14話 雨の季節
雨の季節
雨が降っている日は基本的に春男の家に寄っていくことがない。寄って、乾いて、また雨に濡れて帰るのが嫌だからだ。
春男も別に、雨の中にわざわざ来いとは言わない。ただ一層、出かけなくなるのが問題だ。出かけるときは、レインコートをしっかり着て出かけていくようだ。顔と足下しか見えていないような状態だ。かなり怪しい様子になっている。
なぜ、知っているか。その日、春男を見かけたからだ。コンビニで。
雨にかかわらず、オレが春男の家に向かうのは、原稿を取りに行く日以外はない。そして、今日はその日だった。春男の家に向かう前に、なにか土産でもと寄ってみたが、しかし。
なんだ、あれは……。
というのが、俺が最初に見たときの感想だった。なんというべきか、言葉が見つからない。絶句したとでも言うべきか。他の客がチラチラみるのも無理はない。あれで、来ているレインコートの色が灰色だったら、ねずみ男状態だ。さいわい、春男が着ているのは薄い緑のような色だった。
ときどき、自転車に乗っている主婦らしき女性があの格好をしているのを見かけるが、まさか、こんなに身近で見ることになるとは思っていなかった。それも、自分の知り合いで、男性で着ている人がいるとは。
オレの母親だって、着ないぞ!
オレは、正直なところ、コンビニ内で話し掛けることにためらった。さすがに店員はまじめな顔をしていたが、出て行ったら絶対に話題になっているような気がした。
そこで、店から出てから、声をかけた。それも、店の中の人から見えない位置まで歩いてからだ。ちょっと早足になればすぐに追いつくことが出来た。
「春男!」
「やぁ、早いね。まだ、印刷の途中だから、もうすぐできるよ。たぶん、うちに着くころには、出来上がっているんじゃないかな。」
春男は、オレがいま気がついたと思っているのか、別に話し掛けられたことに違和感を感じていないようだった。
「印刷させたまま出てきたのか?電気のつけっぱなしは、危ないといっているだろうが!」
「だって、印刷中、暇で。めずらしく、出かけてみる気になったもんだから。」
「それにしても、なんだ、その格好は。ねずみ男みたいだぞ。」
「ねずみ男は傘なんて差してないよ?」
「そうじゃない、そのレインコートだよ。頭までかぶらなくてもいいだろうが。」
「ああ、これ?」
春男は着ていた、レインコートをちょっとつまんで見せた。
「でも、便利だよ。そんなに濡れなくて。さすがに、まったく濡れないというところまではいかないんだけどね。ただねぇ、暑いのが難点なんだよねぇ。寒い雨の時はいいんだけど、今日みたいに湿気の多いときはちょっとね。ほとんど、水を通さないのはいいんだけど。もう少し、待っていたら、もっといいのが発売されるかもね。」
オレは何も言う気が失せた。なんとなくだが、何を言っても無駄なような気がしたからかもしれない。オレの説得で、着るのをやめるようなら、最初から買わないだろう。
「これねぇ、二着目なんだ。最初のはね、スカートみたいにすっぽり上からかぶるようになっていて、歩幅が決められていたんだけど、今回のは、ズボンみたいになっていて……。」
家に着くまで、ずっと春男のレインコートの話は続いた。オレ自身は、こんな格好の春男によく気がついたものだと、自分でかなり感心していた。誰も、感心してくれないだろう。
それと同時にこんな格好をしているというのに、後ろ姿だけでこいつを見つけたことに、なんとなく寒気を感じていた。




