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44-4・セラフの秘策~ゲンジの新スキル~美穂退院

 セラフがゲンジへの牽制を妨害するなら、先にセラフを沈黙させてから、ゆっくりとゲンジの妨害に向かえば良い!


 セラフ(麻由)は闇の矢を連射して牽制するが、バルミィはレーザー剣を振るって弾き飛ばす!通常矢に混ぜて蜘蛛の巣状に変化する矢を放つが、バルミィは真っ二つに切り裂いていく!


「理力を妖力に変換したのは見事ばるっ!

 でも、1/10の威力じゃボクを止めることなど不可能ばるっ!」


 光る蜘蛛の糸ならバルミィの動きを絡めて止める威力があるだろうけど、出力不足の闇の蜘蛛の巣は、それほどの拘束力も無い!


「・・・でしょうね!

 だから、理力の無駄使いを覚悟で、1/10の攻撃を続けました!

 ミンメィさんに、これが限界と思っていただく為に!」

「ばるっっ!?」


 セラフはエンエンラのキーホルダーを召喚して、プロテクターの丹田部に引っ掛けた!そして、弓矢を構え、体内の理力を爆発的に高める!発した理力はエンエンラのキーホルダーに吸収され、先程までとは比較にならない大きな妖力に変換されて、セラフの全身を包んだ!


「はぁぁっっっっ!!天の曼荼羅っ!法雨っっ!!!」

「ばるっ!!!?」


 セラフが放った闇の矢が、バルミィの頭上高くで停止して、曼荼羅を形作って闇の雨を降らせた!両腕でガードをするバルミィ!先程までの1/10の威力とは別格の無数の雨が、バルミィの動きを止める!しかし、それだけでは終わらず、もう1本の矢を、今度はバルミィの真下の地面に向かって打ち出した!


「地の曼荼羅っ!蓮華っっ!!!」


 今度は地面に曼荼羅が出現して、闇の花弁が舞う嵐がバルミィを包んだ!天からの闇の雨と、地からの闇の嵐!これは、セラフがサトリとの特訓で、「旋回時以外のウルティマバスター」を破る為に編み出した技!真上と真下からの同時攻撃で対象を包んで閉じ込める!


「ばるるぅっっっ!!!」


 天地の曼荼羅・毘嵐!2つの攻撃に挟まれたバルミィは全身にダメージを受け、曼荼羅が消えた地面に墜落をする!

 そして立ち上がろうとしたところで、セラフに小太刀の切っ先を突き付けられた!


「・・・ばっ、ばるぅ。ボ、ボクの・・・負け・・・ばる。」

「はぁ・・・はぁ・・・こ、これで、1回死亡・・・ですね」

「もっと効率良く妖力に変換できたってのに、隠していたばるか?

 今の攻撃、1/10なんかじゃなかったばるよね?」

「はい、まだ変換には慣れていませんが、エンエンラを媒介にすれば、

 3/10くらいの出力で、技を撃つことができます」


 昨日の夜、麻由が最初に試した変換は魔力だった。理力をジャンヌに送って懐中時計で変換するのではなく、麻由が直接魔力を発生させた場合、ジャンヌにどう影響するのかを試してみた。ジャンヌ曰く、エネルギー効率が悪く、普段の1/10程度の魔力しか供給されなかった。自力で変換をする場合、魔力でも妖力でも、今の未熟な麻由では9割がロスになることが証明された。

 これでは使い物にならないと暗礁に乗り上げたのだが、麻由は「以前、化け提灯に理力を吸収されたこと」を思い出した。あの時、妖怪は麻由の生命力を効率良く妖気に変換していた。ならば、妖怪を経由すれば理力から妖力には、スムーズに変換できるのではないか?数日前(サトリ戦の数日後)に封印したエンエンラを変換装置にして試してみる。結果は、ロスを7割に抑えられて妖力に変換できた。理力の無駄使いに変わりは無いが、1/10に比べれば充分に使える変換率だ。

