37話 春男と音楽
春男と音楽
春男は音楽と結びつかないことが多い。中学校時代、選択だった音楽は取らなかった。クラスによって別れていたせいか、今でも覚えている。高校時代は、合唱コンクールに春男が出ていた記憶がない。後から聞いたところによると、風邪を引いていたそうだ。
今でも、音楽関係のものは何もない。楽器も、ラジオも、音楽を聴くような機械もまったくない。せいぜい、音を出すといえばテレビくらいだろうか。ただでさえ、出かけない春男が、カラオケなどもってのほかだ。
ところが、その日。春男の家のドアを空けると、中から音楽が聞こえていたのだ。上がってみると、どうやら、パソコンで聞いているようだ。しかし、聞こえてくるのは、最新音楽というわけではなく、クラシック。音楽の時間に一度は聞いたことがあるような、ピアノの曲が流れている。
「どうしたんだ?ピアノなんか聞いて。」
「拾った。」
春男の話はどうも脈略がない。音楽が落ちているわけでもあるまいに。だが、これだけの台詞である程度理解できてしまう自分が怖い。
「CDを拾ったのか?つーか、出かけたのか?」
「うん。ううん。」
さすがにわからない。
「どっちだよ!」
「んー。出かけたんじゃなくて、下に郵便を取りに行ったら、落ちていたから。聞いてみた。」
昨日の夜は強風だった。どこからの家のベランダから飛んできたのだろう。春男はどうやら、これがカラスやハトなどの鳥を追い払うために、光の反射に使われているものだとは考えなかったらしい。
「ちょっと傷だらけだけど、聞けるよ。でもねぇ。」
「でも、なんだ?」
「落し物になるのかなぁ。誰が落としたのか、わからないんだけど。」
そりゃそうだろう。風に乗ってきているのだ。
「とっとけば。」
「そう?じゃ、そうしようかなぁ。」
春男がこの音楽を聞かなくなるのと、これが鳥よけに使われていることに気がつくのと、どっちが早いだろうかと、ひそかにオレは思った。
ついでに。こんなことも知らないで、大丈夫なのかとちょっと心配が脳裏を横切った。
「お前、カラオケ行ったことあるか?」
「あるよ。」
「えっ。」
かなり意外だった。少々動揺した。
「行ったことあるのか?」
「うん。高校時代、卒業記念とかいって、引っ張っていかれた。」
「それで?どうした、何か歌ったのか?」
オレは今まで、こいつの歌を聞いたことなど一度たりともない。
「いや、歌えるものがなにもなかった。知らないもん、ばっかりで。さすがに、校歌じゃねぇ。」
そんなものを歌われたら、全員が引くだろう。
「でもまぁ、この先行くことはないと思うし。」
「そうか。」
なんとなく、オレはほっとした。さすがに、校歌をカラオケでは聞きたくないというものだ。そして、一応、行ったことがあるという事実にちょっと安心した。




