帰る。ついでに、明日、オレが会社でみんなに配る分まで春男は包んでいた。そうしないと、春男が全部食べる前に悪くなってしまう。

「一人暮らしになったら送るにも費用がかかるから、そんなにはこない……と、僕も最初は思った。でも、これを見てどう思う?」

「たしかに、尋常じゃないぞ、この量は。どうしたんだ?」

「いまじゃ、父親が掃除をしがてら持って来るんだ!自分が食べきれないからって!妹も自分が太るからって、僕に食わせて!今回なんて、ダンボール二個分だよ?それも車に乗せて。自分は置いていくだけで帰っちゃうし!」

 春男の悩みはまだ続いているようだ。



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