 ただし、いきなり、この変換システムを使えばバルミィに警戒をされてしまう。だから最初は、ロスの多い「自力変換」でバルミィに「恐れる必要は無い」と思い込ませたのだ。


 余談だが、紅葉は「麻由を汚したジジイ共の妖怪」は全て受け入れ拒否をして地獄に追い返した。しかし、麻由はちゃっかり、マンションの管理人さんに憑いていた妖怪を獲得していた。そして、麻由が得たジジイ妖怪は、キーホルダー化して麻由の腹にベッタリとしがみついて、もの凄く頑張っている。麻由は、老人との恋愛は卒業したが、老人への甘さはまだ捨て切れていないらしい。


「ばるっ!協力的な変換システムを得たってワケばるね」

「はいっ!エンエンラは、私が所有する妖怪の中で最も協力的です」


 余程消耗したらしく、脱力して地に片膝を落とすセラフ。変身が強制解除されて麻由の姿に戻った。敗北したバルミィが立ち上がり、麻由に手を差し出す。


「ボクを“死亡”させるなんて、お見事ばるよっ!」

「私は29回も死亡したのに、体力を使い果たして、やっと1回です。

 それに、ミーメさんは、私たちのレベルに合わせて、

 分身やフリーズ光線を使っていませんからね。

 これが実戦だったら、まだまだ適いませんよ」

「こ~ゆ~時は、難しく考えないで、素直に喜んだ方が可愛げがあるばるよ」


 バルミィが差し出した手を掴む麻由。確かに麻由が言うとおり、美穂から「殺さない程度の手心は加える」を課せられているバルミィは、この模擬戦で手札を半分も出していない。

 だが、それは麻由も同じ。麻由は通常の1割~3割の出力で戦い続けた。これが模擬戦だから緊張せずに戦い抜けただけで、実戦になったら、いつもの逃げ腰に戻るのかもしれない。「光以外の力を使う」って課題クリアの為に、いつもより挑戦的だった面もある。だけどバルミィは、真価を発揮し始めた麻由を頼もしく感じる。


「とぇぇっっ!!」 「ハァァッッ!!」


 バルミィが「1回死亡」してセラフが戦闘継続の体力を失った一方で、ゲンジ(紅葉)とマスクドジャンヌの激突が続いていた。現在、3戦目になるのだが、ジャンヌは2回死亡した代わりに、ゲンジの薙刀の変化を把握した。通常時は、薙刀にゲンジの妖力が伝わって攻撃力が強化された状態。ジャンヌは、それだけの変化だと思っていた。しかし、ゲンジが妖力で支配した薙刀は、インパクトの瞬間に変化をした。ゲンジの攻撃的意志に応じて、刀身に妖力が集中して、刀身を一回り大きくした妖気の刃になったり、石突きを鉄球のような形に覆うのだ。


「実物(薙刀)をギリギリで避けたり、切っ先を剣で当てて受け流しても、

 私には見えない妖気の刃を受けてしまう」


 ジャンヌは、薙刀を大きく回避するか、柄を強く叩いて弾かなければならず、隙を突いた反撃が数テンポ遅れて、薙刀のリーチの内側に入るタイミングを失う。

 ゲンジが今までのように、技術無視で薙刀を棒のように振り回しているだけならば付け入る隙はあった。しかし、振り回し方を学び、スキルが劣る弱点を攻撃力で補った結果、超攻撃型防御で相手を踏み込ませない戦法が成立したのだ。

 紅葉は、考えた末に、この闘方に辿り着いたワケではない。紅葉の大雑把さと攻撃的な性格が「薙刀に内蔵された妖力を、インパクトの瞬間だけ変化させる」という対戦者には読みにくい闘方に辿り着いたのだ。


「くっ!これでは攻められない!!」


 攻めあぐねたマスクドジャンヌは、後退で間合いを空け、6本のナイフを抜いて、ノイエ・ペティ・ディアブル(黒炎の小悪魔達)を発動させて飛ばした!不規則に飛ぶ6本のナイフが、ゲンジに襲いかかる!更に、タイミングを図ったジャンヌも、剣を上段に構えてゲンジに突進をする!


