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26話 春男と天才少年

春男と天才少年


「天才少年ですか?」

 編集長に紹介された資料を読みながら言った。

「と、言われている子だ。わずか十六才で文学賞とった子だ。今度、正式にうちの社から本が出版されるんだ。」

「はぁ。」

 編集長はのんきにお茶を飲んでいる。この暑い時期に、よく熱いお茶が飲める物だとオレは感心する。

「そこでだ!きみが担当だ。」

「え?ええええ?オレがですか?だって、もう四人も担当しているんですよ?」

「白坂先生は、他の人に変わってもらう。」

「えええ?白坂先生だったら、春男の担当を変えてくださいよ。」

 白坂先生はいい作家だ。めったにいなくならないし、作品の締め切りは基本的に守ってくれる。担当にとっては仏のような作家だ。春男は?突然髪の毛が全部抜けるようなことをするような作家だ。この差はとても大きい。

「だめだ。あれは君以外扱えないし、天才少年の条件だ。」

 ここまで編集長に言われる作家も珍しいだろう。あれ、扱いされる作家も春男以外いないだろう。

「条件?」

「春男という作家の担当者を、とのことだ。これだけで断わるバカはいない。君もわかっているだろうが、いまや出版社は基本的に不況。そんななか、話題になりそうなものは掴んでおかないとな。」

 熱いお茶を飲んでいるわりには涼しげな顔で言った。

「な、なんで春男なんですか?」

「ファンのようだ。」

 オレは言葉を失った。オレが今まであった春男のファンは片手で数えるほどしかいない。本人があれだけ出ないようじゃ、無理もないかもしれない。それにもかかわらず、本が出せるのは地味だが確実にファンがいるからだろう。

 しかし、こんなに若くての春男のファン!オレはそれを聞いたとたんに、なんだか心配になってきた。

「とにかく、行って来い。住所はここだ。」

 編集長は紙切れを渡した。

「待ってください。行くんですか?取りに?」

 送れるものなら、ファックスでも輸送でもある。作家の家にまで取りに行くのは、よっぽどえらい作家か、締め切りが迫っているときだけだ。春男の場合が珍しい。

「それが向こうの希望だ。いけ。来週からだ。」

 上司に行けと言われて、いかないでいれる社員はめったにいない。しぶしぶではあるが、確かに来週から行くことになったのだ。オレはため息をついた。

「この天才少年名前はね、鈴原 尚人君、十六歳。若いだろう?オレたちにはえらく遠い昔のように感じるけどな。それで、お前のファンなんだと。それで、なんでオレが担当なのか、わからん。」

オレはさっそく、その日のうちに春男の家に行って話した。せめて、文句の一つくらいは聞いてもらわないと、割に合わないような気がしたのだ。

「たしかに、十六は若いねぇ。それにしても、そんなに若いのに、僕を知っているっていうのは珍しいんじゃない?よく本を読んでいるのか、ただたんに変わった人なのか。」

 ほとんど独り言でも言うかのように春男が返事をした。

「自分でいうなよ!これからオレが担当するんだぞ!」

「へぇ。」

やっぱり春男にはあまり関心がないようだった。まぁ、これは今に始まったことではない。自分の本を読んでくれる人に対してもう少し、関心を持ってもいいのではないかと思うのはオレだけだろうか。


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