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44-3・17時間睡眠~タッグ模擬戦2日目

-翌朝・サンハイツ広院-


「・・・んぁっ?」


 空腹を感じた紅葉が起きて掛け時計を見たら、7時を示していた。薙刀の特訓を終えて、疲れ果てて、風呂にも入らず、ベッドに突っ伏すようにして眠ったのは、深夜の2時過ぎだった。昨日は10時まで寝ていたことや、遅くまで自主練をしていたことを考えると、かなり健全な時間の目覚めだ。「何か」を掴みかけてテンションが上がってる為か、寝足りないって感じでもない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれぇ?」


 でも、何かオカシイ。窓越しに見える景色が薄暗い。真冬じゃあるまいし、朝の7時が薄暗いなんてどういうこと?針時計の示している時間がオカシイのかな?紅葉は、首を傾げながら、枕元に置いてあったスマホで、時間を確認してみる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・げっ!」


 只今の時刻は19時。


「17時間も寝てた?ウソでしょ?有り得ない!新手のドッキリ的なヤツ!?」


 針時計とスマホの時間を操作して、何らかの力で窓の外を薄暗くして、起きたら夜で慌てまくったところで、「ドッキリ」って看板を持った芸人が部屋に入って来て、みんなで笑い物にするってパターンだろうか?

 紅葉が慌てて部屋から飛び出して、リビングに駆け込んだら、有紀ママと帰宅したパパが食事をしていた。テレビでは、19時のニュースが流れている。


「あら、紅葉、お帰りなさい」

「んっ!ただいまっ!!・・・て、違うっ!どこにも出掛けてないっ!

 ママ、ヒドい!何で起こしてくれなかったのぉっ!」

「・・・はぁ?何のことよ?」

「いくら春休みだからって、晩ご飯の時間まで放置しなくてもイイぢゃん!!」

「えぇぇっっ!まさか、ずっと寝てたの!!?」


 これにはママもビックリ。一日中、静かだったので、てっきりいつものように、家族に気付かれないように部屋に居るフリをしてベランダから出掛けたのかと思っていたら、驚いたことにずっと家の中に居たらしい。ママは数秒間の呆れ顔の後、みるみる眉間にシワを寄せて、仁王様のような表情に変貌していく。


(あ~~~~・・・ヤバい、これ“ドッキリ的なヤツ”ぢゃない。

 ガチで17時間寝ていたんだ)


 直ぐさま「たるんでるっ!」とカミナリが落ちて、お仕置きのフルコースを覚悟した紅葉だったが、パパが苦笑いをしながらママの手を引いて、「ま~ま~」と宥めてくれた。崇と有紀は紅葉が正念場なのは知っている。有紀は「両立させてこそ」と考えるが、崇が「大事な時期なんだから他がルーズになるのは目をつぶろう」ってスタンスで有紀を抑えたので、今回は怒りを収める事にした。


「次からは気を付けろよ、紅葉」

「んっ!気を付けるっ!」

「朝も昼も食べずに寝てたんなら空腹なんだろ?

 夕食に間に合って良かったな。シッカリと食べなよ」

「崇さんっ!また、そうやって、紅葉を甘やかすっ!」

「ま~ま~、ママも落ち着いて。

 次からは気を付けるって言ってるんだから、今日は大目に見ようよ」

「全くもうっ!今日だけよ!サッサと食べちゃいなさい!」

「んっ!いただきま~す!」


 不覚にも、朝食も昼食も食べられなくて、1日ぶりの食事だ。紅葉は、目に映る物の全てを胃に放り込む勢いで貪り食べた。




―朝まで遡って美穂の病室―


 病棟の朝は早い。6時に起床メロディがスピーカーから鳴り響き、看護師さんが担当の病室を回って、患者達の体温・血圧を診る。美穂の体温は37,6℃で、血圧は正常範囲。抗生剤点滴が効いたのか昨日よりマシだが、まだ正常とは言い難い。最低あと1日は入院だろうか。


