39話 十月末らへん
十月末らへん
この時期になると、社内でとなりの女の子の机に、色とりどりのお菓子が増え始める。オレンジのクッキーや、瓶が増える。よく見れば、あっちこっちでそれなりの装飾が行われているが、あまりオレには関係のないイベントだ。
「かわいいでしょう?」
彼女はニコニコ笑いながら言った。オレにいわせると、だからといって中身の味が変わるわけでもないのに、というところだろうか。それでも、菓子はもらっておく。
春男は外国で暮らしたことがあるせいか、少々関心があるのか、ないのか。家で、かぼちゃを煮込みと味噌汁の具にして食べていた。春男の実家から、送られてきたらしい。
ついでに、なにやら、よくわからない魔女とかぼちゃの置物も付いてきた。母親かららしい。これには、どんな効果があるのだろうか。話がドンドン思いつくような、置物やお守りでもあったら、オレでも買ってくるだろうが、さて、今回のこれはどうだろうか。
「飾るところがないんだよねぇ。」
春男は、かぼちゃをつまみながら言った。しかし。
「食べていいのか?」
意外だった。オレにはよくわからないイベントだ。春男は言った。
「だって、そのままにしたら、悪くなるじゃないか。うちのは食用だから食べなきゃ。」
そういって、うまそうに食べていた。食用じゃない、かぼちゃがあるというのだろうか?
「あと、イベント用に作ったクッキーもあるから食べてね。」
かぼちゃの形をしているクッキーはまだ、材料にかぼちゃが使われているだろうと推測できるからいいが、となりの魔女の黒いフードは何味だろうか。
「イカ墨らしいよ。比較的、普通だろう。ところでね、今日は、今度書く話のことなんだけど。」
「ああ、なんだ?」
「主人公をかぼちゃにしようかと思うんだけど。」
かぼちゃ。せめて魔女やお化けたち、ガイコツならわかるのに、かぼちゃ。いや、別に嫌いだとかそういうことではない。しかし、かぼちゃからどんな話を思いつくというのだろう。あまりに唖然とした顔をしたのだろうか。さすがに、春男がためらいがちに聞いた。
「だめ?」
しばらくオレは考え込んでから言った。すぐに、否定すると、すねる。
「ま、ダメとは言わないが、だいたいのあらすじを考えてから、書き始めてくれ。」
「それなら、考えてあるんだ。かぼちゃが爆発するんだ。で、種をまく。ところが、爆発にはものすごい爆風と、音がする。それを阻止しようとする、人間の奮闘記。」
……誰がそんな話を読みたいだろうか。にべもなくオレはいった。
「却下。」
「じゃ、勝手に光るかぼちゃ。で、夜になっても寝られないっていう人間からの苦情と戦う話。」
速攻でオレは言った。
「他。」
「じゃ、種がなく、ぎっしり中身が詰まった、かぼちゃの苦悩。」
ちょっと興味をもった。
「どんな苦悩だよ。」
「かたくて切れない。まぁ、あれは、コツさえあれば簡単に切れるもんなんだけど。」
「そうなのか?」
「うん。そのままの状態で、レンジで数分温めればいいだけだよ。皮がやわらかくなって、切り易くなる。」
それを聞いて、ちょっとオレの心は、かぼちゃの主人公賛成のほうに揺れている。さて、どうしよう。編集長は絶対にだめと言うだろうが……。




