11話 春男の仕事のわけ
春男の仕事のわけ
春男の家に向かう途中、スーツ姿の若者をみかけた。あんなに真っ黒なスーツを着ている若い子たちは新人くらいだろう。そういえば、オレにもあんな時があったとしみじみ思った。
オレは、友人の薦めで会社に入った。しかし、オレに今の出版関係の会社を薦めた友人はオレよりも先にやめたが。そして、思った。春男はどうして作家になったのやら。本人に聞くより他はない。
「オイ、春男。」
「んー?」
今日も春男は家で、パソコンに向かっていた。たまに、椅子の下にひいているクッションの色が変わっている。なんでも、ずっと同じものに座っていると長持ちしないからと言って、年に四回は変わっている。オレに言わせれば、のこりの三枚を入れておくスペースがもったいない気がする。
「お前、なんで作家になったんだ?」
オレがいつも座っているソファは変わらない。
「なんで?」
振り向きもしないで、オレに返事をしていた。こういうところだけは、器用と言えるかもしれない。それとも、作品を打つことに集中していないということだろうか。
「ほかにも、サラリーマンとかあっただろうに。会社勤めとかしたことないのか?たしか、アルバイトはしていたと聞いたことがある。ほら、他の作家さんにはあることだろう。」
銀行員をやっていたなど、他の仕事から作家に転職する人は多い。
春男がため息をついた。春男の手がちょっと止まった。
「それがねぇ。」
ちょっと、話すのを渋った。そうなると、逆に聞きたくなる。
「それが?」
「全滅したんだ。三割以上も受けたのに。」
そういって、春男は首を降った。これだけで、なにを言っているのかわかるようになった自分が怖い。慣れって本当に怖い。
「全滅?会社の面接か?全部ダメだったのか。三割って……三十社くらいか?」
「たしか、もっと受けたけど、面接までいったのはそれくらいかな。」
「全部ダメだったのか?三十社も?自分から断ったことがなかったのか?」
就職難のご時世のせいか、春男自身に問題があるのか。半々だな。
「んー、面接時間に間に合わないやつは断ったりしたけど、受かって断ったことはないな。」
「間に合わなかった?」
「うん。時間間違えたり、会場間違えたり。」
春男のしそうなことだ。とくに、方向音痴だけにたどり着くのに時間がかかる。それにしても、会場を間違えるまでしていたとは。間違えるということは、全然関係ない会社にでも行ったのだろうか。なんとなく、聞くのが怖い。
「それでね、前から作品は書いていたんだけど、たまたま送ったら賞をくれたから。そのまま親のすねをかじりながら、作家になった。それだけのこと。」
そんな理由だったとは。
「ホントは、大きな会社に入って、お金貯めて本屋やりたかったのにな。」
まだ、本屋をやる夢は捨てていなかったようだ。しかし、この姿を長く見ているせいだろうか、サラリーマン姿が想像できない。
たとえば、営業になって歩き回っている姿が想像できない。営業になったとしても、訪問先を間違えたり、よくわからない口調で相手を怒らせてクビなる気がする。
こんなに、一般社会に向いてないやつも珍しいに違いない。