「・・・・まずっ」


 7時には朝食が配られる。パンがパサパサで牛乳ちゃんと冷えてなくて、おかずは薄味すぎ。口に合わなかったが、熱が下がって食欲が湧いたので「栄養補給」と割り切って完食した。その後しばらくすると、病棟担当医の回診が始まる。


「順調に回復してるね。栄養と休息をしっかりね」

「はい」

「明日の採血の結果次第で、退院しても大丈夫だよ」


 名札に助教授の肩書きある50歳くらいの主治医は、必要事項を告げて微笑んでから、研修医達を引き連れて病室を去る。賑やかだった個室が元通り静かになった。スマホを見たら10時過ぎ。さすがに、もう眠くない。スマホでゲームでもやりたいが、充電器を持ってきてないから必要最低限の事にしか使えない。


コンコン

「ん・・・・・どうぞ~っ」

「美穂さん、おはようございま~すっ!!」

「真奈、来てくれたんだ?」


 面会時間開始から間を置かず、私服の真奈が満面の笑顔で入ってきた。ウインドブレーカーにTシャツは普通として、まだ朝晩は肌寒い季節なのにショートパンツで、健康的な色気を強調している。ここ来るまで、何人の男がガン見しただろう?


「美穂さん、具合どうですかっ!?」

「ああ、だいぶ良いよ」

「ホントっ!?良かったぁ~っ!!

 お弁当、作って来ましたっ!!

 しっかり食べて、早く元気になって下さいっ!!」


 真奈はトートバッグから包みと水筒を出して、ベッドに備え付けの長テーブルに置いた。


「え?・・ああ・・・サンキュー」


 礼を言って布巾の結び目を解いて蓋を開ける。筍ごはん・鮪の照り焼き・ブロッコリーやニンジンやアスパラ等の温野菜盛り合わせ・ひじき煮。実に健康的なメニューだ。


「へぇ・・・こんな家庭の味みたいな料理は久しぶりだな」

「どうせいつもは、揚げ物みたいなのばっかり食べているんでしょ?」

「まぁ~な。・・・オマエが作ったのか?」

「えへへへへっ!」


 美穂は「いただきます」と言って筍ごはんを一口食べる。味気ない病院の朝食と比べて、数倍は美味しく感じる。


「皆、どうしてんだろ?」

「麻由ちゃんは午前中は部活動ですね。ジャンヌさんは教習に行くそうです」

「そっか。バルミィは警察の手伝いかな?・・・紅葉は?」

「紅葉ちゃんは、LINEしたけど返信が来ません。」

「そっか~・・・奴のこったから、まだ寝てたりしてな」←正解

「あははははっ」


 会話をしながら完食。布巾で包んで礼を言いながら返したら、真奈は満足そうに微笑んで受け取る。


「真奈も、自分の事ちゃんとしろよ。朝っぱらから、あたしに構ってないでさ」

「はい、私も帰宅後は自学をするつもりです。退院の予定はどうなんですか?」

「うん。まあ、熱も下がったし・・・明日には退院かも」

「そっか~、早くても明日なんですね。

 何か差し入れして欲しい物はありますか?」

「う~ん、なら、参考書を数冊と、100均で買えるようなスマホの充電器。

 何の準備もしないで入院しちゃったから、ヒマすぎてさ」

「なら、今から買ってきますよ」

「いやいや、そんな急じゃなくても良いって」

「こんな時くらい、頼って下さいっ!」

「そっか・・・じゃ、頼む」


 いつも仕切ってる美穂がリタイアしたことで、仲間達が美穂に頼りっぱなしにならずに“自分に出来る事”を模索している。真奈は“自分に出来る事”を美穂のサポートと決めたのだ。美穂は口では遠慮をしつつ、メンバー内に常識的範囲で動く一般人が居てくれることを有り難く感じた。




