表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
95/105

44-1・美穂からの依頼~無意味な特訓

 真奈は、大きな目に涙を浮かべながら小走り去って行ってしまった。

面食らった紅葉は、しばらくボケッと真奈の後ろ姿を眺めていたが、我に返って追い掛ける。「負けたら、皆が戦う力を失う」ってことは、(紅葉なりに)重く受け止めている。だから特訓をしている。美穂がダウンして今日は特訓を出来ないことは「どうしよう?」と(紅葉なりに)悩んでいる。全部を上手くは説明できないけど、真奈に解って欲しい。


「んぁぁっっ!待ってょ、マナぁっ!!」


 真奈は「美穂の目覚めを待って待機中なので、病院の外までは追ってこないだろう」と予想していたのに、紅葉が追いかけてきた。


「・・・くっ!!」

「待ってったらぁ~!!ちょ、聞こぇなぃのぉ、マナ!!?」

(き、聞こえてるって!うるさいなぁ!)


 真奈が苛立ちながら小走りをすると、紅葉が小走りでくっついてきた。真奈は紅葉を振り切る為に、徐々に駆け足になるんだけど、紅葉も駆け足で付いてくる。ダッシュで逃げたいが、ダッシュ勝負になったら運動神経のみが異常発達した紅葉には勝てるわけがない。


(なんで追いかけてくるの?こ~ゆ~時って、ただ黙って見送るんじゃないの?

 それで、あとから『色々考えたんだけど私が悪かった。ごめんね』とか、

 『こっちこそ言い過ぎた』って感じで、仲直りするパターンじゃないの?

 そ~ゆ~KYなところが余計にムカ付くのっ)


 麻由&バルミィ&ジャンヌは、唖然とした表情で真奈と紅葉の追い駆けっこを眺めている。


「さ、さすがは紅葉です。

 私だったら、あの剣幕で怒鳴られたら追えません・・・ね」

「でも、麻由も、最初は紅葉を拒否していたのに、

 あのKYっぷりに押し切られたばるよね」

「なるほど・・・『馬鹿に付ける薬はない』ってことですね」

「ジャ、ジャンヌ・・・そ、それは、正解と言えば正解ですが、

 私は紅葉をバカにしているわけではないのよ」

「正解・・・ばるか?そ~ゆ~のは、思っていても言っちゃダメばるよ」


 麻由は、誰よりも美穂依存が強い。生徒会長の立場上、朝礼で美穂が倒れた時は平静を装ったが、内心ではメチャクチャ動揺していた。実は、渡された成績表で、どんな評価をされていたのかすら覚えていない。

 麻由が汚れた交際を告白した時に「美穂がワザと憎まれ役をやって場を納めたこと」を後にバルミィから聞いた。紅葉は特訓に付き合ってもらって、美穂の世話になりっぱなし。美穂のダウンの原因は、「自分達が負担をかけすぎているから」と気付いている。


 麻由の鞄の中のスマホがメール着信音を鳴らした。確認をしたら差出人は美穂だった。麻由はメッセージを見て「なるほど」と感心して、バルミィとジャンヌに見せた後、「承りました」と返信をする。


「2人を追いましょう」

「さすがは美穂ばるっ!」

「ふむ、えげつないですね」

「『えげつない』ではなく、『抜かりがない』です。

 ・・・まぁ、『えげつない』でも間違ってはいませんが」

「ま、間違ってない・・・ばるか?そ~ゆ~のは、思っても言っちゃダメばるよ」


麻由&ジャンヌ&バルミィは、紅葉達を追って走り出した。


「マナぁぁっ!!止まってよぉ~!!聞こぇなぃのぉ~~~!!?」

(だから、聞こえてるって!!)


 真奈と紅葉の追い駆けっこが続いている。追ってくるのは、まだヤサグレてた頃の美穂にウザがられても、いじけていた麻由に精一杯拒否されても、纏わり付き続けたウザ懐っこい強者だ。真奈では振り切ることはできない。やがて、真奈が赤信号に引っ掛かり、信号無視をしようと思ったけど車が通過したので足止めを喰らったところでに追い付かれてしまう。


「あ~っっ!もうっ!!何でこうなるのっっっ!!?

