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32話 隣人再び

隣人再び


オレは基本的にあまり興味はないが、春男が話すのだからしょうがない。ついつい話し相手として聞いてしまう。聞かないとすねるという問題もある。

どうやら、春男の家の隣に、誰かが引っ越してきたようだと春男は言った。ようだというのは、人の気配はするが、本当に誰かが、引っ越してきたのかどうかよくわからないということのようだ。なんでも、ちょっと自分の実家に帰っているうちに誰かが引っ越してきたようで、挨拶をされそこねたと言っていた。この隣人が挨拶回りをしたのかさえもわからないというのに。

この面倒大王な春男が自分から挨拶に行くはずもない。この家に春男が入ったときは、春男の父親に引っぱられながら、挨拶回りをしたそうだ。さすがは、春男の父親だ。

それで、待っているのだという。そんなことを考えている暇があったら、次の作品のタイトルでも考えてほしいものだ。

「なんとなく、おすそ分けしずらいものだよねぇ。」

こいつの頭にあるものはそれだけなのだろうか。しかし、そういわれてみると、オレも自分のアパートに引っ越してきた時に誰かに挨拶をした記憶はない。挨拶するような隣がいなかったせいだろうか。一階のすみっこ。それも隣はいない。

それに、誰かに何かを上げることも、誰からかもらうこともない。まぁ、寝に帰っているような状態だから誰が来てもわからないという現状ではあるけれども。

しかし、春男のようにずっと家にいれば、そのうち顔もあわせることもあるだろう。春男が家から出ればの話だが。

「そのうち、会えるんじゃないか?隣なんだし。」

 オレは楽観的に言った。

「でも、僕の下に住んでいる人、外で見かけたこと一度もないよ?」

 春男の家の下には、大学生が二人すんでいるらしい。そういわれてもれば、オレも見た記憶がない。まぁ、見ていたとしても、記憶に残らないだろう。

「時間的に合わないだけだろう?オレも自分のアパートの上に住んでいる人の顔、知らないな。」

「どうしよう。」

なにゆえ、春男がこんなに考え込むのか。どうせ、こいつの考えていることといえば、おすそ分けのことくらいだろう。なにか大量に送られてきた時だけ、春男は考え込む。ということは、なにか来たのだろうか?こんなことにどんどん敏感になっていく自分が悲しい。

そして、それが事実だとよけいに悲しさも増すというものだ。

「何かきたのか?」

「うん、蚊取り線香の缶と一緒にね。漬物なんだけど、大根のアーモンド付けがあるんだけどいる?まだ、味見してないけど。」

「食べてみた後で、まともな味だったらくれ。」

春男の母親の作るものはよくわからない。

そのとき、インターホンがなった。ドアの外で声が聞こえる。

「隣に引っ越してきた者ですけど―。」

どうやら、春男の悩みはこれで一つは解消されそうだ。

「もらった。」

 春男はなにやら、包みをもらってきた。

「タオルか?」

「かも。じゃ、お返しに、何あげようかなぁ。」

 にっこり笑いながら、冷蔵庫のほうに向かう春男にオレは言った。

「へんなものあげると、今度から居留守使われるぞ。」



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