19話 適度
適度
春男の部屋は、資料の紙だらけで同然、乾燥と火にはかなり注意してもらわないと困るというもの。火事にでもなかった大問題だ。しかし、水分がある程度は必要といっても、これはどうだろう。
「春男ー……。なんだ、これは?」
いつものなら、名前のあとに、来たぞーとくる。だが、決して長くもない廊下にたくさんのダンボールの箱が置いてあれば、誰でも声を上げるというものだろう。それも全部が一定の大きさをしているわけではない。これは、水?
「ああ、それ?水。」
そりゃそうだろう。見ただけで、わかる。ダンボールはスーパーなどで見かける、箱売りの状態で置いてある。それも、開封されていないものがほとんどだ。見たことがある名前から、まったく知らないものまである。二リットルサイズのものから、そうでないものまで。
「どうした……、母親か?また、送ってきたのか?」
原因を聞きかけて、やめた。オレも少しは賢くなったようだ。こんなことをするのは、春男の母親以外、誰も思いつかない。そして、それは大抵当たる。
「そう。でも、送ってきたわけじゃないんだよ。買ったのは僕なんだ。」
「買った?」
「うん。今日の午前中、荷物が来たんだ。どうやら、母さんが僕の所にもついでに送ったらしいんだ。着払いで。自分は料理に使うつもりで、僕には水分補給のためだったって、電話で言っていた。ところが、本数とケース数を間違えたらしくって、すごいことになっちゃって。」
「間違えた?返品とか、考えなかったのか?」
どうやったら、そんな間違えかたをするのか、オレは聞きたい!
「それが、荷物を持ってきてくれた人がここに来たときは、三つしか手に持ってなかったんだ。そんなものならと思ったら、次々、来ちゃって。」
春男はため息をついた。春男の部屋は二階だから、一回で持ってこられる量が箱三つだったのだろう。
「どうするんだよ、こんなに!」
「使うしかないだろうね。パソコンで調べてみたら、硬水と軟水によって使い方が違うみたいだから、それでも見ながら、ちょっとずつ、どうにかしていくよ。でもねぇ、問題はそこじゃなくて、おかげで、家の金が全部消えたよ。明日一番で銀行に行かないと、肉も買えないことなんだ。」
米と野菜は在庫があるようだ。オレは廊下から部屋に歩こうとしたが、普段は聞こえない音がした。
ぎしっ。いやーな予感が頭を横切った。
「おい、これ、重すぎるんじゃないか?床抜けないか?オレ、今日は帰る。」
「大丈夫だよ。だって、この水を三人で運んできたんだけど、抜けなかったし。」
春男はのんきに言った。そう言われても、ついつい、オレの歩き方は逃げ腰気味だ。ぎしっ、ぎっ。慌ててオレは、玄関に戻った。
「いや、やっぱり帰る。」
「あー、じゃ、せめて、これ、持って帰ってー。ついでに、ハイ。」
そう言って、春男に水を渡された。ついでにと、渡されたのは、水だった。急いで飲んだが、どうも、なんというか、胃に重さがのしかかるような水だ。
「なんだ、これ。」
「硬水だって。でも、今渡したのは違うよ。硬水がいい?」
「いや、これでいい。」
硬水は遠慮した。どうも、体に合わないような気がする。ただでさえ重い鞄に、水を詰めて帰るはめになった。いくら、人間にとって水分が必要でも、あれだけの量を消費するのは大変そうだ。床が抜けないように祈るしかない。どうやら、当分は春男の家には行けないようだとオレは思った。