「んぁぁぁっっっっっっ!!!」


 ゲンジは防御主体の下段で構え、6本のナイフを迎撃!妖気で大きく作られた刀身や石突きに弾かれ、ナイフは次々とゲンジの足元に落ちた!ゲンジが突き出した巴薙刀と、マスクドジャンヌが振り下ろしたフィエルボワソードが激突!ゲンジがナイフに対処した分、ジャンヌの攻撃の方が僅かに早く、ゲンジの薙刀はジャンヌには届かずに弾かれてしまう!しかしゲンジは、ジャンヌが懐に飛び込んでくるより早く、薙刀を弾かれた衝撃と遠心力を利用して掌で柄を廻し、妖気で鉄球化した石突をジャンヌに振り下ろした!


「・・・くっ!」


 慌てて、刀身で薙刀を受け止めるマスクドジャンヌ!強い衝撃で手が痺れ、手から離れた剣が弾き飛ばされる!丸腰になったジャンヌに再突進をするゲンジ!


「んおぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 素早く後退して距離を空けようとするジャンヌ!勢いを付けて突進をするゲンジ!2人の間合いが縮まる!


「これで、3回目死亡だぁぁっっっっ!!!!」

「ちぃぃっっっっ!!」


 マスクドジャンヌは、咄嗟にオラクルフラッグ(先端が槍状の旗)を召喚して、旗に纏われた魔力で薙刀の妖力を相殺しつつ、穂先をゲンジに突き出した!長物同士の戦いを想定せずに猪突猛進していたゲンジは、慌てて回避をするが大きく体勢を崩して、石突きを脇腹に叩き込まれる!だが、ジャンヌの攻撃が浅かったので、直ぐに体勢を立て直して構えた!


「・・・・・・・んぁ?」


 ジャンヌは構えていない。石突きを地に着けて大きく息をついた。


「これで、私の3回死亡・・・だ」

「ほへぇ?」

「あくまでも、我が剣と、ク~チャンの薙刀の勝負。私の反則負けです。

 無我夢中で、オラクルフラッグを召喚してしまった時点で私は死亡ですね」

「んぁぁっっ!あぁ、そっか!

 ん~~~~~~~~~・・・な~んか納得できなぃけど、まぁぃぃや!

 よしっ!そんじゃ4戦目やろっ!

 あと4回勝たなきゃタイにならないんだから、先は長いなぁ~」

「いえ、対戦はこれで終わりです」


 ジャンヌはオラクルフラッグを消して、変身を解除。ゲンジはマスクの下でポカンと口を開けて眺める。


「ほへぇ?なんで?ァタシ、まだ戦ぇるょぉ」

「私もまだ余力は有ります。しかし、これ以上は、戦う意味が無くなりました」

「んぁっ?」

「私の剣技では、クーチャンの薙刀を破る術が無い。

 たった一日で、よくぞここまで・・・。

 それに、ナイフを併用した7連撃を耐えた紅葉なら、

 おそらく、幽姫の剣技にも対抗できるだろう」

「うへっ?ァタシ、昨日、7回死亡したのに、まだ3回しか勝ってないぢゃん!

 ジャンヌの剣技がダメってなら槍を使ってもイイから、もぅ少し戦おっ!」


 これは、ゲンジが、薙刀で剣と対する為の模擬戦だ。だから、ゲンジが「ジャンヌは手を抜いてる」と不満に思う気持ちも解らなくはないが、課題はクリアになり、これ以上は戦いを続ける意味は無い。

 麻由とバルミィが合流してきて、麻由がバルミィとジャンヌに礼を言い、バルミィとジャンヌがゲンジと麻由の成長を讃える。まだ戦い足りないゲンジは少し不満そうだったが、褒められて機嫌を直し、変身を解除した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 撮影していた真奈が、互いをねぎらう紅葉&麻由&バル&ジャンヌを見て、無言で録画を止める。4人を見ていると、妙な焦燥感に駆られる。真奈は紅葉を「呑気」と罵倒したが、紅葉は結果を出そうとしている。新参で時々お荷物扱いだった麻由は着実に成長している。愉怪メンバー内で自分だけが非戦闘員。ジャンヌのオマケ。そんなの、前から納得しているのに、最近、自分の置かれている立場に不安を感じる。


(こんなの、イヤ。私も・・・美穂さんの力になりたい)