-数時間後・運動公園-


 昨日と同様に、ゲンジ(紅葉)とセラフ(麻由)が並び、向かい合わせでHAバルミィとマスクドジャンヌが立つ。

 強いて昨日との違いを上げるなら、ゲンジは露骨にソワソワしており、セラフは所作からして自信に満ちている。非戦闘員の真奈が見ても「あ、こりゃ、なんか有るな」と解ってしまう。昨日の今日で“何か”を思い付いたのは大した物だが、駆け引きが下手すぎるというか、切札を準備したなら悟られないように上手に隠してほしい。これが命を掛ける死闘ならば、バルミィ&ジャンヌは警戒をして「紅葉に対しては手の内を早めに使わせる」「麻由に対しては手札を出す前に仕留める」作戦で戦うだろう。

 だけど、模擬戦だし、紅葉と麻由を鍛えるのが目的なので、あえて正面から“何か”を受け止める事にした。


「行きますよ!」 「んっ!」

「受けて立つ!」 「ばるっっ!」

「よ~い、どん!」


 撮影係の真奈のかけ声を合図にして、模擬戦闘を開始した途端にゲンジは“何か”を発揮する!装備した巴薙刀の刀身と石突きが妖気に覆われた!ゲンジから発せられた妖力が、巴薙刀に伝わっているのだ!

 ゲンジが、昨日の深夜の自主練で思い付いたのは、薙刀そのものの攻撃力を妖力で上昇させて、スキル不足を補う戦法。苦手な防御に徹するのではなく「攻撃こそ最大の防御の」発想は実に紅葉ゲンジらしい。


「なるほど!面白い!

 だが、いくら武器が強化されても、スキルが上がらなければ意味が無い!」

「言ったなぁぁっっ!!!」


 剣を構えたマスクドジャンヌが、ゲンジに向かって突進!躊躇無く突き出された薙刀の切っ先を、刀身で弾いた!


「うわぁぁっっっ!!」


 弾き飛ばされ、仰向けに倒れるジャンヌ!ゲンジは素早く踏み込んで、ジャンヌの眼前に薙刀の切っ先を突き付ける!


「はぃっ!ジャンヌ、1回死亡ねっ!」

「・・・なっ!?」

「んっへっへっへ!さぁっ!2戦目、やろっ!」


 マスクドジャンヌは、ゲンジに差し出された手を掴んで立ち上がる。1戦目は、たった一太刀合わせただけで決着が付いた。咄嗟すぎて、ジャンヌには何が起きたのか理解できない。ゲンジの薙刀は間違いなく受け流したはずなのに、次の瞬間には切っ先を喰らって倒されていた。昨日までとは、あきらかに違う。戦闘開始前から、ゲンジが“何か”を試したくてソワソワしていたのは、この攻撃手段を得たからだ。ジャンヌは半歩後退して間合いを空け、今度は慎重に相対する。


「見事です、ク~チャン!俗に言う『3日坊主』と言うヤツですね!」

「んぁっ!!?ソレ、なんか違うっ!」

「ジャンヌさん、それを言うなら、『男子三日会わざれば刮目して見よ』だよ!」


「せっかくスキルアップしても、3日でダメになったら意味が無いばるっ!!」

「はいっ!3日坊主で終わらせる気はありません!!はぁぁっっっ!!」


 セラフ(麻由)が、飛び回るHAバルミィに対して妖気を帯びた矢を次々と連射する!昨日は、何か良く解らない曖昧な矢が弓から離れた途端に消滅をしていたが、今日は明確なる“闇の矢”が形を整えたまま飛んでくる!


「あの子(麻由)、今日は迷いが無いばるっ!」


 セラフの丹田には、直径10センチくらいの闇の玉が浮かんでいた。セラフの理力が闇の玉に注ぎ込まれ、妖力に変換されてセラフを覆っている!

