33話 春男の服
春男の服
春男はめったに出かけない。出かけたとしても、近所の買い物がほとんどだ。そのせいか、服が少ない。
というよりも、そんなに必要なさそうだ。季節事に少しずつ変化はしていても、そんなに大きく変わることは無い。
おかげで?春男の家のタンスはそんなに大きくない。タンスよりも、タンスの上に乗っている、色々な物の方が割合を占めているのではないかと思えるほどだ。これで、丸、一年分が詰まっているという。クローゼットもついているから、コートのような大きい物はそこにしまって、普段の服をしまうには、これで足りているそうだ。
遠くへ行く、といっても、電車に乗る場合だが、その場合用の服も一応ある。だが、同じ人に合う確率は、東京できれいな星を見るよりも少ないという理由で、枚数的には少なかった。
夏でも、しっかりクーラーの聞いた部屋にこもっていれば、着替える必要も無いというものだ。そんなに外に出ることも無いから、靴下もそんなになくてすむ。
それにもかかわらず、春男の服はいい物が多い。一度は誰でも、名前を聞いたことがあるメーカーが占めている。
「母親の方針だ。高いものは、長くもつからって。」
流行にさえ乗らなければ、たしかに、長持ちはしているようだ。春男を見ているとわかる。だが、そのぶん、捨てられないでいる。めったに悪くならないからだ。そして、どうやら、今年は少々困っているようだ。「秋物がきついんだ。」
それはそうだろう。思う。出歩きもせず、部屋にい続けるのに、どんなに低カロリーだったとしても、三食きっちり食べていれば太るのも当然だろう。
それも、別に低カロリーでもなく、加えて、おやつまでついていれば、太らないほうが不思議というものだ。そこで。オレははっきり言った。
「だろうな、お前、太ったぞ、どうみても。」
昔はオレとほとんど変わらなかったというのに。オレは今でも、まだ太っていない。これが、出歩いている差だろう。
「えー。」
「えーじゃない。体重計乗ってみろ。」
「そんなものはない。」
春男はきっぱりと言った。
「いま、体重量るだけだったらそんなに高くないから買え!」
「買いに行くのが面倒で。」
これが原因だろう。そんなやりとりが、ついこの間あったばかりだった。
三日ぶりに春男の家に行くと、なにやら、布がおいてある。
「なんだ、これ?布なのは、わかっている。どうしたんだ?」
「父さんが、服を作ってくれるって。買ってもいいんだけど、また太るかもしれないだろう。それで、今度はミシンを買ってくるってさ。置く場所に悩んでるんだけど。」
春男の父親は、家庭的なことはなんでもやる。しかし、服まで作れたとは!
「服まで作れたのか!」
「最近、習ってきたみたいだよ。本当は編物のほうが得意って言うんだけど、僕が毛糸系嫌いなもんで。レース系のものをもらっても、しょうがないしねぇ。秋だったら、まだそんなに布的も分厚くならないから、作れるって言うから。そのうち、できあがるみたいだけど、君もいる?」
「いらん。」
もらっても着ていく場所が無い。
そして、完成した春男の服は当然、春男にぴったりに作られていた。それにしても、春男の父親脳ではどこまで上がっていくのだろうか。オレは感心ばかりしている。