 なんで追っ掛けてくるのよっ!」

「んぁっ!?マナが逃げるからだっ!!」

「私は逃げてなんかいないっ!」

「すっげー大声で呼んでたのに聞こぇなかったのぉ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 紅葉を相手にしてるとペースが崩れる。気が付いたら東中学校前。病院からここまで1キロ近く早足の追い駆けっこをしていたことになる。しかも、麻由&バル&ジャンヌも、紅葉を追って付いて来た。啖呵を切って駆け出したのに、即座に全員に追い付かれて、もの凄く“ばつが悪い”気分だ。


「ァタシだって、責任ゎ感じてるってばぁ~!」

「だったらどうするの!?

 紅葉ちゃんは『頑張る』『勝つ』ばっかり言うけど、

 具体的にどうするかが何にも無いじゃん!」

「だから、今日からゎバルミィと2人で特訓をっ・・・」

「美穂さんのアドバイス抜きでどうにか成るの!?

 あと4日しか無いんだよっ!!」


 真奈の鞄の中でスマホがメール着信音を鳴らした。「もう、こんな時に!」と愚痴をこぼして、イライラしながら確認をしたが、急に憑き物が取れた表情になった。メッセージ送信者は美穂だ。


 〈愉怪な仲間達部への依頼 

  紅葉の特訓を引き継いでくれ。

  部長が体調不良で参加できないので、副部長に依頼をする。

  なお、この依頼は、既に生徒会長からの許可はもらっている。

  依頼人・2年C組 桐藤美穂〉


「これは一体?」


 事前に依頼メッセージを受け取って許可をした麻由が、説明を付け足す。


「見ての通り、優麗高の生徒からの、愉怪な仲間達への依頼です。

 事前に、私のところに依頼が来て承ったので、正規ルートの生徒会経由ですよ。

 どうしますか、副部長?私は副部長の指示なら従います。

 依頼を受けますか、お断りしますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 真奈は黙り込んでメッセージを何度も読み返す。1人で苛立っていたのが恥ずかしくなる。紅葉への怒りが収まったわけではない。美穂と麻由に上手く丸め込まれてしまったように感じる。だけど、愉怪な仲間達の発起人&副部長として、尊敬する美穂に頼られた立場で、断る理由は思い付かない。


「もうっ!しょうがないなぁ~!

 ここに居る全員、20時に河川敷運動公園に集合!

 これは副部長からの指示だよ!」


 真奈が真剣な眼差しで紅葉を見つめる。


「みんなで、紅葉ちゃんの君を手伝うって言ってるの!嫌だとは言わせないよ!」

「了解ばるっ!」 「20時ですね」 「マスターの指示、承知しました!」


 紅葉は「真奈が怒りを解いてくれた」と感じて微笑んだ。まだ、許してもらえたとは思っていないけど、「特訓を頑張る」と「幽姫に勝つ」で証明してやる。

 一方の真奈は、まだ全部を納得したわけではないので、紅葉の笑顔を少し煩わしく感じて、プイと目を逸らした。


 数分後、病室で安静にしている美穂のスマホがメール着信音を鳴らした。差出人は真奈。「依頼、任せて下さい」のメッセージを見て安堵の表情を浮かべる。


 同時刻、ショッピングモールの本屋で麻由からのメールを受け取った海跳は、もの凄くガッカリしていた。「昨日はありがとうございました。本日からは、先輩の手を煩わせる必要は無くなりました。」と書いてある。今日からは、皆と合流して特訓をするから、海跳の出番は無くなったのだ。策士策に溺れると言うべきか、「偶然遭遇したから暇潰しで手伝う」くらいのスタンスにしたのがミス。素直に「君を手伝わせてくれ」と言えば、今日も呼んでもらえたかもしれない。




-夜(刃吾幻との初戦から3日経過)-


 紅葉&麻由&真奈&バル&ジャンヌが、運動公園に集合。麻由が「いきなり激しい特訓をするのは体に負担が掛かりすぎる」と言い出して、先ずはストレッチとジョギングから開始する。


「マユ~~・・・ジョギングなんてしなくてィィよぉ~!早く特訓しよっ!」

「ダメです!先ずはキチンと体を暖めるべきです!」

「真面目すぎ!相変わらず、融通が利かないばるね~!」

「マユユには『廬山の真面目』という言葉を捧げましょう!」

「随分と難しいことわざを知ってるんだね、ジャンヌさん。

 でもそれは『まじめ』ではなく『しんめんもく』と読むんだよ!

