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40話 あきらめの決意

あきらめの決意


 基本的に、オレは前向きな人間だと信じていた。努力すれば、なんでもできる、どうにかなると思っている傾向が強かった。さすがに、大学を出てから、運動系の選手になれるというような突拍子もないようなことは考えなかったが、それでも、なにかは掴めるようになるのではないかと信じていた。

 しかし、編集長は年のせいだというが、春男と会ってから、そんなことはないんじゃないかとようやく思い始めた。オレの性格が丸くなったせいじゃないかと、会社内でのとなりの女の子は分析をする。

ほとんどそうは見えなくても、これでも春男は作家だ。だから、真面目な悩みを抱えることだってある。

「この日本語は、明るいイメージの時に使うものなのか、そうじゃないのか。それによって、この文のイメージが変わってきちゃうんだけど。」

「これは、昔と今とでは言葉の意味が違うんだけど、今の文章だから、今の意味で使ってもいいんだよね?」などなど。

悩むのは自由だが、こっちに聞かれても困ることも多い。たまに、広辞苑を引っ張り出してきてもなお、わからないこともある。

「僕の大学時代の先生は、言っていたよ。言葉は常に進化しているものだから、ない言葉は勝手に作ればいいんだよって。でも、面倒そうでやってないけどね。作っても、残さないと認めてもらえなさそうだし、ずいぶん時間がかかりそうだしね。」

この面倒大王な性格はいくつになっても変わっていないようだ。春男の言うことが深刻に聞こえないのは、まじめな質問の間に、不真面目なことを聞くからかもれない。

「心を砕くっていうのは、どんな心境で使うものなんだい?」

そのあとに聞いた質問はこれだった。

「地球の真ん中に太陽のような強い光が合ったら、海の暗さは真ん中にくるのかなぁ?」

 ほかにもある。

「海が底が見えるくらいに透明だったら、深海魚にも目が見えるようになるだろうか?その前に、本当に赤い線が描けるかもしれないねぇ。」

どうも、現実と空想がごちゃ混ぜになる傾向がある。そのせいか、オレはあまり気が抜けない。変なことを言って、作品に影響が出たら、大変だ。しかし、わからないものはわからないと素直に言っている。ここで、見栄を張ってもしょうがないというものだ。とくに、春男の前はだ。春男に冗談はあまり、いや、かなり通じない。以前に、エイプリルフールで、ちょうどいいと思ったオレは、原稿を落とした、と春男に言った。すると、春男はふーんと唸っただけだった。

「……ほかにないのか?こう、どうしてくれるんだ!とか、探したのか!とか。」

春男は平然と言った。

「別に。僕の責任じゃないし。」

それ以来、すっかり、大きいことはいうまいと心に誓った。言っても、こっちががっかり、もしくは疲れるだけである。

「お前、驚くことってないのか?」

「あるよ。でも、あんまり顔に出ないだけ。」

自分でもわかっているらしい。それとも、誰かに言われたのだろうか。

「どんなことで驚くんだ?」

「……階段から、こけた時とか?」

最近、やっとこいつの考え方を理解しようとするのを、あきらめることにした。無駄なことはしないほうが身のためだと思う。ストレスもたまらないし。オレはパソコンを打ちながら、なにか聞いてくる春男の言葉にただ、耳を傾けていることに専念している。しかし。

「砂漠に、緑の傘をいっぱい差したら、人工衛星から緑が多く見えるのかねぇ?」

 こんなことを考えているやつの考え方など、理解できるやつなどいるんだろうか。オレは、ちょっと疑問に思っている。


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