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41話 春男と正月

春男と正月


 もうすぐ正月だ。三が日、本当は休みたいし、世間的には休みのところも多いはずだ。しかし、オレの場合はあまり関係なかった。独り者で、男で、若いといえば、休みなどないも同じだった。

編集長の声がんできた。

「おい、佐々木。今日、お前のところの作家の作品を取りに行くんだよな?」

「春男のことですか?そうですけど?」

「去年もらった、豆、今年もないか、聞いておいてくれ。」

「わかりました。」

 そう返事をして、オレは春男の家に向かった。今日、実家から帰ってきているはずなのだ。

春男の母親は料理を仕事としている。春男に言わせると、正月の本番前が勝負らしく、先にあらゆる正月料理を食べるはめになるそうで、正月のころには見たくもなくなるそうだ。そして、大晦日の前に日に、こっそり知人たちに配ってしまっている。

正月当日は両親揃って、パーティーに出かけるそうで、料理など食べている余裕はないそうだ。

「本当は帰りたくないんだけど……。」

 そう、ぶちぶち文句を言いながらも今年も実家に帰ってきた。帰って少しでも料理を食べることに参加しないと、父親と妹に恨まれるらしい。食べ物の恨みは怖いというが、春男の家の事情的には逆の意味で恨まれそうだ。それに、アパートにいてもきっと、料理が送られてくるだろう。

「もう正月料理は見たくない!」

 出会ってすぐに、悲鳴にも近いように春男は言った。正月の三日前だというのに。よっぽど食べてきたのだろうか。そういわれてみれば、なんだか太ったような気がする。

「お前、太ったな?」

「わかる?今年は、甘いおせちとか言って、甘いものがたくさん入っているやつだったから。もう当分、甘い物は見なくていいや。」

 作品を印刷している最中に、春男はため息をついた。

「はい、これ、できた。」

 春男から作品を受け取った。

「そういえば、うちの編集長が、去年もらった豆がまた食べたいって。」

「今年の豆は、梅風味と桜風味だけど、それでもいいなら、冷蔵庫にあるよ。あ、ブルーベリー風味は持っていかないでね。結構な味だから。あげたら逆に嫌がらせになるよ。まったく。さんざん、父さんに持たされた。重いったら。」

 春男の家の冷蔵庫は、かなり多く入っていて、どれになにが入っているのかよくわからない。

「どれだ?つーか、よくこんなにもって帰ってこられたな。」

「あー……、いや、腐らないものは送った。みかんとか、もちとか、栗とかは、昨日のうちに。おすそ分けする分の仕分けも終った。豆はー、これと、これ。」

 春男は二個、タッパ―を出して渡してくれた。

「君も持っていく?まともそうな物もあるよ?」

「そう?じゃ、少し。どうせ、今年も実家のほうには帰れなさそうだしな。」

「僕に、正月料理を見せないでくれ!もう来年の終わりまで見なくていいや。」

 げんなりしたように春男は言った。それでも、これからあの冷蔵庫に入っている量の料理を片付けるのかと思うと、大変そうだ。

「だれか、呼べばいいじゃないか。」

「オレの知り合いは、結婚している人が多いの。みんな家で奥さんの料理食べているよ。」

 なるほど、納得だ。オレは自分の分と編集長の分を受け取って会社に戻った。どうせ、今年も正月は、春男と過ごすことになりそうだ。

 


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