 昨日の夜、麻由は、理力を別の根源の力に変える手段を考えた。紅葉は妖力を光に変換し、ジャンヌは理力を魔力に変換している。つまり、前提として、理力を別の力に変換するのは可能。あとは「どうやって変換するか?」である。麻由は「理力の変換」をイメージして、Hスマホに書き込んで召喚をした。「変換は可能」という自信はあったので、変換装置は出現したが、明確な形はイメージできなかったので闇玉の形で召喚された。麻由は自力で理力を妖力に変換できるようになったのだ。ただし、まだ不慣れなので、妖力への還元率は1割程度。10の理力を使用した場合、9の理力が変換時のロスとして消失されてしまう。


「それでも、何も出来なかった昨日よりはマシ!」

「パワーの無駄遣いだけど・・・

 パワーが潤沢で、器用にコントロール出来る麻由なら、

 充分に使いこなせる戦い方ばるねっ!」


 セラフは、絡新婦のキーホルダーを召喚して弓に引っ掛け、矢を射る!放たれたうちの何本かの矢が、闇色の蜘蛛の巣になってバルミィの飛行進路を阻む!バルミィは宙高く飛んで回避!


「これじゃ、紅葉達が嫌がる攻撃ができないばるっ!」


 空から見渡せるバルミィには、ジャンヌがゲンジに苦戦しているのも把握できる。ゲンジとセラフが長所を伸ばした現状では、バルミィ&ジャンヌにとって、この組合せは悪手だ。教科書通りの、接近戦が苦手なセラフにジャンヌで、接近戦しか出来ないゲンジにバルミィの組合せに変更しなければならない。


「チョット、舐めすぎていたみたいばるっ!」


 バルミィは、ゲンジをジャンヌから引き離すべく、右手甲の砲門をゲンジに向ける!しかし、セラフの闇の矢が飛んで来て、狙いを定めさせてくれない!一方もジャンヌも、ゲンジを振り切って対戦者をセラフに変えたいのだが、ゲンジが纏わり付いて離れることが出来ない!


「にぃ~っひっひっひ!マユのところにゎ行かせなぃょっ!」

「・・・くっ!」

「私と紅葉では、ミーメさんとジャンヌのようなコンビプレーは不可能です!

 だから、お二人を連携させないことが、私たちのコンビプレーですっ!」

「・・・ばるっ!」


 「ならば」と光弾でセラフを牽制するが、ハナっからバルミィとの距離を空けているセラフには、楽々と回避されてしまう!レーザー剣を発生させてセラフに接近をしても、セラフは小太刀で防御に徹してバルミィを寄せ付けない!バルミィが接近戦に拘ると、セラフは小太刀にカマイタチのキーホルダーを取り付けて至近距離から真空波を放ってくるので、バルミィは距離を空けなければならない!接近戦では“余計な動き”をしなくなったセラフに隙は無い!

 セラフ(麻由)は、それぞれが“制約あり”の模擬戦では、「自分が、理力以外の特殊スキルを使えれば、圧倒的に有利になる」と予想した。やはりその通りだ。


「麻由は小回りが利いて防御に使える小太刀しか使わないばるか!」


 接近戦が苦手なセラフは薙刀を捨てて、弓矢による攻撃と小太刀による防御にしぼってきた。カマイタチの真空波すら、バルミィを退けるための防御手段にしか使わない。これが「昨日は静薙刀をまるっきり扱えずに、29回も死亡したセラフが辿り着いた答え」である。バルミィから見ても、セラフの選択は(珍しく)正解だ。

 攻撃が苦手なセラフは「敵を倒す力」を発揮するには時間が掛かる。だが、「紅葉のサポート」と考えた途端に、その才能が開花をしたのだ。


「たった1日で、ここまで成長するなんて、大した物ばるね!

 だけど、まだ穴だらけばるっ!

 麻由の発想に免じて、今までは回避してきたけど、

 その闇の矢には、たいした攻撃力は無いばる!

 実戦では、使い物にならないばるよっ!」


 HAバルミィはレーザー剣を構えて、セラフに向かって一直線に飛行する!

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