42話 自然相手
自然相手
いつものように、原稿を受取りに行く時期になって、オレは春男の家に出かけた。
外は、すっかり寒くなった。吐く息も白くなっている。つい、足取りも速くなるというものだ。しかし、着膨れているせいか、そんなに早くは歩けない。
「はぁ。やっぱり家の中は暖かいな。」
春男の家について、オレはほっとしたように言った。無意識のうちに体がこわばっていたようだ。丸まっていた背中を伸ばすとぱきぱきと音を立てた。
「雷ってさー、どうにかできないかなー。」
春男はパソコンに向かいながら、いつもと同じに唐突に言った。オレはいつものソファに座る。このソファにオレと春男以外に座る人がいるんだろうか。もうとなりの子はいなくなってしまった。
「またテレビか?」
オレは、テレビが来てから、ついているのをめったに見たことがない。普通なら、薄くても埃が少々積もっていそうなものだが春男の親父さんがきれいにしているのだろう。
「いや、話で聞いたんだ。避雷針の話だよ。二十メートル以上の建物にはついているんだって。でも、いまのところは地面に流して分散させているんだって。なにか、利用できないものかなぁ。」
「そんなことは、たぶん誰かしらが考えているだろうさ。でも、雷は太陽の熱や風みたいに、毎日起こる自然現象じゃないしな。原稿にするのか?それだと、また舞台を未来に持って行くのか?お墓の時みたいに。」
オレには不思議だったが、なぜかお墓の話を書いた本はそこそこ売れた。誰が読んだのか、顔を見てみたいものだ。
「いや、今度は自然環境をテーマに書こうと思っているんだけど。」
「それは、どうかと思うぞ?」
オレは慌てて言った。
「お前、なんの知識もないだろうが。まだ、南極の調査結果も届いてないんだろう?」
これは嫌みだったが、春男は気がつかないようだ。
「じゃ、これから降る雪をテーマにしようかな。」
あっさりと、意見を変えるところは素直と言えるのかもしれない。それとも、こだわりがないと言うべきだろうか。
「降るのか?」
オレは慌てて、カーテンを開けて外を見た。そういわれてみれば、なんとなく空が暗い。携帯電話で天気を調べると夜から雪になるそうだ。
「僕はね、そのうち、この辺には雪なんて降らなくなると思うんだ。逆にスコールが増えて、この国は沈んでいくと思うんだ。」
春男はパソコンの前から動かずに言った。
「オレは、未来にこの国が沈むかどうかよりも、今、雪が降らないことの方が大事だ。原稿のすすみ具合はどうだ?」
「今回のはもうすぐできるけど、次回はなにがいいかなぁと思って。」
「できているなら、すぐに見せてくれよ。」
春男は素直に渡した。
「よし、詳しいことは明日だ。オレは帰るぞ。雪が降ってきても傘は持ってないからな。」
オレの迷惑そうな顔を見て、春男はしみじみと言った。
「昔は雪が降ると、うれしかったのにね。今じゃ、迷惑みたいだね。」
「もう若くないからな。」
ちょっと自分が無意識に言った言葉に悲しさを覚えた。オレは帰り道を急ぎなら空を見上げた。いつ降ってきてもおかしくないような空をしている。たしかに、子供の頃はうれしかったなぁと考えながら歩いていた。そしてふと思った。春男から離れても、春男の言葉でなにか考えているんだなぁと。




