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29話 夏への関心

夏への関心


オレは、炎天下が治まった夕日の中を歩いていた。セミが鳴いている。そんなとき、駅前でうちわを配っている人たちを見かけた。そして思い出した。

夏になったのだと思うときは、駅で配っているポケットティシュが油取り紙に変わっていたり、うちわになったときに思うのだと、オレの会社の隣にいる女の子は言った。

「結構、便利なんですよ?」

「へぇ。」

そんなことになっているのかと、オレは改めて帰りの駅を見てから思った。全然、オレは知らなかった。

オレが夏を感じるのは、春男の家でカキ氷にかける液体のシロップを見たときだ。毎年、一本は贈られてきているようだ。一年じゃ、丸ごと使い切れないとわかっているのか、小さ目のがやってくる。今年ももう送られてきた。

それも、いろんな色がある。おととしは、白く、去年はピンク、今年は青だ。そのまえは、緑が来たらしいが、使い切ってないそうだ。ついでに、粒あんの缶詰だけではなく、フルーツの缶詰まで送られてくるのとは、なんて準備万端なことだろう。

そんな状態にもかかわらず、春男は必ず言う。

「どうせだったら、白玉ようの粉まで入れてくれればいいのに。毎年忘れるんだから。」

オレは思う。それくらい自分で買いにいけ。

きっとこれは、春男の父親から、たまには外に出ろというよう誘導作戦の一部なのではないかと思っている。これで、本当に買いに外に出ているからだ。親父さんの作戦勝ちといえよう。

「白玉がなきゃ、きまらないじゃないか。」

 あいかわらず、よくわからない理由を春男は並べていた。夏は夕方に買い物に出かける。昼間は暑くて耐えられないと、だいぶ弱気なことを言っていた。

この時期に、オレが買ってこさせられるものは水だ。重いが、自分が食べる分も含まれていると思いながら、春男の家に行くのだ。これが、氷になって、機械に回されて、口に入る。別にオレは水道水でもいいのが、春男がペットボトルを他のことで使うからというんで、買ってきたのだ。

さて、春男はどんなことで夏を思うのかと思った。そこで。

「お前はどんな時に、ああ、夏だなぁって思うんだ?」

 春男の家の中は、クーラーが効いていて、なかなか涼しい。

さっそく、氷を入れた機械を回しながら聞いてみた。最近のは昔ほど音にうるさくないようだ。

その間に、春男はあれこれと缶詰を開けて、皿に移していた。しかし、こいつの答えはオレが思っていた以上に家庭的な意見だった。

「んー。洗濯物の乾く速さか、日の出ている時間の長さかなぁ。外に出たときの温度もあるけど、あー、あと、蚊に食べられた時。今年も、もうかゆくって。出かけないけど、洗濯物、外に出す時に入ってくるんだよねぇ。」

オレは唖然としていった。

「お前、仮にも作家だろう?嘘でもいいから、セミの鳴き声とか、風鈴の音とか、花火の音とか、なんか情緒的なものはないのか?」

「ない。いまどき風鈴の音なんてする?」

「するよ!」

これでいいんだろうかと、オレは毎年怖く思っている。

「あ、こら!フルーツつまみ食いするなよ!

「みかん、いくつ置く?白玉は?そういえば、どっかの国では、カキ氷にトウモロコシを入れるんだよ。あるけど、いれてみる?」

「いらん。」

こうして、春男とオレの夏はゆっくり過ぎていくのだった。


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