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-2- 〜拾われたら美形だらけでちょっと困ってる〜

 たてがみのような金髪を持つ男──とりあえず、未知流は彼を「獅子の男」と名付けた。

彼は、少数の手勢を率いている。

 どうやら彼らは、少なくとも今すぐ未知流に害を為すつもりではないようだ。

それを理解した途端、未知流はへたり込んでしまった。

 夢中で逃げている時は気付かなかったが、素足で必死で走ったから、足の裏から太ももまで、痛くてたまらない。

 今まで走れていたのが嘘のように、もう一歩も歩ける気がしなかった。

すると、獅子の男が、疲労困憊な未知流の様子に気付いたようだった。


 彼は馬から──いや、ユニコーンから降りると──。

「失礼する」

そう言って、未知流を抱きかかえ、そのまま軽々とユニコーンにまたがった。

 腕一本で人間を抱えながら馬に乗る。

その動作があまりにも当たり前に行われたので、未知流は驚く間もなく馬上にいた。

(すごい身体能力……)

「不自由をかけるが、落ちないようにしっかり私に掴まっていてくれ」

 彼の両腕に抱えられるような姿勢で、ユニコーンの前方部分に横座りさせられる。

「ちょ、ちょっと……」

 恥ずかしい。そう言おうとしたが、そんな場合ではないことに気付く。

今の体力では歩けないし、おまけに乗馬の経験なんてあるわけもない。

自分一人で馬に乗るのは無理だ。


 未知流は黙ってしがみついた。

高い馬上で見えやすくなった未知流の姿が全員に晒されると、なぜか、周囲にどよめきが起こる。

そして、どこか熱を帯びたひそひそ声が伝染していく。

(なんで? 私が明らかにこの世界の住人じゃない服装だから……? それとも……)

今の格好は、素足で走り、おまけにコケたせいで泥だらけ。

(あまりにひどいありさまだから?)

さぞ憐れみを誘う姿なのだろう。

見知らぬ人たちにこの様子を晒すのは恥ずかしい。


 ──しかし彼らは、夢中になって未知流を見ている。

崇拝、憧憬……。とにかく、例えるなら、熱狂的なファンが推しのアイドルを間近で見たような──。

(……やっと会えたな。あなたが、我々の未来だ)

 先程の獅子の男のセリフを思い出す。

(どうやら、彼らにとっても、追手にとっても、私は特別な存在なのかもしれない──)

 ユニコーンに乗せられて、夜の森を駆ける。未知流が、彼らに聞きたいことは山ほどあった。

「あの……」おずおずと話しかける。

「すまぬ、もう少し強く念を込めて話しかけてくれないか。我々が会話できているのは、言葉に乗せたお互いの意思を読み取っているからなのだ」

 なるほど。

「……こうですか?」

 正月に賽銭を投げる時のような気持ちで、ちょっと強めに話す内容を意識してみる。

 すると、獅子の男はしかめっ面で耳を押さえた。

「……もっと弱くていい」

「すみません」

「この意思の強さ、さすが稀人だな」

「稀人……?」

「あなたにも、おそらく疑問が色々あるだろう。しかし、まずはあなたを保護し無事逃げ延びることが第一だ。我々のことについては、そこでゆっくり話そう。そして、この世界でのあなたの役割のことも」

 もっともな意見だ。

未知流は、少しでも体力を回復させようと獅子の男にさらに強くしがみついた。

また、自力で走るはめになる可能性だってある。


「……」

 強くしがみつくと、獅子の男の体が一瞬ぴくりとした気がした。

「この先の橋を抜けると、街道に出る。道も広く馬の速度も出る。ただし、昨日の大雨で流れが激しく、流木や岩が川に流れ込んでいる。良からぬことが起きる前に、さっさと抜けるぞ」

 獅子の男は、未知流と配下のものたちに言い聞かせるように宣言した。前方に、あまりしっかりした感じには見えない──というか結構ボロい感じの橋が見える。

「ねえ、ちょっと待って!」未知流は思わず叫ぶ。

「なんだ?」

 獅子の男が馬を止め、呼応して全員がストップした。

「この橋、全員で渡ったら高確率で落ちそうなんだけど?」

 獅子の男は一瞬考えた後──

「いや、敵は我々を真剣に追ってきている。我々がこの橋を渡れなくて放っておいても死ぬのなら、ここまで真剣にはならない」

(???)

頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。

 そんな未知流の表情を読んだのか、獅子の男はこう告げた。

「──我々の敵は、未来を視ることができるのだ」


「それって……、未来予知できるってこと? じゃあ、どうやっても逃げられないんじゃ……」

「話はあとだ。とにかく早く渡ろう。そなたの言う通り、大雨のせいで傷んだ橋が崩壊する可能性も──」

 その瞬間、ドゴォーーーン!と、破裂音とも打撃音とも言えない、強烈で不吉な音が橋のほうから響いてきた。そして……。

 解体工事の現場のような音を立てて、橋が、崩れた。

「た、大変です! 橋の支柱に大岩混じりの土砂流が当たり、橋が……崩壊しました!」

 部下らしき男が、顔面蒼白で獅子の男に報告する。

 あまりの事態に、未知流は(この人も美形だな。この世界美形しかいないのかな)と現実逃避していた。

「止まらないで駆け抜けていたら、落ちる前に渡れていたのでは……」

 周囲から、ため息が漏れる。

「……いや、渡っている時に落ちた可能性もある。迂回しよう。あまり使われていないルートだが、吊橋が川下にある。そこを目指そう」

 獅子の男が力強くそう宣言する。

(もしかして……私のせいにされないように庇ってくれた?)

そう思った瞬間、このぶっきらぼうな男が、少しだけ優しく見えた。


 *****


 未知流たちが川下ルートに進路を変えたその少し後。

未知流を追う謎の軍勢は、崩落した橋に到達していた。

「これは……。渡りきったあと、橋を落として追撃を逃れようとしたのだろう」

「そうだな。未来視では、奴らは間違いなくここを渡った」

「いやまて。奴らが橋を落とすなどという予知は、聞いていないぞ」

「稀人には未来を変える力が……」

 謎の軍勢は、喧々諤々と揉め始める。

予知に頼り切った彼らには、自分で判断するという発想がなかった。

たくさんの可能性を示されて混乱した末に、彼らが選んだのは──いつも通りの答え。


「予知の通り、奴らはここを渡ったはず。橋を修理して追撃しよう」

その間に、別ルートを行く未知流たちは、静かに遠ざかっていった。

この選択が、この世界の“決定された未来”を初めて狂わせたことを──まだ誰も知らない。


初回だけ7章まで投稿します。それ以降は、夜20時に定期的に1話投稿の予定です。

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