30話 春男とタバコ
春男とタバコ
作家の中にはタバコを吸う人が多い。いや、オレが担当してきた作家たちだけだろうか。今、担当している四人中、半分が吸う。一人は、二人というべきかもしれないが、彼らはまだ未成年だ。それ以外の作家は全員がタバコを吸う。 ところが、春男もオレもタバコは吸わない。なぜか。
「興味がない。」
この質問にいともあっさりと、春男は言った。
「それに、料理にタバコは禁止だしね……。」
春男の母親は料理を仕事にしている。タバコなんて敵にしか思えないことだろう。
たしかに、オレはいままでに、春男がタバコを吸ったところは一度も見たことがない。なのに、灰皿はあることは知っている。作品に使ったからだ。春男の部屋には、自分が使わなくてもあるものがたまに存在している。
オレの場合は、吸うに機会にめぐり合わなかったというところだろうか。親も吸っていなかった。高校時代に少々、好奇心を持ってやってみたが、別に格段にうまいとも思わず、大学でも会社でも禁煙だった。
オレの友人には、どちらかといえば吸う人間のほうが多い。それでも、無理にオレに薦めるような奴もいなかった。
しかし、いま、オレの前にはタバコが置かれていた。正確に言うと、春男の机の上だ。これも、灰皿と同じ理由のようだ。
「なんだ、これ?お前、タバコなんか吸わないだろう?」
「うん、そうなんだけど、たまにはタバコが吸う人が出てきてもいいかもしれないと思って。基本的な銘柄だけ買ってきた。外見は写真でもいいような気がしたんだけど、厚みがわからないとね。あと、入り方も知りたかったし。」
たしかに、よく見かけるタイプのタバコだ。
「なんで、基本的な銘柄がわかるんだ?」
「友人に聞いたんだよ。使い終わったらあげようか?」
「いや、オレも吸わないし。で?なんで、タバコを出すことにしたんだ?いままで、出したことなんてなかっただろう?」
「うん、でもねぇ、出すと便利なことに気がついたんだ。」
春男はにんまりと笑って、オレは逆に顔をしかめた。こういうことを言い出すときに、オレにとっていいことなどなかったような気がする……。こういうのを嫌な予感というのだろうか。
「便利?」
「そう。登場人物たちの手元を書くのに、便利だし、台詞の合間をとらせることもできるし、なにより!」
春男はそのことに気がついたのを嬉しそうに言った。
「行ができるんだ。」
オレは落ち込みたい気分になってきた。春男が、なにを言いたいのか、わかったような気がしたからかもしれない。
「誰々はタバコを揺らめかしながら言った、で、一文多くできるからね。背景にも、タバコが出てくると、便利なことが多いみたいなんだ。ゆらゆら白い煙、便利なんだ……。」
うっとりその光景を思い描くように春男は言った。いつのまにか、そんなずるいことをすることを、覚えたんだろう。しかし、これは問題だ。
「春男、タバコが出てきていいのは今回だけな。しばらくそんな人物は登場禁止だ。」
「ええ!なんでー?横暴だよー。」
春男はなにやらぶちぶちと文句を言っていたが、オレは聞く耳を持たなかった。そんな理由で、登場人物にタバコを持たせる作家は春男くらいなものだろう。自分は吸いもしないというのに。
「だめだったら、だめ!」




