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20話 夏風邪

夏風邪


 春男は布団を梅雨の前に干して、しまう。掛け布団だけだが、季節ごとにちゃんと変わっている。そのしないと梅雨が明けたら暑くなるからだ、とつい、この間、力説していた。

それを見て、オレの布団もしまった方がいいのかなぁとちょっと、思ったところだった。しかし実際のところは、たいていの場合は同じ布団が一年中置きっぱなしになっている。前回きれいになったのは、春男がうちにきたときのような気さえする。

それにしても、部屋に入ってきたときから、なにやら気になった。

「ハックション!ハックション!」

 オレはため息をついた。どうりで、春男の近くにゴミ箱が置いてあると思った。普段は奥におかれている物なのに。これは……。

「風邪か?」

「みたい。」

 春男は鼻をぐずぐずさせながら言った。オレはため息をついた。まだ、蚊取り線香をつけるような時期でもないのに、風邪を引くとは。

「いいか、熱は作品を仕上げてから出せ!エアコンをつけっぱなしにしながら寝るなと、いつも言っているだろうが!」

「ひどい。僕の風邪よりも原稿が心配なんて。それにエアコンじゃないよ、暑かったから窓を開けたまま、寝たんだよ。そしたら、朝、寒かったみたいで。」

「どっちでもいいんだ。いいか、担当はみんな、作家の風邪よりも作品の締め切りだ。オレには絶対に移すなよ。オレに風邪が移ったら、俺の担当している他の作家にまで移るだろうが。」

「冷たい。」

「当然だ。」

 オレは、仕上がった作品を受け取ってさっさと会社へと戻ることにした。

「さっさと、暖かくして、寝ていろよ。早く直せ。」

 そういい残して、オレは会社に戻った。ところが、なんだか、寒気がする、と編集長も早退していった。

「風邪でも、流行っているのかなぁ?」

「私の彼氏も風邪でダウンしていますよ?なんでも、今年の夏風は、鼻に来るらしくって。熱出して、倒れています。」

 隣の女の子もそう言った。あっちこっちから風邪の話を聞く。どうやら、今年は夏風邪が流行っているようだ。

「お前は、元気そうだなぁ。」

 同じ会社の先輩にまでしみじみと言われてしまった。風邪も引かずに、元気に仕事をしているだけなのに、どうしてこんなことを言われなきゃいけないのか、まったく心外である。

 家に帰ってみると、留守番電話が入っていた。

(洋介。いま、うちでは風邪が流行っています。来るんじゃないよ。)母親の声だ、が、かなりガラガラ声をしている。さっそく、電話してみた。すると、父親も、弟も熱を出して、倒れているそうだ。

 オレはなんだか、気になった。普段、風邪を引きやすい、オレがひかなくて、変なときに風邪になる春男のはずが、春男が周りと同じ時期に風邪をひいているなんて。これは、おかしい。

 次の日に、春男の家に行ってみた。春男は元気そうだった。

「風邪じゃなかったのか?」

「みたい。昨日、コショウが服についたせいみたい。」

 そんなことだろうと思った。そして、やっぱりオレが風邪をひいた。

「ハックション!ハックション!」

 オレはため息をついた。



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