12話 春男の青春
春男の青春
オレは別に春男だけの専属の担当ではない。それほど、春男が売れている作家ではない、とも言う。しかし、その方が同級生としては訪ねていくには楽かもしれないと最近思うようになった。他の先生たちは年上だし、はっきり言って機嫌を損ねたら大変だからだ。
「そういえば、佐々木さんは結婚とか、なさらないんですか?」
他の作家の家に作品を取りにいったときのことだ。白坂先生という。基本的には締め切り前に作品を出してくれる、比較的仏のような作家だ。
その作家の奥さんが、ある日、唐突に僕にお茶を出してくれながら、言った。
「いえ、しないわけではないんですが、暇がなくて彼女も作れないだけなんです。」
急に聞かれて、しどろもどろにそうは言ったものの、本当にそうだろうか。仕事のせいなのか、オレの問題なのか。最近ちょっと考えているところだ。
この間、春男の家でのことだ。
「青春を見かけたんだ。ほとんどの人が通ってきたはずなのに、他の人のを見ても、いつでも輝いて見えるのはなんでだろうね。」
突然、春男がしみじみと言った。それを聞いていて、こいつにも青春時代があったのかと密かに思ったが口に出すのはやめておいた。お互いにイタイところはつつかない方が賢明というもの……というよりも。オレよりもこいつの方がモテていたら、殺したくなるかもしれない。
春男の彼女?そんなものがいた時代があったのだろうか?オレの記憶にはない。しかし、オレの同級生は春男には彼女がいるという噂を聞いたことがあると言っていた。さて、事実はどうなのか。聞く気にもなれないというものだ。
「しかし、そんなもん、どこでみたんだ?」
「ん?この間、電車の中で。電車から見える景色の描写が必要になってね。ま、たわいもないような景色を書いたからここだって、ばれることもないだろうし。でも、あれは良かったなぁ。」
「電車の中……。」
「うん、携帯で話していたんだけど、あ、本当は会話はダメなんだけど、あの話し方は向こう側にいるのは好きな人だろうなぁと思って。」
「へぇ。次の作品に、その青春の描写は出てくるのか?」
「さて、どうしようかねぇ……。考えてみるよ。」
そう春男は言っていた。それにしても、そんな情景が解るということは自分も体験したからだろうか。さて、どうなのだろう。やっぱり聞かないことにした。春男から、その話題を振ってきたら考えてもいい。
「できたみたいですよ。」
奥さんが居間の方も向いて言った。急に思い出から現実に帰ってきた。白坂先生がでてきた。どうやら寝ていなかったようで、服もヨレヨレ、本人も半分寝ているかのような状態で作品を持ってきた。それでも、そんなことは構わない。作品が絶対的に先だ。
「ありがとうございます。」
「よろしく。おやすみ。」
先生はふらふらしながら、部屋へと戻っていった。奥さんはオレを見送ってくれた。オレはとりあえず、作品を持って会社に戻った。戻るなり。
「あ、佐々木さん、私、今日、デートなんで、お先に失礼します。」
と、隣の席の女の子が去っていった。その後ろ姿を見て、思わずため息をついた。
突然メールが来た。
『今日、豚肉買ってきてくれる?』
春男からだ。それをみて、よけいに落ち込んだ。オレに彼女ができないのは、春男のせいだろうか?それとも、オレ自身のせいなのか、だんだんはっきりと言い切れなくなって来ている。