 『雄大すぎて本来の姿をとらえがたいこと。

  または、物事の真相を見極めるためには客観的に見ることが大事』

 ジャンヌさんは麻由ちゃんのことを『底が見えないほど雄大』と評価してるの?

 それとも『客観的に物事が見る能力が無い』と凄くバカにしてるの?」


 アップが終わったところで、バルミィがカメラを用意して、真奈とジャンヌが立会人となり、変身をしたゲンジ(紅葉)とセラフ(麻由)が向かい合う。静薙刀を握ったセラフを見たゲンジが、「ちっちっち!構えがなってな~い!」と先輩面して“持ち方や振り方”を伝授したあと、互いの薙刀を構えて模擬戦を開始。


「ふぬぁぁぁっっっっっっ!!!」 「てぇぇぇぇぇいっっっっ!!!」


 互いに直線的に突っ込んで、突き出された互いの切っ先を回避!そのままの勢いで、互いの柄をぶつけて、力による押し合い!パワーはゲンジの方が若干優れており、セラフが徐々に押される!しかし、セラフは半歩身を引いて離れ、石突き側を軽く振るってゲンジの足元を狙う!ゲンジがジャンプで回避をすると、セラフは「待ってました」とばかりに、切っ先側をゲンジに向かって振る!ゲンジは柄で受け止めた!衝撃で軽く飛ばされたが着地と同時に体勢を立て直し、切っ先をセラフ側に向けて伸ばして追撃を牽制する!


「マユ、接近戦、苦手かと思ってたけど、結構やるじゃん!」

「紅葉こそ、体格に合わない長物を上手く扱えるようになりましたね!」


 たった2日間だけど、美穂に薙刀のコツを聞いて特訓を受けたおかげだろうか?ゲンジは、薙刀を自分の体の一部のように扱えているような気がする。一方、接近による乱打戦が苦手なセラフだが、これまでの戦いでそれなりにレベルアップをしたらしく、薙刀を上手く扱えている手応えがある。

 互いに、戦いながら薙刀のスキルが上達していくのが解る。セラフ(麻由)は、美穂の代わりにゲンジ(紅葉)の特訓を買って出ただけのつもりだったが、同等スペックの模擬戦はゲンジだけでなくセラフのスキルアップにも繋がるようだ。2人は再び突進をして薙刀を交える。


 15分ほど、ほぼ拮抗(ゲンジがやや押し気味)した状況で戦った後、5分の休憩を挟んで水分を補給する。休憩時間も無駄にせず、「何処が良かった」「何処を直した方が良い」と情報交換をする辺りは実に麻由らしい。スマホのアラームが鳴って5分キッチリで休憩が終え、第2ラウンド開始。情報交換で得られた「自身の隙」を意識しながら、ゲンジとセラフが激突する。

 再戦まで、本日を入れて残り4日間。「この調子なら、なんとかなりそう」と手応えを感じる。




-文架総合病院-


 特訓終了後、バルミィが美穂の病室を訪ねた。面会時間は終わっているのだが、美穂に窓を開けてもらって部屋に侵入する。美穂は点滴のおかげで、だいぶ楽になった。「ただの過労」だから、当日か翌日の午前中には退院出来ると思っていたのだが、疲れが溜まって風邪を引いたらしく、2~3日入院しなくてはならない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ!」


 バルミィが撮影した“ゲンジとセラフの特訓”を視聴した美穂は、天井を見上げて鼻で軽く笑った。

 先ずは麻由セラフ紅葉ゲンジの攻めに駆け引きが無くて動きが読みやすいから、「上手く捌けているようなつもり」になっているだけ。大抵の敵は隙を突く戦いをする。そして、麻由は接近戦では隙だらけ。美穂が麻由と対戦するなら、最初の数発で徹底的に隙を突いて麻由をビビらせて戦意を削ぎ、手数を少なくしてから容赦なく料理をするだろう。

 紅葉に至っては、第1ラウンドの最初に4~5分だけは美穂の指導が活きているが、その後は型も姿勢もメチャクチャだ。相手がド素人の麻由だから、なんとなく上手く戦えてるつもりになっているだけ。こんな有様では、美穂との特訓の成果は、あっという間にリセットされてしまう。


「・・・全然ダメだ。話にならん」

「ばるぅぅ~~・・・やっぱり、ちゃんと出来てないばるかぁ~?