 様々な根源の力を操れるようになった麻由だけが、妙な気配に気付いた。


「!?」


 麻由は笑顔を消して、真顔になって周囲を見回す。しかし“様々な根源の力”には、まだ慣れておらず、気配は直ぐに消えたので、どこから発生した何の力なのかも解らない。


「んぁっ!ど~したの、マユ!?」

「い、いえ、気のせいだったみたいです」


 麻由は再び周囲を見回すが、何も感じ取ることが出来ない。運動公園周辺は、先程までと同様に静けさに包まれている。

 昨日は、惨敗をした紅葉と麻由の機嫌が悪くて、特訓後は口数少なく真っ直ぐに帰宅した。だが本日は、特訓に付き合ってくれたお礼を兼ねて、紅葉と麻由からのラーメンおごりの後に解散となる。紅葉は大盛り10人前を食し、麻由は「寝る前だから食べ過ぎは美容に悪い」って理由で大盛り8人前で控えた。




-翌日・文架総合病院-


退院する美穂を、愉怪メンバーが迎えに行く。ロビーで待っていたら、美穂が元気な表情で寄ってきた。


「んぁっ!ミホだっ!」

「みんなで迎えに来たのか?大げさだな~。

 そもそも、入院するほどでもなかったのにさっ」

「入院、お疲れ様でした!」

「寝てただけ。なにも疲れてね~よ。

 まぁ、病室じゃビールが飲めないんで、精神的には疲れたけどな」

「美穂さんってば、また、そんなことを!不摂生はダメですよ!」

「はいはい、気を付けるよ、副部長!」


 美穂を中心にして、紅葉&真奈&バルミィ&麻由&ジャンヌが並んで病院を出る。

 美穂は、毎日、バルミィが持ってきた動画を見て特訓の成果を確認していた。昨夜の出来は満点以上。いくら手加減をしたとは言え、麻由がバルミィに勝つとは思っていなかった。紅葉が薙刀に妖力を内蔵させた超攻撃的防御も、美穂には想像できなかった手段だ。美穂は、幽姫にあしらわれた紅葉がカッカしないように、薙刀の初歩を教える程度の事しか考えていなかった。だけど、これで刃吾幻の剣をある程度は無効化できそうだ。

 以前から、紅葉の攻撃的な才能や麻由の潜在力には一定の評価をしていたが、僅か数日で随分と開花したものだ。まだ、詰めが甘いところは多々あり、紅葉や麻由との単体の勝負なら、美穂はネメシスVで搦め手から攻めて勝つ自信がある。


「だけど、2人が組んで良い方向で噛み合ったら、

 もう、敵わないかもしれないな」


 美穂の呟きを聞き逃さなかったバルミィが、美穂と並んで囁く。


「ばるっ?美穂らしくない言い方ばるね?入院して弱気になっちゃったばるか?」

「んっ?弱気じゃなくて正当な評価・・・な。

 調子に乗ると悪いから、アイツ等を直接褒める気は無いけどさ」

「確かにドンドン強くなってるばるっ。

 でも、そのうち慢心して、また落とし穴に落ちそうばるね」

「確実に落ちるだろうな。でも、それで良いんじゃね?

 這い上がれるように、あたし達がフォローしてやれば良いんだからさ」

「落ちないように注意するんじゃなくて落ちるの前提ばるっ!?

 相変わらず、優しいけど厳しいばるね!」


「え?美穂さん、ミーメさん、何か言いました?」

「うん言った!麻由の“おごり”で、飯を食いに行こうって!」

「えぇぇっっ!!!またですか!?なんで私が!!?」

「い~のい~の!あたしの退院祝いだろ!気前よく祝ってもらうよ!」

「・・・え~~~~~~~~~~~。」


 自信は付けても、美穂の前では麻由は以前の麻由のまま。祝賀会の会場はショッピングモールのフードコート。ドエスな笑みを浮かべた美穂が先頭を闊歩して、隣をバルミィが歩き、紅葉&ジャンヌがその後から続いて、麻由が苦笑いをしながら付いていく。


 そして、美穂とバルミィの会話に聞き耳を立てていた真奈は、羨ましそうな表情で麻由の背中を見つめていた。

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