17話 母登場
母登場
春男の母親は、息子である春男よりも有名だ。春男よりも世間に顔が知られており、春男よりも本の出版部数が多い、料理研究家だ。最初に、春男の母親の職業を聞いたときに、なにをしているのか、名前だけではよくわからなかった。実際、いまでもよくわからない。しかし、春男の母親の料理は個性的だということはわかった。味も、料理法も。
ついでに、作る量の多いさから、個人向けだけではなく、お店の料理としても好まれることわかった。そりゃ、三十人分が一気に作れれば、利用したくなるだろう。
そんな華やかなだけに見える料理の世界のその裏に、家族の苦労も見えた。しかし、実際に会うと、そんなものが吹っ飛んでしまうくらいに美しい人だった。
オレはそれまで、顔は本に載っているからか、知っていたが、本人に会ったことはなかった。その日、春男からメールがきたのだ。
『母親が来るぞ』
後から聞いたところによると、オレが春男の母親に会いたがっていたことを覚えていたらしい。オレが春男の家に着いた時、彼女は家から出て行くところだった。
「紹介しよう、母だよ。」
オレはしばらく見とれてぼんやりしていたらしい。
「あ、どうも、佐々木です。」
「僕の担当さんだよ。」
「まぁ、有紀斗がいつも、お世話になっています。」
春男の母親はにっこりと笑った。こうしてみると、春男は母親と結構似ているのかもしれない。
「いえ、こちらこそ。」
「それじゃ、私はこれで。」
そう言って、春男の母親は去っていった。
「やっぱり、きれいな人だよなぁ。」
うっとりとオレは言った。
「よかったな。」
春男のげんなりしたような、言い方に、オレはふと我に返った。
「でも、なんで、来たんだ?お前の母親。いつもなら来ないのに。」
「それなんだけど、今度の日曜日に飯を食いに行こう。」
「飯?お前が?どこに行くんだ?」
オレは目を丸くした。はっきり言って、春男は面倒大王だ。外食にわざわざ行きたがるとは思えない。
「うちの母親の。なんでも、食器関係のパーティーがあるんだって。」
「なんで、そんなもんに行くんだ?今まで行ったことなんてないだろう?なんで、急に。」
「父さんの代理。」
「代理?親父さんどうかしたのか?」
「カキにあたって、家でうなっているらしいよ。」
「貝かぁ。つらいんだよなぁ。」
オレも当った事がある。それ以来、食べたことはない。
「じゃ、なにか、お前にそれに出てくれって、言いに来たのか?」
「それだけだといいんだけど、料理をおいていった。」
「料理?」
「レモン果汁入りの餃子の皮に、味噌風味の中身だって。食べていってくれ。」
オレはため息をついた。
「美人と、料理のうまさは無関係だって、はっきり証明できるよなぁ。」




