13話 春男とタマゴ
春男とタマゴ
春男の家には、ときどき妙な物が転がっている。その時代に合わせて、というか、そのときに合わせて作品で使う物を買ってくるからである。最近では冷蔵庫にたくさんの磁石が貼ってある。
食べ物なら処分できるが、物はそうはいかない。ときどき、処分できる物はしているが、それでも完全になくなるということがない。処分するよりも、買ってくることの方が早くて多いからだ。いつまでたっても、すっきりきれいに無くなることはなかった。
今回はなにやら、かわいらしい物が春男の机の上に乗っていた。あれは……たまご?なにやら、白い丸いものだ。
「これは?たまごのマスコット?どうしたんだ、これ。」
「結構、かわいいだろう?隣の彩ちゃんのお母さんのものだよ。作品に使うからって借りたんだ。妊娠中の女性が身につけるものらしいよ。」
次の台詞を言うまでにちょっと時間がかかった。と、いうことは……。
「まて?隣の奥さん、妊娠しているのか?」
「そうだよ。彩ちゃんはお姉さんになるんだ。」
春男はあっさりと言った。
「お隣さん、ご主人いるのか?母子家庭じゃなかったのか?」
オレは目を丸くした。なにも聞いていないが、てっきりそうなのだと勝手に思いこんでいた。だって、いままで、お父さんの話題など聞いたこともなかったからだ。聞いてないぞ!
聞かなかったオレが悪いのだろうか?
「別に死んでいるわけじゃないからね。彩ちゃんのお父さんは古い建物の復興をする仕事をしていて、ほとんど家にはいないだけだよ。単身赴任ってやつだね。」
オレは思った。なぜ、こいつはそんなこと知っているのだろう。
「なんで、知っているんだ?その、隣のご主人の仕事。」
「ああ、最初にここに引っ越してきたときに、会ったんだ。そのあと、仲良くなってね、話していたんだけど、すぐに外国の仕事に行ってしまってね。」
そのころなら、オレがまだ春男の再会する前の話だ。
「彩ちゃんが小さかったから、連れて行けなかったんだ。だから、日本に母親と二人で残ったんだよ。」
「じゃ、それが帰ってきたのか。」
「そう。三年ぶりだって言っていたなぁ。いつもお世話になっていますっていうから代わりに現場の写真頼んじゃった。ま、見ても作品に使えるかどうかはわかんないけど。」
知らなかったとはいえ、ちょっとショックを受けた。好みだったのに!かわいらしい女性だったのに!一人なのだと勝手に考えていた。
「そう、だったのか。」
春男には動揺を悟られまいと頑張った。それが伝わったのか、まったく気がつかなかったのか、春男はそのまま話し続けた。
「それで、タマゴを借りてきたんだ。でもねぇ。引っ越ししちゃうみたいなんだ。お父さんの元に。なんでも、日本に戻ってくるみたいでね。ここで、親子四人はさすがにちょっとせまいだろう?」
「お前の場合はな。」
オレはむすっとした声で言った。はやく聞いておけば良かった!
確かに、春男の部屋は本であふれかえっているためにかなり狭く見える。本がなくなれば、かなりのスペースができる。四人で住むことも可能だろう。オレにはまるで、自分がふられた相手が隣にいるような気分になった。
「今日は帰るな。」
そういって、オレはとにかく酒を大量に買い込んでから家に帰った。くそー、飲んでやる!