 美穂みたいな綺麗な動きが、全然できていない気がしたばるよね~」

「2人とも棒を持って暴れてるだけ。小学生がホウキでチャンバラしてるレベル。

 褒められるところが1個も無い。

 このまんまじゃ、根拠の無い自信を持ったダメな子が2人完成する。

 そもそも、紅葉の薙刀スキルを上げなきゃなのに、

 何故、紅葉より下手なヤツが特訓の相手をしているんだ?」

「よく解らないけど、いつの間にか麻由が相手をする空気になっていたばる」


 麻由の意気込みだけは評価してやりたいが、こんなのは特訓でも何でもない。足の引っ張り合いで、お互いに退化をしているだけだ。


「特に麻由。アイツのダメなところがキッチリと出てんぜ」


 美穂は、自分が不在になった場合、次に計画力があるのは麻由だと思っている。だけど、見事くらいに期待外れ。麻由は「美穂と同じ事をする」に捕らわれて、麻由なりの特訓へのアプローチを全くしていない。最近、ようやく「人の背を追う」ではなく「自分に出来る事」をやるようになってきたが、美穂の引き継ぎを意識しすぎて「美穂の背を追う」になっている。


「あの子達なりに、美穂に負担をかけないように頑張ってるつもりばるけどね」

「それは解るんだけどさぁ~。・・・さて、どうしたもんか?

 せっかくやる気になっているのに、全否定をするってのも大人げないよな?

 2人のやる気を削がずに、今の愚行をやめさせる方法・・・」


 美穂は「ゲンジが薙刀の達人になって、薙刀で幽姫を仕留める」ってイメージで特訓をしていたわけではない。1週間の特訓程度では、幽姫どころか美穂を凌ぐこともできないだろう。

 薙刀の特訓は、あくまでも剣の達人の幽姫に対してペースを乱されない動きや防御を身につけてもらう為。消耗度の高い奥義ばかりのゲンジに、敵の様子を探る為の小手先の技術と冷静さを覚えさせるのが目的だ。したがって、紅葉がやるべき課題は、まだまだ沢山ある。

 美穂は、紅葉の上達を見ながら、臨機応変に特訓の方向性を変化させるつもりだった。だが、肝心の自分がこの有り様では、適正な代役が必要になる。そしてそれは、少なくとも麻由ではない。


「なぁ、バルミィ?」

「・・・ばるっ?」

「悪いけど、少し苦労してもらえるかな?

 ついでに、麻由の面倒も見て欲しいんだけどさ」

「構わないけど、何をすれば良いばるか?」


 まだ美穂の脳内で方針が固まったわけではないが、バルミィに「今考えてること」の説明をする。




-翌日-


 今日から春休みだ。紅葉は、10時過ぎに大欠伸をしながら起きてきた。朝食とおやつを同時に食べて、ソファーに寝転がってテレビのワイドショーを見ながら、快適な(?)休日を過ごす。

 昨日の夜、美穂からのグループLINEで「特訓の方針を伝えたい いつでも良いから病室に顔を出せ」とメッセージが来た。どんな方針なのかは気になるが、とりあえず元気そうなので安心をした。体の向きを変えて俯せになり、「何時頃行く?」と仲間達とメッセージのヤリトリをする。


 有紀は呆れ顔で、だらけきった紅葉を眺めている。夜な夜な特訓に出ていることは知っているので、3日後の再戦までは大目に見るつもりだが、4日後に今と同じ有様だったら、ちょいとばかりお仕置きしてやろうと思う。


 同時刻、3時間前に起床をした麻由は自宅で自学に励んでいる。その隣では、ジャンヌが日本語の勉強中。

 杉田邸では真奈も同様に自学をしていた。昨日まではイライラばかりしていたが、やるべき方向性が見えてきたので少し気持ちが安定した。

 バルミィは春休みなんて関係無いので、いつも通りに文架警察署でザックプロテクターの開発に技術協力をしている。

 要は、春休みになった途端にだらけきっているのは紅葉のみ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