プロローグ 人は経験で形作られる
※この話には、暴力・差別・精神的苦痛を伴う描写があります。苦手な方はご注意ください。
※本作は、現実の団体・宗教とは関係ありません。また、登場する宗教・思想・人物・出来事はフィクションであり、現実の宗教・思想・人物を否定や批判することを目的としたものではありません。
【176年・名誉の国】
全34名の生き残り信者が異端狩りに見つかり斬首される。
「我らランスロット宗教に存続あれ――。
ザッ――
ボト…………………ピチャ………。
その信者は、悔しげな顔を一切も表さず、大人しく死んだ。誰一人、抵抗を示さなかった。捕まった以上…もがけば、我ら宗教に泥を塗ると考えたのだろうか。気品があり、最高と揶揄された宗教………。
信者の首が落ちるたび、ランスロット宗教もまた歴史から消えていき、勇敢に終わる。
あの者らは、かつて人を助けていた側だ。誰一人、傷付けてはいなかった…。他宗教の争いで、先陣を切りながら人を助けていたんだ。その見返りが三教以外の抹殺。蟻の駆除のように、無慈悲に死んでいった。
【184年10月10日・深夜】
《現在地:第7柱・視線の森》
白樺の森の中にヨハネ教の信者達が居た。大英雄ヨハネが書いたとされる預言書が祭壇に置かれ、信者達は太陽が昇る方角に手を伸ばす。
禁忌であるはずの火が照らされ、雨と風が吹いていた。信者達は預言書に記されている一つの文章を復唱する。そして、祭壇の前に立つ若き教皇は、こう告げる。
我ら、この存続願う。
緋色の獣は、我らヨハネ教を救う偉大なる存在。
主が舞い降りる日まで汝らは支度をし、16年後の来る日に神の裁きが下される。
裁きの中で我らは安堵し、ヨハネ教は永遠を迎えるのだ。
熱唱していた教皇は、突如として人体発火した。身体は、炎に包まれているのにも関わらず、言葉は終わらない。
痛みで限界なのか、話す速度が速くなりだした。炎に包まれた教皇は力なく倒れ、雨に打たれているにもかかわらず、炎は消えなかった。焼き焦げて、灰になるまで、炎が自由意志を持ってあるかのように最後まで、教皇の死んだ後にも、その炎は、隣に座り優しく包んでいた。
それを見る信者達は神託の証だと確信した。士気が上がり、皆が掠れた声で涙を流した。
震える手で祈りながら、息が詰まり果てていた。互いが顔を見合い、神などと、誰も聞こえない細い声で叫んでいた。
宗教狩りの発令以降、ヨハネ教は劇的に弱くなった。だが、今は違う。次なる神の接触により、信者達の心は安心を取り戻してゆく。その原動力となる支えは、いずれにせよ破滅が待っていた。
一方…とある灰人牧場では、見窄らしい少女が3人目の出産を迎えようとしている。場所は、石の壁で覆われており、牢獄のような場所だった。地面はゴツゴツとしており、人権など無に等しい。
少女は、苦痛に顔を歪めながら出産していた。出産を手伝う人間は、嫌な顔をしており、既視感のある肌の色を見てしまった。人間と灰人の間で産まれ落ちる混血の人。忌み嫌われる存在。不潔の象徴。嫌悪の対象。
存在してはいけない子。
唸り声をあげながら痛ましい出産が無事に終わり、人間は少女の胎児が元いた場所を殴る。鈍い音が響く。
少女は、視界がぼやけてもなお、愛おしいはずの我が子を見た。だが、期待は裏切られた。肌の色が違っていたのだから…混血と呼ばれる忌子…。その赤子は、母親から拒絶された。少女は人間に強姦された記憶を思い出し嘔吐しだす。
人間は、女の反応を見て笑いを溢し、精神的に死んだ女に一方的に話しだした。
女は何も反応を示さない。死骸同然となった母の瞳からは光が消え、ただ虚空を見つめていた。男は、苛立ち、綺麗な顔立ちを蹴った。
男は、息を整えて混血の赤子を優しく手に取り、安置所に向かう。安置所には、見慣れぬ二人の老人が立っていた。
頭の上には薔薇が巻かれ、ラクダの毛皮を纏っており、十字架の杖を手に持っている。富裕層を思わせる身なりの老人二人は、男がここに来ることを知っているかのような口ぶりで、手に持っている赤子をくれないかと、7ゴールドを男に交渉しだした。
男は、満面の笑みで、すんなりと赤子を渡し、ゴールドをポケットへしまった。男は、ズボンを少し下げた状態で女の所に戻る。
すると聖騎士である一人の老人が、震える声で呟いた。
我らの救世主……―――。
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